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「キラキラした目」と人間の本質的なテーマを描きたかった 井口真理子×糀屋総一朗対談1

京都から福岡県宗像市の大島に移住し、新しく作られたアトリエでアーティスト活動をしている井口真理子さん。連載「Oh! 島セキララ記」でも移住や活動の実際を本音で綴ってくれています。今回は大島移住のきっかけを作ったローカルツーリズム代表の糀屋総一朗と対談を実施。あらためてこれまでのことを振り返り、これからのことを語ってくれました。初回は井口さんのアートの原点についてです。

生粋の京都っ子です

糀屋:ローカルツーリズム社でアーティストの支援もしていきたいと考えているところに、一番最初のケースとなってくれたのが井口さん。改めて、井口さんがアートに触れた原体験みたいなところからお聞きしたいなと思います。いつ頃から絵やアートを意識していましたか?

井口:「絵を描き始めた」ということなら5歳ぐらいですね。保育園で絵を描いたり、家ではチラシの裏紙に描いたりしていました。「絵を見る」っていうことに関しては、家になぜかピカソの画集があったんです。それを開いたときに、その魔術に驚いたっていう……。ピカソの絵にも色々な時代があるんですけど、私の場合は特に写実的な絵の時代を見たときに衝撃が走ったんです。「絵ってすごいな!」「人間がこんなもんを描けるんやな」って。それが原体験かなと思います。家族と一緒に美術館にもよく行きました。

糀屋:そこから絵の道に進みたいと考え始めた?

井口:小学生の頃から中学生にかけても絵を描いていて……周りのみんなはコナンとかポケモンの模写をしてたんですけど、私はずっと自分のオリジナルキャラを描いていました。キラキラした目の……あれ、今描いているのとあんまり変わらないですね(笑)。少女マンガが好きだったので、当時はマンガ家になりたいなと思っていたんです。でも進路を考えたときに、別にマンガだけが絵の世界じゃないなって思うようになりました。

最初は少女漫画家になりたいと思っていたという井口さん

それで、高校の進路選択で美術を専攻とする高校への進学を考えました。京都市立銅駝美術工芸高校という、美術学校としては最も歴史が古い学校です。ただ、その高校に入るには学科試験と鉛筆デッサンなどの実技試験があったんです。それで「画塾」というところに通って、初めてそこで美術の扉が開きました。

きちんとしたトレーニングを受けたら、それがすごく楽しくて「こんな世界があったんだ」っていうところからバッと広がった感じですね。無事高校に入学が決まり、銅駝美工が全国にある美術高校の中でも、日本画を専攻できる数少ない学校だと知りました。それで「せっかくだからやってみよう」と思い、油画、日本画、デザインの三択で悩んだ末に日本画専攻を選択しました。

糀屋:今の真理子さんの作風からすると日本画って意外ですね。そのまま日本画の世界に進もうとは考えなかったですか?

井口:純粋に絵を描くっていうこと自体は本当に大好きでしたし、日本画そのものは好きだったんですが、「画壇」なるものがあって。私は熱心で真面目な画学生だったので「院展」「日展」「創画展」っていう三大画壇をシーズンごとに全部見て回ってたんですけど……その派閥だとかっていうものがなんとなく自分には合わないと感じたんです。どの大学のどの先生のもとで学ぶとか、花鳥風月といった定型的なテーマを扱ったり、とかが自分にとってはなんとなく窮屈に感じてきて………。

同時に、そのころは現代アートにも触れていく機会が多くなってきました。高校の美術研修で東京の現代アートを見に行ったり、アメリカに行ってゴリゴリのパブリックアートを目にしたり。それで日本画にはない広い世界があるような気がして「こっちに進みたいな」と思うようになりました。あとはとにかく「キラキラした目を描きたい!」という気持ちがありました

「就活をしない」と誓いアートの道へ

糀屋:そこは絵を描き始めたころから一貫してるんだ(笑)。それで美術大学に進んだと。

井口:京都市立芸術大学です。しっかり絵が描けて、学科もある程度点取れないと入れないと言われていました。なので、相対的に見てバランス感覚のいい人が多かったと思います。でもちょっと変態性を持っているっていうか……真面目な変態が多い(笑)。だから作品作りに際しては純度も高く、良い環境だったなと思います。作品と向き合う力のある学生が多かったんじゃないかな。

卒業後は、任天堂とかの一流企業に行ってらっしゃる方もいました。私は「絶対就活はしない」ってことを心に誓っていて。

糀屋:(笑)

