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種子島では農作業中に「ほー」というと風が吹く

2年前、私は種子島にいた。
今はネパールにいる。

ネパールで農家さんたちと畑作業をしていたら、
種子島で過ごしたとある日のことを思いだした。
今ならまだ忘れていないし、思い出補正でちょっときれいに見えるかもしれないから、文章にしようと思う。

私は種子島に1か月滞在し、種子島の食材を使ったスパイスカレーを作りながら、なんでも屋さんをしていた。
時にはツアーの企画、運営のお手伝い。時には旅館の清掃、配膳。時には飲食店でのサーブ。時には農作業。
その日は種子島の山間地で落花生の収穫のお手伝いだった。
収穫したての落花生を頂いて、ココナッツカレーを作ろうと思っていた。

海の青が良く映える、晴れた日だった。
自転車に乗って山を登って下って1時間弱。
農家さんとの集合場所に到着。
そこにはバナナ畑が広がっていた。
南国の立派なバナナ畑を眺めながら、落花生畑へ向かった。
途中で一人のおばあちゃんと合流した。
今日の落花生収穫を手伝ってくれる方だ。

方言が強くほとんど何を話しているのか分からなかったけど、
笑顔でたくさん話しかけてくれる素敵なおばあちゃんだった。

落花生の収穫作業は、まず農家さんが土から落花生を掘り起こし、
私とおばあちゃんが一つ一つ選別しながら落花生を取っていく。
力作業ではないけれど、ちょっとコツがいる作業で、
私が1つの落花生を取る間にそのおばあちゃんは3つ収穫していた。

おばあちゃんは作業中ずっとお話してくれていた。

農家さんに通訳していただきながら、
「こんな若い子と会えるなんて、今日は良い日ね」「おやつをもっと持ってくればよかった」「服が汚れないようにこれを使いなさい」「日焼けしないようにこっちに座りなさい」と温かい言葉をたくさんかけてくださった。

そして時折、「ほー」と言っていた。
最初は相槌の一つかなと思っていたけれど、
そのおばあちゃんが「ほー」と行った後、
会話は止まり、虫の鳴き声と、木々が揺らぐ音が聞こえ、
そして穏やかな風が吹く。

「おお、風が来た来た」

4月と言えど、結構暑い種子島。
農作業中の風と自然たちの音は、涼しさと安らぎを与えてくれた。

種子島のおばあちゃんが「ほー」と言うと、そこに風が吹く。

出荷できない小さな落花生は、殻ごとゆでて、殻ごと食べた。
ゆで汁も飲んでしまいたいほど、食欲をそそる香りだった。
落花生の殻も初めて食べたけど、収穫したてなのもあり柔らかく、
深みのある甘みを感じ美味しかった。

ネパールでも落花生はよく食べる。
農家さんたちのおやつとして、お酒のお供として。

ネパールのおじいちゃんおばあちゃんの話によると、
ネパールの落花生も昔に比べるとだいぶ小さくなり、
特に巷の落花生は味も薄くなってしまったようだが、
時々、味の濃い落花生が、
農家のおばあちゃんたちのチョロ(防寒&作業用の民族衣装)のポケットから出てくる。

だんだんと暑くなってきた4月。
ネパールの畑でも「アワーアヨー」と、風を感じながら農作業を進める。

その言葉とポッケから出てきた落花生で、
ふと種子島の風を操るおばあちゃんを思い出した。


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