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組織の12の価値軸と10の思想グループ

2005年、リクルート社が228社に人事制度ではなく制度の背景となる人事の思想に着目した調査(人材マネジメント調査2005)を行なっている。

調査方法は企業に人事の価値観について質問から12の価値軸(キャリアの方向性や人材調達の考え方など)の軸のどこに位置するかをまとめたもので、この軸の傾向をグルーピングすると組織には10個の思想グループがあることがわかった。

この思想グループを2軸で分類したセグメントマップをリクルートはイデアマップと呼んでいる。調査内容は無料で公開されており、リクルートの機関紙「Works」の2006年6月号に詳細が記載されている。


12の価値軸

組織の人事思想は12の軸に区分することができる。それぞれの価値軸に自社の思想を照らし合わせること思想が可視化され、それにより「どのような人事施策が適しているかを判断すること」と「経営層の人事思想のアライアンス」ができるようになる。この価値軸の診断方法はWorks2006年6月号p.25に記載されている。

1.仕事のイニシアティブ
個人の意思を尊重する ↔︎ 組織の決定を重んじる
個人と組織の関係を表す価値軸。個人尊重側は褒めることで活動を支援する。

2.本社人事部の関与
現場が主導する ↔︎ 本社人事部が主導する
本社人事部の関与範囲を表す価値軸。能力開発や新卒採用で傾向が分かれる。

3.キャリアの方向性
プロフェッショナル志向 ↔︎ ゼネラリスト志向
キャリアパスを表す価値軸。ゼネラリスト志向側は昇進とマネジメントが同一になる。プロフェッショナル志向側の企業はマネジメントキャリア以外にプロモデルを配置することが多い。

4.給与との評価の相関
評価によって給与が下がる ↔︎ 下がらない
評価思想を表す価値軸。スタープレイヤーのモチベーションアップ重視の企業は給与を下げる考えが多い。給与を下げない企業は年功を重視する考えが多い。

5.業務設計思想
個人プレーによるイノベーションを尊重 ↔︎ チームプレーによる安定を尊重
イノベーションと安定のどちらを優先するかを表す価値軸。イノベーション重視はチャレンジ姿勢が評価され、安定重視は仕事の精度が評価される。

6.雇用のスタンス
業績によって新規雇用数が変動する ↔︎ 一定した新規雇用を維持する
雇用と業績のどちらを重視するかを表す価値軸。

7.キャリア開発の責任
個人が自律的に行う ↔︎ 主導権は組織にある
個人のキャリアとスキル向上の責任の所在を表す価値軸。

8.仕事のスタイル
プロセスは個人に委任して結果を評価する ↔︎ プロセスを評価する
結果とプロセスのどちらを評価するのかを表す価値軸。結果重視は人事運用を現場委任する。プロセス重視は人事設計から運用まで詳細を規定する。

9.社内外を隔てる壁
退職した人とも関係がある ↔︎ 退職後は希薄になる
人の出入りにおける組織の免疫力を表す価値軸。仲間意識が高いと退職後も関係が続く。組織への帰属意識が高いと退社後は接触が無くなる。

10.人材調達の考え方
外部からの採用を重視する ↔︎ 内部からの登用を重視する
内部育成の度合いを表す価値軸。

11.人事制度の基本思想
能力により給与が変わる ↔︎ 職務により給与が変わる
能力主義か職務主義の傾向を表す価値軸。

12.人材の育成思想
OJTを重視する ↔︎ 研修を重視する
人材の教育に対する考えを表す価値軸。OJT重視側は研修重視側よりも採用時にカルチャーマッチを重視する。


10の思想グループ

上記の12の人事思想の価値軸には似た傾向がある。類似する組織思想をグループに分けた。さらに12の価値軸を2軸マトリクスに集約したのが下図のイデアマップになる(Works 2006年6月号 p.6~7 より)。イデアマップ上に思想グループがハイライトされている。

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縦軸は組織デザインを表す
組織デザインは企業戦略に影響されるため意図的に上下のどこに位置させるか変化しやすい。日本系企業では結果重視やカンパニー制の導入などで組織デザインを下から上に移動することが多い。ただしバリューに基づく行動規範を重視する企業も増え、それらは下側に位置する。