井口:親がどんなに心配しても、頑なに就職を拒んでました。周りの方や先生には大学院への進学を勧めていただいたんですけど、アカデミアの中で進んでいくっていうのも自分の本当にやりたいことと違うと思ったんです。一度、学校という畑を出てやってみたいなっていう気持ちが出てきて、卒業後は自分でシェアスタジオを借りて1人で作品を作っていきたいなって。そこはやっぱり青臭かったっていう(笑)。今考えれば、就活してた皆さん頑張っててすごいなと思うんですけど、当時の自分は非社会的っていうか、集団性がなかったんですね。

京都時代のアトリエの制作風景

糀屋:じゃあ卒業してすぐ、「アーティスト」としての活動が始まったわけですね。

井口:学生のときから東京やニューヨークのグループ展に出したり、とにかく展示をしよう! って活動はやっていました。今取り組んでいる『NEW PEOPLE』というテーマに出会う前なので、今とは作風が違うんですが、正直、卒業直後までぐらいの作品の方が「美術という文法の中では受けやすい」というか「ヒットしやすそう」な作風だったんですよ。あのままやってったら、それなりに形にはなったかもしれないけど……「美術のための美術」というか「美術界での文法遊び」みたいなところがあって……「これは芸術の醍醐味ではないんじゃないか?」とか思うようになっていたんです。

卒業してから5年ぐらいは描ける時期と描けない時期を繰り返し経験したりもしました。周りに仲間もいないし1人でやるっていうところが、よくもあり、孤独でもあり。

糀屋:1人でやっていると、正解がわからなくなることや自分を信じられなくなることがありますよね。そんな中、何か突破口を見つけたきっかけってあったんですか。

井口:2013年ごろ、AIとかテクノロジーリテラシーがぐっと高まる過渡期に「これから人間ってどこに行くんやろ?」ってことをスッゴイ毎日考えてて、その時に頭に降りてきたイメージがあったんです。ビビビッ! って。「これは何だろう?絶対に面白い!」みたいなものが湧いてきて、バーっと下描きを描いて……よし、これは大きな絵に描かなくちゃ!と思って描き出したのが『CROSSING』っていう作品。今取り組んでいる『NEW PEOPLE』というテーマの誕生になった絵なんです。

井口さんの転機となった作品『CROSSING』

それを描いた時に「美術の枠にとらわれない本質的なテーマがあるような気がする」と思って。そこからは、個展をやったりということよりも、純粋に作ることに専念して、時間もかけて絵を描いていくことになるんです。まあ、沈黙の時代ですね。だからちゃんと『NEW PEOPLE』というテーマのもとに個展をしたのは、かなり最近で2020年。そこからが私にとってのリデビュー。自分らしいスタイルで、本当にやりたい活動を始めたって感じです。今では、ようやく「面白いね」と言ってくださる方も出てきているんですけど、それまではあんまり理解されてないのかなという感じもありました。

糀屋:理解されない中でも、描き続けるモチベーションを失わなかった原動力って、なんなんだろう。

井口:就活を拒んだが故に生活は苦しくなったりしましたし「まず生きていかなきゃ」とかいろんな葛藤があって、描くことに集中できなかった時期もありましたね。そんな中でもなんとかスケッチなりを描き続けてて。宇宙との交信、作品との対話が支えでした。あとは、人ですね。本当に感謝してるのがケイコさんです。

糀屋:僕のパートナーですね(笑)。

井口:ケイコさんは私と同年代で、京都の別の大学に行ってたんですけど。京都って、いろんな大学の学生たちが夜な夜な集まってみんなで映画を観るみたいな風土があるんですよ。一日中『攻殻機動隊』をひたすら見るとか(笑)。ケイコさんとはそれで知り合って以来の友人で、NEW PEOPLE誕生から現在に至るまで一貫して見守り、応援してくれている、真の理解者なんです。

卒業後にも連絡を取り合っていて『CROSSING』を描き上げた時も「これは面白いし、未来だな!」って2人で話していました。おかげで休止期間だったアーティスト活動を再開したいなと思うようになったんです。それからも「『NEW PEOPLE』は最近どうなっているの?」って関心を持って話をしてくれて……。それが2019年くらいだったかと思います。

井口真理子
1990年京都市生まれ。昔-今-未来を通した人間交流の視点で、人間とは何かという問いを焦点に、近年はサピエンスの未来を描いた絵画シリーズ「NEW PEOPLE」を制作。2013年、京都市立芸術大学を卒業後、市内のアトリエを拠点に活動。2022年より福岡県宗像市大島を拠点に活動。直近の主な展覧会に、個展/「OH!! HUMMY!!」(2022年 福岡)、個展/「PLAYLAND」(2021年 福岡)、個展/「ONGOING」 (2020年 京都)、グループ展/「パラレール」 (2021年 京都)他。

(構成・齋藤貴義 写真提供・井口真理子)

続きをお楽しみに!

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