閉ざされた孤島とうんこ漏らし

西日本豪雨。正式名称は平成30年7月豪雨。岡山、広島を含め大雨で多くの被害が出た時に俺は当時暮らしてたアパートでケーブルテレビで川がどんどん増えていくのを見ながら避難準備をしたり実家に連絡したりとかをしていてアルミ工場が爆発した音を30km離れた所から聞いたりしたが自分の身の回りが大丈夫だとわかってから就寝した。朝にテレビを見るとまぁびっくり。災害から強い県だなんだ言われた岡山で俺は見たことのない光景だった。第一岡山の人間ってのは雨予報があっても晴れの国じゃから雨降らんじゃろと言って傘無しで出かけていざ雨が降ったらビニール傘の盗難が相次ぐ場所だし、地震が来ても多少のイベントみたいに思う奴が勝手に俺は多いと思ってる。現に俺の傘は大量に盗まれた。透明な傘は著作権フリーもしくは県民全対象のシェアなのかとも思うくらいだった。

当時俺はスーパーに肉を卸す営業マンをやっており自分で配達はせず、営業をスーパーのバイヤーやチーフなどに行い倉庫から肉を運送屋に頼んで運んでもらうという仕事をしていた。プロボックスの冷凍車は一応あるが自分から配達することもあったがそれは一応イレギュラー扱いにしていた。でも俺の会社以外は自社配達をしていて、運送屋に頼む俺の会社は納品は遅くそれが足枷になったりして芳しくなかった。その為自分でも配達や肉を直接見てもらうために冷凍車を運転する事が多々あった。
そんな中豪雨の後に出社するとスーパーの水没やその処理に追われることになった。道路は止まり商品の納品ができないスーパーが出たりとてんやわんやだった。自分が担当するスーパーに連絡して状況交換や納品状況、無事かどうかなどとにかく電話していた。
そんな中電話がかかってきたのが担当していたとある企業だった。このスーパーは一応営業をかけていたが、競合他社の値段に勝てないやら、各店舗のチーフが店舗運営や商品を統括してひとつひとつにバイヤーがいるような感じでチーフのクセが強かったりなどして、中々納品出来ない所だった。しかし年商などで俺の担当している所では1番大きい会社だった為、部長からなんとかしろとされていた。

で、内容はうちで取り扱っている冷凍商品を納品して欲しいという電話。高速道路が止まっていたりと動けない営業や、スーパーで加工ができないということで、置くだけの商品が欲しいとのこと。
昔、他社の値段や他の営業とズブズブの関係で相手にされずカタログだけ顔面にぶん投げてそれ以来一度も営業をかけなかった店だった。
ここで対応しておけば後々に何かに繋がるかも知れないと言われたので行く気も全くなかったのだが向かう事にした。場所は広島県向島。しまなみ海道の最初の部分にある島。
しまなみ海道をドライブがてら行くかみたいな軽い気持ちで冷凍車のプロボックスに豚ロースの切り身1ケースだけを放り込み向かう事にした。利益は500円無い程度だ。ガソリン代で赤字が来る。
高速道路が倒木で止まっているとかの情報があったので途中の段階で降りてから向かうルートに変更した。よかった事にギリギリ手前で降りれる所まで行くことができた。
なんだ以外と普通に着きそうだな、適当に納品して尾道ラーメンでも食ってサボって帰ろうって考えて途中で止まることもせずノンストップで向島方面へ車を走らせた。
入り口に差し掛かったくらいの所で車の量が増え渋滞にハマりながらゆっくり進んでいた。この辺りで自衛隊の車輌やらがすれ違ったり前にいたりと少しずつ目の前の景色が変わっていた。
俺という人間は渋滞やちょっとした不安で腹痛を起こしてしまう体質で過去にこのクソ漏らしかけ事件で飛行機のフライトを遅らせる事行った事がある。お客様、そろそろ飛び立ちますと言われたが馬鹿野郎俺のクソはもうフライトしてるんだよ!出れるわけねぇだろ!ってなった事がある。というかトイレ案内してトイレ入って5秒くらいで出てこい!っていうのは無理だよ。精神と時の部屋くらい、現実と時間があんな剥離したことはなかった。
という事でなんでもないのに腹痛がこんにちはしてきた。うんこくんは、お?しまなみ海道か!ええやん!ここでの脱糞はさぞ気持ちええじゃろうなぁ!と眼前に見え始める海に大腸くんのボルテージもアップする。
渋滞が増え続ける中、向島に上陸。営業先でトイレ行くのもなんだから納品前に隣接してる薬局で向島をマーキングして納品に向かおうと思い、駐車。
はじめての向島での脱糞に意気揚々と向かうとトイレにはKEEP OUTの文字。
トイレが封鎖されている。

ん?

