野尻暉(人文系書店ヒカリノスミカ)

海のほとりの元旅館にある人文系書店の店主。

野尻暉(人文系書店ヒカリノスミカ)

海のほとりの元旅館にある人文系書店の店主。

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    ただ、この冬にわたしは居た。

    B6横/20ページ 生きる中で膨れ続けた違和感を濾過したくて、美瑛、知床、釧路、十勝を周った1月の北海道旅。 静かで激しい、何もないような何もかもあるような白い世界の中で起きた瞬間を写真に残し、その体験により自分の中で起こったことを言葉で残したZINEです。
    750円
    Local Record
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    ただ、この冬にわたしは居た。

    B6横/20ページ 生きる中で膨れ続けた違和感を濾過したくて、美瑛、知床、釧路、十勝を周った1月の北海道旅。 静かで激しい、何もないような何もかもあるような白い世界の中で起きた瞬間を写真に残し、その体験により自分の中で起こったことを言葉で残したZINEです。
    750円
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「人文系書店ヒカリノスミカ」開店物語

30歳を過ぎたあたりでなんとなくこの先が見えてしまって、どうやらこの先に大したドラマはなさそうで、気づけばそのうち死ぬんだなと気づいてしまった。 理屈としてはそれでいいのに、この感じで死んでいくのはあまりに退屈だという微々たる衝動が消えなかった。 とはいえ、身を削ってでも成し遂げたい「なにか」は見つけられなかった。 つきつめれば、意味なんてものはないと思っているタイプの人種だ。 だけど、まったく死にたくはなくて、死なないために生きながらえるための意味がほしかった。

    • 『「思いやり」という暴力』を読んで

      非常に気疲れする世の中だ。 コンプラ、権利、配慮。そういう思いやりが蔓延してストレートな言葉はタブー視され実質は意味のない薄っぺらい言葉で世の中が埋め尽くされていく。 そのような観念は望まれる形でこの世の中に出てきたので当たり前にたくさんの恩恵をもたらしているのだが、一方で閉塞感や息苦しさも生み出し、その反動かバーチャル空間で実体のある反撃を受けない安全圏としてのSNS上で、後出しで自分の理論の優位性を勝ち取るための不気味な欲求に支配された似非口撃が交わされる。 言葉に

      • 『生きものとは何か』を読んで

        あらゆる営みに絶対的な意味はない。 わたしの使命なのだと高尚な理念を掲げた活動であっても、それって何のため?と問い続ければどこかで論理的には答えらなくなるはずだ。 限定的な意味はあるかもしれないが、その意味自体をどこまでも掘り下げていったら本質的な意味はなかった、といったニュアンスが正しいかもしれない。 それでもこの世界で生きていくわけだが、わたしが生きること自体に意味も目的もない。これは悲観ではなく、考えればそうだよな、と思うしそう考えることで楽になったりもする。

        • 『教養としてのエントロピーの法則』を読んで

          気がつけばこの世界に生きており、よく考えるとわからないことばかりで、わからないことは怖いから、安心して生きていくためにこの世界がどんなものなのか説明しようと探求し続けてきたのが人間の知的な営みだ。 自己とはなんなのか?目に見える世界は本物か?神とはなんなのか?心とは? 科学や宗教や理性をどんなに煮詰めてもたいてい100%の答えはないけれど、宇宙レベルでこれは絶対的な法則だというものがある。それがエントロピー増大の法則。 簡単にいうと、秩序のあるものは秩序を失っていく方向

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        「人文系書店ヒカリノスミカ」開店物語

          『「みんな違ってみんないい」のか?』を読んで

          好きで逆張りしているわけではないが流行りごとが嫌いなので、寛容性や対話みたいなムーブメントに対して斜に構えてしまう。 正しい(と思われる)概念が広がる過程で簡素化されていき本質と遠ざかることもまた真であり、それによって表面的な綺麗事が積み上げられて世の中の嘘っぽさが増してしまうという側面がある。 「みんな違ってみんないいい」 寛容性溢れる言葉だが、寛容性と無関心の違いってなんだろうか? どちらも他者の挙動を否定しないという結果に差はなさそうだ。 それとも、そもそも寛

          『「みんな違ってみんないい」のか?』を読んで

          2024年4月27日開催【玉乃井円坐:生き様の探求】

          「昨年、福岡県福津市の津屋崎という集落で円坐舞台を行い、野尻暉(ひかる)という男に出逢った。 円坐に坐った野尻暉は、 「違和感にまみれ」「社会や世間の嘘っぽさ」「自分の嘘っぽさ」 を語って号泣した。 人に与える印象を操作したり、売名や保身のために演技で泣いて見せる人間をたくさん見てきたが、 野尻暉の涙は、彼自身の涙であった。 今年三月、津屋崎の由緒ある古民家「海のほとり玉乃井」の二階で再び野尻暉と出会った。 本屋を始める準備をしているのだという。 玉乃井の二階の一室の

