万引いて千利休

スーパーで働いていた頃によく見ていた画面は勿論発注画面なんだがもう一つよく見ていたのは監視カメラの画面だったりする。精肉の前のカメラを見て商品の売れ具合を見たり人の流れを見たりしていたが、結局の所これは悪い人を監視するのに使われているわけである。

スーパーに来る悪い人っていうのは万引きである。勿論刑法で罰せられるアレ。中学生の時に悪ガキが登竜門として使ってたA本屋。あそこはベリーイージーだと言われてて、出入り口がレジの真ん前だから無理だろと思っていて、なんとなく漫画を買いに行った時にずっと爺さんが出入り口向きのパソコンで仕事していたから、いやこれは盗むのは無理だろう。って思って帰りにパソコンを覗いてみたら真剣にソリティアやってた。そりゃ登竜門にされるわ。

スーパーでは誰もソリティアをしていなかったので、しっかり監視していた。警備員もいるときもあるしやはり名前が軽く聞こえるだけでれっきとした大犯罪なわけで、でも後をたたないのだ。

事務所のドアに貼られてある要注意リスト。これの枚数の多さでその店舗の治安がわかる。俺が主任として着任したところはむちゃくちゃ多かったし、別のライバル店からも窃盗団が動いているとかいう情報も得ることも有る。そう。窃盗団。そんな言葉を聞くとは思わなかった。何をしてくるかと言うと結構酒を大いに盗む。酒を盗んでは転売しているのかも知れない。そういう人物の写真が貼ってある。見てるぞ。俺らは。

万引きにも様々な種類があり、俺が見かけたのは三種類。それを少し思い出してみようかと思ったのだった。

一番多いのはやっぱりテレビとかで特集されたりする主婦が盗むパターン。発注をしようと事務所に行くと店長に問いただされているシーンをよく目にした。あ、今日捕まえたんだ。と、まぁそこに野次馬のようにえ!捕まえたんすか!ええやん!ええやん!と突撃はせず地獄耳を立てて様子を伺うことをしていた。勿論警察はしっかり呼ぶし、抵抗する主婦も結構いた。私もう何回も呼ばれてるんです!みたいな謎の言い訳をしていたりする。

主任として着任した店舗でもその主婦の万引き犯を捕まえて店長が話しをしていた時にサービスカウンターのヘルプに呼ばれた時、中島主任ちょっと見といてと言われて万引き犯と二人きりになったことがある。ここで俺が「なにか事情があったんだろ…奥さん…」なーんて人情刑事藤田まことよろしくなんてことはできずに「うせやん」ってなったことがある。まぁ逃げ出すことはねぇだろと思いパソコンで発注作業をしていると、その万引き犯が俺に向かって「ちょっと聞いてる?あんた聞いてる?」みたいな事を話しかけてきた。反応するかまよったがとりあえず無視し続けるのもなんなので、一瞬そっちの方を見て認知はしているアピールをしておいた。すると俺に身の上話をしてくるじゃない。え、まじ。こんなドラマと言うか身の上話をしてきて同情を誘おうとしてくる戦法をとるやつがいるなんて…しかもなんか泣き出したんですけど。参ったなまじでと思いながら明日の広告の品の発注をしていると警察がやってきて、やってきた瞬間に泣き止んだ。演技派やねぇ…

というので一番捕まるのはこの初級タイプの万引き。まぁカメラの死角を完全把握していたりなどのタイプはわかれるがこれが一番多いし捕まえやすい。

次は内部犯。これは中々の強者。一番多いのはパートがビールの箱をばっくからくすねたりとか、他にもポイントカードにポイントつけたりなどのサイバー犯罪など懐に潜りこんでくる知能犯が多い。これは捕まるまで時間がかかったりする。他の店舗で起きて捕まった時に通達があったりするのだが、その際に一年にかけてビールを盗み続ける猛者もいた。

ある日、掃除のバイトを雇うことがあった。MさんとHさん。ふたりとも大学生で留学生。よくまじめに働くと言われていた国の方だった。日本語は片言だが、しっかりもので一生懸命で仕事をしていたので好印象だった。どうやら二人ともうひとりの先輩と一緒にルームシェアをしながら学んでいるらしい。ええやん!なんか泣けるわおじさん。と応援しながら一緒に働いていた。最初の方はMさんとHさんを一緒のシフトにして働きやすいようにしていたが、やっぱり人数不足もあってそのうちシフトをバラけてすることにした。二人にもそれを話して了承してもらい、働いてもらっていた。バラけても真面目に仕事をしてくれたので助かっていた。しかし別れは突然にやってくるのだ。ある日いきなりHさんが別れを告げることになった。さよならの一言も伝えることができなかった。別れることになった理由は惣菜をバキバキに食い漁っていたことだった。実はHさんとMさんの先輩は惣菜で掃除のバイトをしており、元々その先輩の紹介で入ったのだった。HさんとMさんは後輩であり、Hさんは一人でバイトしていた時に先輩に誘われ焼き鳥をバキバキに居酒屋よろしく食いまくっていたのだ。そしてHさんとその先輩はクビになった。Mさんは働ける?と話をした所、「M頑張る」と答えた。しかし、ルームシェアの二人がクビになって気まずくねぇのかと思ったら案の定数日で辞めて、数メートル先のやよい軒で3人で仲良く働きはじめたらしい。まぁあっちのがまかないがでるからいいでしょ。

と、内部犯は結構多い、上の人間と共謀することも多数ある。複数犯が多い。何人でもやることで罪悪感を減らそうとしてるのがあるのかもしれない。備品を盗むのは犯罪です。売り物だからね。

最後は味方だと思っていたやつが裏切るパターン。これはかなりのレアケースだと思う。俺が異動で着任したばかりの時によく話しかけてくれるバンダナを付けたおばちゃんがいた。毎日来ては挨拶をして買い物をしていくいいお客。どうやら何年も来てくれているらしく、みんな認知したおばちゃんだった。新しい副店長が着任して不安だった時に一番最初に話しかけてくれたおばちゃんでもあったらしく、副店長はよく話をしていた。

そしてある日、事務所で捕まってふんぞり返るバンダナおばちゃんがそこにいた。話を聞くと米を盗んだらしい。これは俺が知っている限り一番でかい大物でもあった。仲良くなってから、そんな事をしないと思わせておいて最後に一気に仕留めるアサシンのような犯人である。しかも捕まえたのは副店長。副店長は複雑な顔をしていた。「俺が一番最初に仲良くしてくれたお客さんを…俺がこの手で…」

お前はなにかに目覚める戦士か。

とにかく盗むやつは多い。みんなも登竜門にしないようにするのだ。

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