上側は分権型デザインと呼び、以下の特徴がある
・個人の能力で結果を生み出すことを重視
・個人が行動しやすように裁量が大きい
・外部からの採用を求める

下側は集権型デザインと呼び、以下の特徴がある
・組織としての総合力を重視
・バリューに基づく行動規範を重視
・本部が強い主導権を持つ

横軸は人材観を表す
人材観は企業の文化的な独自性が影響しやすいため、あまり変化することはない。

左側はセルフモチベーション・ドライブと呼び、以下の特徴がある。
・個人の意思を尊重する
・プロフェッショナル志向
・短期的な業績重視
・業績によって採用枠が変動
・サービス業が多い
・寄り過ぎると知識が蓄積されない

右側はコーポレートミッション・ドライブと呼び、以下の特徴がある。
・組織のミッションを重視
・ゼネラリスト志向
・ジョブローテーションを前提としたキャリア
・長期雇用による内部登用
・製造業が多い
・寄り過ぎると官僚的な硬直が起きる

この横軸縦軸に12の価値軸の度合いを当てはめると、以下の10のグループに分類される。カッコは代表的な企業。ちなみに主な傾向として外資系企業は分権型セルフモチベーションドライブが多く、歴史がある企業ほどコーポレートミッションドライブが、若い企業ほどセルフモチベーションドライブが多い。

1.ネオコミュニティ系(リクルート)
ユーザーやサービスに対する個人の意見を尊重する傾向があるがキャリア開発は組織が主導することが多い。社内外はオープンな風土で退職後も関係が続く。自社イズムを持ち共感するメンバーが多い。このグループにはサービス業が多い。

2.ザ・プロフェッショナル系(サイバーエージェント)
ネオコミュニティ系よりも非ゼネラリスト志向が強く、組織よりも現場が主導することが多い。プロフェッショナル志向で成果に対して報酬が支払われる。このグループには外資系企業が多い。

3.スーパーフラット系(ワークスアプリケーション)
ザ・プロフェッショナル系よりもさらに中間管理層が薄くし現場主導を重視する。事業部ごとにHRBPが付き、人事本部はあまり関与しない。分権思想はカンパニー制を導入する企業で多く見られる。

4-5.ニューバリュー系(ソニー)※ニューフィナンシャル系とほぼ同系
ザ・プロフェッショナル系と似ているが組織全体の決定を重んじる思想がやや加わる。個人の力を活かす考えと能力ではなく職務を重視する考えが合わさる。このグループは新しいプロダクトやサービスを生み出す傾向がある。

6.フロントドライブ系(JT)
分権型コーポレートミッション・ドライブの傾向を持つ唯一のグループになる。組織の思想が何よりも重視されるため配属や異動は組織の判断によってなされる。そして分権型の特性があり会社の思想をベースとしながらも仕事のスタイルは結果志向であり個人に委ねる傾向がある。同じ釜のめしを食べた仲でもあるため退職した人の繋がりは薄い。

7.トラッド21系(ワタミ)
フロントドライブ系と同じコーポレートミッション・ドライブの傾向だが組織デザインは集権型を取るグループ。安定した組織プレーを尊重するためプロフェッショナルよりもゼネラリストを志向する。意外にも研修よりも現場で揉まれることを重視する。このグループは組織と従業員が親子関係のような思想を持つ。歴史がある大企業に多い。

8.ナショナルエスタブリッシュ系(三菱商事)
コーポレートミッションの傾向がありながらも分権型と集権型の中間に位置する。このグループは昔からの大企業が特に多い。個人によるイノベーションと組織プロセスのバランスを併せ持つ。思想グループの中では研修重視の傾向が高い。

9.スタイル系(トヨタ)
ネオコミュニティ系とトラッド21系と同じ集権型の組織デザインを採用している。それらと異なるのはプロセスを評価しながら能力によって給与が変わる基本思想を持っているところにある。例えばトヨタウェイのような会社としてのベストプラクティスがあり、それを使って成果を出す人を評価する。

10.ニュージャパン系(ベネッセ)
どのグループも大抵は価値軸がどちらかに偏るが、12の価値軸が全て中間に位置するのがこのグループになる。常に考え方を改善し続けるグループとも入れるかもしれない。また終身雇用的な考えから脱して新しい導入を試みている企業が多い。


参考資料


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