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いじめの意味

拙著「前世物語」から・・・

  いじめ
 十九世紀初めのイギリスの小さな町に、マーシャという女の子がいました。彼女はアルコール中毒の父親と二人で暮らしていました。母が死んで以来、父は酒浸りの毎日でした。父が酒に酔うと彼女はいつも怒られ、いじめられました。彼女はそんな父のことが大嫌いでした。その父が「今の夫」です。
 十二歳の時、マーシャは父を捨てて逃げ出しました。名前も知らない町まで来ました。空腹で途方に暮れていた彼女を白髪の老人が助けてくれました。彼女はそのまま、その青い目の老人と一緒に暮らしました。怖い父から遠く離れて、彼女にもやっと普通の生活が訪れました。
 マーシャは幸せになりました。でも彼女が十六歳の時、老人は亡くなりました。彼女はまた独りぼっちになりました。
 ある日、「父はのたれ死んだ」という噂を耳にしました。罪悪感が襲いかかります。彼女の心は死人しびとのように閉ざされました。
「死にたい・・・。おじいさんが亡くなってしまって、もう私は生きてはいけないわ」
 ある朝、マーシャは汚い道端で倒れていました。ひどい空腹でした。彼女は薄れ行く意識の中で思いました。
「私しかいなかったのに、父を放ったらかしにして死なせてしまったわ。父はお酒と悲しみで正気ではなかったのに」
 マーシャは死の中で決心しました。
「今度はお父さんを幸せにしてあげよう。そして今度こそ、逃げないで生ききろう」
 先生はマーシャの魂を高みへと導きました。そして彼女の人生を振り返りました。彼女は言いました。
「誰かに何かして欲しい、という思いが強すぎました。自分で道を切り開く心の力がありませんでした。子供だったので、逃げることばかりを考えていました」
 先生はもっと高みへと導きました。そしてマーシャの人生と、今、生きている人生を見比べてもらいました。
「・・・主人を幸せにしてあげようと思って結婚したのに、何が原因だかわからないけれども、やっぱりいつもいじめられている感じがしています」
 先生はさらに高みへと導きます。そこには温かい雲と光がありました。そして光の中には神様みたいな人がいました。先生はその神様に尋ねました。
「夫との関係から私は何を学ぶのですか?」
 光の神様が答えました。
「忍耐・・・。自分で生きなさい。自分がまわりの人を幸せに出来るような生き方をしなさい」
「どうしていつも夫からいじめられているような感じがするのですか?」
「幸せだと何もしないからだよ」
「マーシャの時も今回も、いじめられるのを私が頼んだのですか?」
「そうです」
「これは誰の計画ですか?」
 光の神様が答えました。
「あなたですよ」
 先生は彼女の魂に代わって言いました。
「私は選びませんよ」
「今の私ではなくて、魂が選んだのです」
 彼女は当り前のように言いました。先生は光の神様に聞きました。
「今回の人生の目的は何ですか?」
「まわりの人に愛を与えなさい。とりあえず夫に親切にしなさい。そしてお客さんに喜んでもらえるような仕事をしなさい。自分の力で努力して生きなさい」
「人間は何のために生きているのですか?」
 光の神様が答えました。
「成長するためです。みんなで幸せになるために成長するのです」
「なぜ何度も生まれ変わっているのですか?」
「完全になるためです」
「完全になったら最後はどうなるのですか?」
「光になります」
「私は今までに何回、生まれ変わりましたか?」
「百八十二回です」
「その中、夫と一緒に送った人生は何回ありますか?」
「百回以上です」
「その中に、私が夫をいじめた人生がありますか?」
「あります」
「夫は忍耐をクリアーできたのですか?」
 彼女は少し驚きながら答えました。
「クリアーしているような気がします」
 先生は光の神様にお願いしました。
「私が夫をいじめた人生をひとつ見せてください」
「オランダです。私が母親で、夫は男の子です。何か失敗したので私が叩いています。子供は脅えながら、いつか復讐してやる、と思っています。子供は働きに出されています。私は子供を搾取しています。
子供は大きくなると、いなくなってしまいました。私は逃げられたと思っています。そして独りきりになって死んでしまいました」
「死ぬ場面で何を思いましたか?」
 彼女の魂が淋しそうに答えました。
「今度は人に優しくしよう」
 先生は光の神様に尋ねました。
「今の仕事の意味は何ですか?」
「たくさんの人を幸せにするためです。みんなをかわいがるためです。」
「別の仕事をしようと思っているのですが、どうでしょうか?」
「今の仕事が十分に出来たら、次に移ってもかまいません」
「私はまだ十分に出来ていませんか?」
「はい。今、まわりにいる人たちに十分に喜んでもらえないと次には移れません」
「素晴らしい人生を送るためには、どうすればいいのですか?」
「愛することです。人も物も大事にすることです」
 先生は今回の人生の目的をクリアーできた、未来の姿をちょっと見せてくれるように頼みました。
「八十歳くらいになって、老人ホームの仕事をしています。にゅうがな表情で車椅子に乗って、同じようなお年寄りたちを励ましています」
「未来のあなたに何かアドバイスをもらってください」
「信じて愛することです。自分の足で生きることです」
「未来のあなたとしっかりと握手してください。どんな感じがしますか?」
「すごく幸せな感じです」
「私に出来ますか?」
「ひとりじゃなくって、みんなと協力すれば出来ますよ」
「今の私を応援してくれますか?」
 未来の彼女が笑いながら言いました。
「そうなってくれなきゃ困りますよ」
 光の神様に聞きました。
「今の私の人生はここまで順調ですか?」
「順調です」
「最後に何かアドバイスをいただけますか?」
「恐がらずに、自分のしたいことをやってみなさい」


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