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法律案はどのように作られるのか

衆議院法制局職員の一日から追ってみた


こんにちは。地方自立ラボ(@LocaLabo)です。

今回は、国会提出法案を調査しブログ記事を書いた経験から、法律案を作成する人の仕事について書いてみたいと思います。

日本で法律(地方公共団体の場合は条例)案を考える人は衆議院法制局職員、87人、参議院法制局職員75人、国会議員、国家公務員一般職28.5万人、地方公務員一般職82万人です。

もちろん、このすべての人が法律の作成にかかわっているわけではありません。しかし、特に官僚は法律(=規制、罰則)を作ることで出世の道が開けるわけですから、当然力が入ります。今回のブログでは、衆参両院に設けられた法制局の担当者と国会議員がどのようにして法案を作成していくかということについて、特に減税と規制緩和の点から考えていきたいと思います。

なおこのブログでは「法律」という言葉を使います。議会で可決、制定されていないという理由で本来は「法律案」と書くべきかもしれません。ですが、煩わしいので「法律」と書いていくことにします。また自治体の「条例」も含めて考えていますが、自治体の法令作成能力はそれほど高くはありません。法制局のような頭脳集団もいません。したがってこれからのお話は国会中心となります。

まず、法律の制定については、官僚だけが作れるのではなく、国民の権利として「制定、廃止、改正」に関し「請願する権利を有し」と日本国憲法で明記されているということも最初に確認しておきましょう。

第十六条 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。

日本国憲法第十六条

法令を作る人。それって国会の仕事じゃないの? とあなたは思うかもしれません。間違いではありませんが、国会は法律の制定を決定する場です。ここでお話したいことは国会で採決されるための「法律の条文を作る」ことです。もちろん、議員が自分で考えて法律を作り、国会で審議してもらうこともできます。法案の作成は官僚が協力してくれることが多いようです。それは、衆議院、参議院におかれている「法制局」の職員の仕事です。

まず最初に法令を作っている人の一日を追ってみましょう。衆議院で議員立法を補助する衆議院法制局の若手職員の一日です。

衆議院法制局ではどのようなことが行われているのか、ある若手職員の一日を例に紹介しています(平成31年度総合職職員採用パンフレットから転載)。

8:45 ○○委員会理事会に出席
9時始業だが、所管する委員会の理事会が開かれるため早めに出勤。今後の審議日程が協議され、対案を立案中の◇◇法案は、来週の委員会で審議されることとなった。対案の提出が間に合うよう、今日も気を引き締めて臨みたい。
10:00 照会処理
今朝の新聞には所管に関係する△△制度の記事が。課内で話題にしていたところ、A党のX議員の秘書から、まさに△△制度についての問合せ。現行制度の運用状況や問題点について、大至急資料を作成するよう上司から指示があった。所蔵図書や国会の会議録、オンラインの最新データまで、幅広く情報収集。何とか必要な資料を調えて、上司の確認を受ける。X議員はこの制度に疑問を持たれているようであり、新たな立案依頼につながるかもしれない。
12:00 昼食
お昼は他の課の先輩と同期と議員食堂へ。午後に向けて、穏やかなひととき。
13:00 X議員との打合せ
先ほど資料を送付した△△制度について、A党のX議員と議員会館の事務所で打合せをすることになり、課長に同行。△△制度を見直す議員立法を検討中とのこと。まずはX議員の政策構想の核心部分がどこにあるかをしっかりと把握するため、全神経を集中させて話を伺う。その問題意識を踏まえ、課長が検討すべき論点や考えられる方向性を多角的に説明。照会処理時に調べた情報が役に立った。X議員から、次回打合せまでに法案化に向けた更なる論点整理を行うように依頼された。
14:00 条文化作業
◇◇法案の対案の条文化作業も最終段階。条文案は固まっているが、より明確で疑義のない表現が可能かどうか、課内で議論を深める。条文化では一言一句もおろそかにはできない。法体系の統一性が保たれるよう、他の法律の用例も調べながら、表現ぶりを修正。あとは、局内審査を待つだけとなった。
15:00 部長審査
条文化作業終了後、息つく間もなく◇◇法案の対案の部長審査。憲法上の問題点、政策目的と手段の合理的関連性といった理論的・実質的な観点から、条文の正確性、平易性など形式的な観点に至るまで、あらゆる側面について審査が行われる。遺漏なく説明ができるよう、事前の準備がかかせない。こうした「法制のプロフェッショナル」による真剣な議論により、法案は磨かれていく。
16:30 B党の関係会議に出席
超党派の議員連盟の依頼により立案した○○法案について、B党の関係会議に出席。取りまとめの中心であるY議員が法案の内容を説明されるため、会議に陪席してサポートを行う。法案の技術的事項などは課長が説明し、質疑にも対応。分かりやすくなるよう、図表を交えて作成した資料も出席議員の理解の一助となったようだ。鋭い質問も飛んできたが、○○法案は無事了承された。
19:30 退庁
B党の会議メモの作成を終え、退庁前に来週の予定をチェック。◇◇法案の対案の国会審議に向け、想定問答も作成しなくては。今晩は大学時代の友人との飲み会。互いの近況報告を楽しみにしながら、待ち合わせ場所へと向かう。

衆議院法制局「ある若手職員の一日」(2023年5月26日閲覧)

官僚は学校の勉強において超優秀な人たちです。そんな学業優秀な人たちも官僚組織の中に入れば、誰でもペーペーからの役人人生の始まりです。そして出世競争の荒波にもまれて成長、出世していくのですね。そして役人と言えば「前例主義」。これは先輩官僚の作ってきた道のりの上を進んでいくということを示します。
上記職員の一日でも紹介された「部長審査」。部長は「前例」に長けた人物です。その先輩方は局長級にまで出世する人もいれば国会議員などになったりすることもあるでしょう。前例を踏襲することで覚えめでたく出世街道を進むことができれば官僚となった甲斐があるというものです。

そして官僚の多くは定年退職後関連団体や企業に再就職していき、官民連携という名の天下りネットワークの中で新たな人生をスタートさせます。そして官僚や議員に対して影響力を及ぼし、さらなる法案作成の圧力団体の一員となっていくのです。

つまり法律制定(=規制強化)により業界をコントロールしているのは官僚の上下関係を中心としたネットワークであることは間違いありません。そして一人一人の官僚が先輩の作ってきた規制を守り、さらに積み上げていくことで自分が出世していく、そんな官僚たちの生存競争のために国民は納税、規制を受けていると言っても過言ではないでしょう。

参考として、衆議院議員が法律を作った時の経験を文章にしているものもありますので、ご紹介しておきます。こちらを読んでみると、議員立法がどのように作られるかがよくわかると思います。

〇衆議院議員 山下たかし公式サイト「議員立法のつくり方」(臨床法務研究19巻2017.9)
https://yamashita-takashi.jp/pdf/actofparliament.pdf

最後になりますが、間接民主主義として私たちは議員を動かしていかなくてはなりません。わたし個人ではどうにもならないことを減税派という仲間を得て人数を獲得し、議員の力を借りるということです。法制局職員も書いていたように議員の言うことを官僚は結構気にします。ですから、私たちの民意の最終形態は「議員立法」として国会に提出されることでではないでしょうか。私たちはその中でも、議員におもねることなく、いつもグーチョキパーの論理で私たちが議員や官僚に負けないように常に優先権を自分の側に持つということです。
そのために私たちはどうすべきか、を次のブログに記しました。

私達は全ての増税と規制強化に反対します!


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