強がったところでただのぬのきれにも勝てないんだと


ドラクエに出てくる防具。ただのぬのきれ。くさった死体から良くドロップされる。アレ。そうアレである。

なぜだか俺はあのアイテムの愛おしく感じるというか。ドラクエの世界で好きな防具はって聞かれたら確実に答えるし次点はお鍋の蓋だ。ファンタジーの世界で使える武器や防具としてむしろ一番ファンタジーなんかも知れない。俺はよく現実のものを武器とか防具に使うのが好きで、RPGツクールとかでゲームを作ると必ずと行っていいほど現実のものを使ってしまう。まぁ自分の脳みそのおつむが足りなだけかも知れないけど。ファンタジー的なものの知識が少ないから作れんからからもだ、が。現実世界のものがファンタジーの世界でいっちょ前に戦ってるのは勇気が出る。俺もロトの盾や鎧と同じカテゴリと胸張って言えるのだ。

そんなファンタジーな防具。俺も装備してきた。俺はパンツを買うことがほとんど無い。世の中の男がどの頻度でパンツを買うかは知らんが全然買うことがない。むしろ一回も買ったことが無いのかもしれない。なのでパンツの相場も知らない。シャツはいっぱい買うくせに一番隠さなければ行けない場所は一切買い換えない。穴が開こうが破れていようが全然穿いてしまう。自慢にならんけど一切何故か大丈夫。ケツが丸見えでも全然気にしない。もうほぼノーパンだとしてもだ。

なんでか考えてみた。中学の時俺は卓球部に所属していてお世辞にも強くない選手だった。何故か無駄にチームはトップのAから最底辺はFまである大所帯の卓球部だった。俺はそこでのCグループのキャプテン的立ち位置に所属していた。わかりやすく言うとボーボボの毛狩り隊Cブロック基地隊長くらい。疾風のゲハくらいだと思ってもらえたらいい。ぼちぼち試合に出たり出なかったりしたが、基本的には公式戦はAとBのみが出場していた。俺はBに入ることはギリギリで公式の団体戦に出ることは稀だった。他の大会がある時に結成される寄せ集めチーム。その中では一番強いC。ならず者傭兵部隊のリーダーだった。

ある時県外へ泊まりの合宿に行くことになった。それは多くの学校が集まり、ひたすら自由試合を組んでいくというものだった。結局、試合で勝ちたいからやってるし、試合に出たいから部活をやっているので楽しみにしていたが、Cの俺はその合宿に漏れた。これはかなりダメージを受け、有望株の後輩と主力AとBのみが行く予定だった。俺は直訴して連れて行ってもらうことになった。人生でもあんなに前に出たのは一番かもしれない。

もうはっきり結論を言うと俺はうんこを漏らした。

ほぼ県外に出たことのない俺は友達との部活という環境での合宿などの期待感から何故か腹具合を破壊し、大いなる遺産を未来へ向かう穴から吐き出した。バスの中で痛みに耐え、やっとのことで体育館のトイレにたどり着き、便器を前に俺の大腸内でライブを行っていたレミオロメンは大きな声で粉雪のサビを歌い出し、俺のケツから雪崩が起きた。絶句。心まで白く染められて、俺のケツは茶色で染められた。このトラウマから俺はトイレを目の前にして漏らすようになった。とりあえず糞付きパンツを処理。誰にも見られないように処理し、トイレから脱出。便器はきれいだった。そこでしてねぇからな。合宿だ。泊まりだ。替えのパンツはあるから穿こう。とノーパンで鞄の中を探るが、ない。そうだ、ここにあるのは試合用のエナメルバッグ。ラケットとジュースと弁当しか無い。着替えはバスの中の大きい方の鞄にある。

俺は腹を決め、ノーパンでユニホームに隠れて着替えた。やるしかない。これから10時間以上の合宿にノーパンで立ち向かうしかない。そこからはもうずっとケツを気にし続けている。卓球のユニホームのズボンってのは薄い。黒色のを穿いていたが。薄い。そう。ただのぬのきれなのだ。ズボンの体裁をしているのか、上っ面なのかぬのきれなのだ。汗をかくからか、ケツにピッタリくっついてくる。パンツの緩衝材があればきっとこんなことにはならんかっただろう。試合する前に、割れ目にひっついているであろうぬのきれを下へ引っ張ったりして剥がす。しかし試合をすれば、ケツの形を大いに見せびらかす。確実にあいつズボンおかしくねぇ?と思われてしまう。いつも俺とぬのきれはすれ違う。人混みに紛れても同じズボンじゃない。同じ体育館の天井を見ているのに。エアコンの風に吹かれてそよぐような隙間もない。もうほぼ黒いケツ。黒尻男。ただ、これは俺の想像の範囲で実際はそうは見えてなかったかも知れない。怖くて客観的な自分を見ていないからだ。もちろん試合はケツが中心になり、負けを重ねた。駄目だまともに試合ができない。若干皆を見返すために来たのに、むりやりメンバーに入れてもらっているってのに。俺の不安はとにかく「ノーパンなのがバレたらまずい」の一点張りだった。少し考えた後、発想を逆転させるんだとカプコンからの声。

「ノーパンであるのがバレたくない」

「ノーパンであることを知ってもらえばいい」

逆転裁判をやったことがあってあった。ありがとうフラッシュ黄金時代。俺は恐る恐る。隣の友人に。「今俺はパンツを穿いていないんだ。」と告白した。唐突な性癖カミングアウト。「決して他意は無い」と伝え、ここからは覚えていない。恥ずかしかったのか、気づけば試合が始まっていた。とにかく俺は皆に自分が装備が一つ足りないことを告白した。非暴力宣言。もう俺に怖いものはない。相手を睨み俺は思う。

「お前…俺はパンツを穿いていると思ってるだろう?穿いてないぜ。恥ずかしくないさ。俺は…この状況を支えてくれる仲間がいるからだ!」

ここからぼちぼち試合に勝利した。体育館から出てやっとホテルに行けると思ったら、飯食いにファミレス行ってごぼうのうどん食ったけど味を覚えていない。

結局俺たちはただのぬのきれとバカにしながら、ただのぬのきれさえなければ生きていけないのだ。きっと道端のぬのきれも誰かをきっと守っているのだ。だから俺はパンツを大事に穿く。破れようがちぎれようが穿けるんなら穿くのだ。ただのぬのきれになってからが本番なのだ。そしてこれはロトの鎧と同じなんだ。俺は勇者として今日も戦っている。

布切れだとしてもケツ側に穴が空いてたら、あんま意味なくね?



28歳。しまむらで初めてパンツを買いました。


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