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コンテンツガイド 1月号(テーマ:原風景) 「社会は上演しなければならないーー山崎正和『文明としての教育』から考える」 寺門信

現代人には、無知である自由、無知である権利はない。

 山崎正和『文明としての教育』の帯には、この挑発的な一文が掲げられている。2007年刊行の同書で山崎は、満州での終戦体験を起点に、自身の教育論を展開している。そこで強調されるのが、近代以降の世界を生きるうえで身に付けるべき「型」の重要性だ。
 山崎は「柔らかい個人主義」や「人生10年先送り論」で知られる評論家・劇作家だ。彼は小学6年生の時に奉天(現瀋陽)で敗戦を迎え、本土への引き揚げまで約2年間をその地で過ごした。敗戦直後の満州は、地域を統治する国家そのものが消滅した状態にあった。水道や電気などのインフラはもちろん、役所や警察も機能しておらず、辺りには死骸すら転がっていた。そんな環境ではとうぜん学校も十分に機能するはずがなかった。しかしそのまっさらな、あらゆる物事から隔離された環境で受けた教育を、彼は自らの「教育の原風景」と呼ぶ。

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