あぁん?なんで?

紙が貼っており恐る恐る見ると「断水の為トイレの使用はできません。」の文字。薬局から「このトイレ来月からなんですよ。」言われた気分。

ガーンだな・・・つまりここには俺が糞を出す便器がないってことか・・・

断水によるトイレ使用不可能?ここでようやく気付く。この向島は現在断水されているとのこと。あんなに大雨で大水で悩んでいるのに水が無いとは。てことは向島のトイレって全部使えないんじゃ無い?
案の定営業先のスーパーでもトイレは使用不可。この時点で俺の大腸くんは不安により加速を始める。この時点でパンパン。
最終的には人の家にトイレ貸してくれと言えばなんとでもなると思っていた。玄関先で漏らされるより全然良いだろうし、ある意味脅迫だがここまで心に響かせる脅迫もないだろう。
しかし今回は違う、この向島という土地は今現在トイレ使えないのだ。いや厳密には使えるけど水洗が使えないわけ。ウォシュレットないとトイレできないとかいう都会っ子は肛門と口が逆転して憤死するかもしれん。というか俺がしそう。ここにきてボットン便所が恋しくなるとは思わなかった。平成が生前退位で終わり、新たな時代に行く中で今最も時代の逆を行く施設を求めるとは思わなかった。俺たちは文明の利器に頼りすぎた。水が流れるという事は当たり前だと。古きを知り新しきを知る。枯れた技術の水平思考。なぜ人間は水が流れないと糞が出来ないのか。いや古代ローマには確か水洗便所あったわ。
ボットン便所は古い感じの公園に時たまに併設されているのでそれを探しに爆走という暴走、いやケツに火は付いているから漢字的には爆走か。爆走兄弟レッツアンドゴーするのもありだがここは知らない土地。更に災害で身動きが渋滞などで難しく無駄な動きは出来ない。
まさかこの時代にボットン便所に救いを求める日が来るとは思わなかった。爺ちゃんの家のトイレボットン便所で嫌だったり和式便座が嫌で店でも洋式を出来るだけ使用していた俺が悪かった。俺は和式便器で育ったのだ。この下半身の踏ん張りもはじめの一歩よろしく船での手伝いが強靭な下半身を生み出したのと同じで和式便器に自然と鍛えられていたのに洋式の便利さに逃げた俺を恥じる。今では洋式便器なら座って小便をする程俺は弱っている。男なら、いや、漢なら黙って立ちションよ。男塾名物直進行軍よろしく立ちションよ。

なーんて事言ってる場合じゃない。とにかくこの向島から脱出してトイレに向かわないと。悲しい事にここは島なので出入り口がほぼ一つしかない。来た道を帰るしかない。トイレがある事を信じて因島方向には進めねぇ。とにかく信じて戻るしか無い。
幾重にも通り過ぎる自衛隊の車の間を抜けながらなるだけ糞を考えずに運転していたが、まぁ道が細せぇの。飯食ってくれ道路。車をぶつけまいと慎重に運転しようと神経を使えば使うほど糞は出口を求めて走り出す。止まらないわよ。
マジで思うのは渋滞時にうんこ出したらどうなるんだって事。とりあえず自分の車にはビニール置いてるけど運転中にケツにビニールセットってっ無理じゃ無い?糞漏らす時ってもう止まってる状態とかじゃ基本無いと思うのよあたし。
渋滞を抜けて、安心したところでスピード上げりゃあ糞のスピードも上がる。もう負けても良いかなって思った。

正直ここから先は覚えていない。とりあえず気付いた時は尾道にいてトイレにいたという事。漏らす事はなくなんとかなった。奇跡のドライブテクニックが発動したのかもしれん。この一年前に30日免停食らってます。

しかし尾道と向島すぐそこで橋を渡れば水がまぁ通っているが一本隔てりゃ断水。なんかやるせない気持ちになった。対岸の火事っていうように、本当に1番自分に近い所が1番困ってるのかなってなんとなく思いながらラーメンでも食べるかと車を岡山へ走らせた。


俺は肉の納品を忘れていた。

トイレに糞は納品した。

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