          2024年4月27日開催【玉乃井円坐:生き様の探求】

          【エッセイ】純度の高い生物になる覚悟を決めた北海道旅

          世界はつきつめればキラキラしたもんだと思っていたし、自分は何か成し遂げるんじゃないかと期待して社会に出た。思春期にどハマりしていたアーティストが行っていた課外活動の影響で、そのピースフルな世界観が美しくて、今でいうSDGs的な業界に飛び込んだ。なんせ、温暖化だとかで地球に人間が住めなくなったらなんにもならんよなあ、という壮大で薄っぺらい危機感と使命感で理論武装して、自分の存在価値を見出そうとしていた。 しかし、そんな甘々な精神で生活していけるほど社会はゆるくなくて、正義のぶ

          【エッセイ】純度の高い生物になる覚悟を決めた北海道旅

          【エッセイ】未来は、残したいもので出来ていく

          1990年代後半、わたしは小学生だった。世界的なお約束をしたのもあってか、地球温暖化がどうだこうだとメディアが騒ぎ出した時期だと記憶している。 中学生の頃、わたしがどっぷりハマっていたバンドが環境問題に対する活動を始めた。 地球という大きなスケールで、正義を持って、利他的で、キラキラと輝く大人たち。その世界の色に憧れたわたしは、環境問題に関連する学部を選び、社会に出てもそういった領域に身を置いた。 しかし、綺麗そうな思いとは裏腹に、社会の生々しさやエゴのぶつかり合いを目の

          【エッセイ】未来は、残したいもので出来ていく

          【エッセイ】「生きづらさ」が消費的なコンテンツになっている気がする

          傷の浅い人生だ。 壮絶な親子関係の不和があるわけでもなく、学校にまったく馴染めなかったわけでもなく、性的嗜好がマイノリティでもなく、偏頭痛などの慢性的な体の不調もなく、ぶっ倒れるほど会社で追い込まれた経験もなく、どうやっても社会に馴染めないほど非凡な世界観を持ち合わせているわけでもない。 それでも、そういうカテゴリーに属しながら反骨的に生きてきた人種の言葉に救われて生きてきて、そうやって生き様で他人を救える人種に憧れたけど、結局、努力らしい努力もせず、偏差値52ぐらいの平

          【エッセイ】「生きづらさ」が消費的なコンテンツになっている気がする

          【旅と独白-長崎編-】あの頃とは心が求める成分が変わった

          友人がアメリカに移住することになり、わたしを含めた3人で追い出し旅に行くことになった。 我々は元同僚で同じチームで同世代。戦友めいて、深めの価値観が通じる稀有な存在だ。 場所は長崎。わたしが大学時代を過ごした場所。 16時に宿に集合する約束となっており、わたしは1人で散策する時間も欲しかったので12時ごろ長崎駅に着く行程だ。 ほんとはあと1時間ほど早く着く予定だったのだが、寝坊・券売機でのミス・窓口の渋滞により予定していた新幹線の便に間に合わず、次の便に切り替えた。

          【旅と独白-長崎編-】あの頃とは心が求める成分が変わった

          【エッセイ】天邪鬼が社会で生きていくには

          「最近元気?」 そう聞かれるのが苦手だ。なぜなら、元気という状態がよくわからないからだ。健康状態に支障がないこと?活気が漲っている様子?そういう風に見える人はたしかにいる。しかし、その人たちはほんとうに疑いなく健康的で、疑いなく活気に満ちているのだろうか? 一点の曇りもないということ? そんなことをいちいち考えるわたしは言うまでもなく、シャキッとしていないし、愛想のいい表情が苦手だし、溌剌とした声色を持ち合わせていない。 しかし、往々にして社会に適合するにはそういった

          【エッセイ】天邪鬼が社会で生きていくには

          【旅と独白-尾道編-】その瞬間、その光景、その感情

          5月の16時ごろ、福山駅で在来線に乗り換える。尾道駅までは四駅。制服を着た学生が多く、観光客らしい姿は見当たらない。「こいつ観光客か」って思われたらいやだな、、と、犬も食わない自意識過剰がざわめき出す。わたしの旅はたいてい、雨予報だったのがかろうじて曇り。今回も例にもれず。 予定は決めていない。楽しめる自信はない。ツーリングに来たわけでもなく、尾道ラーメンを食べに来たわけでもなく、レトロな街並みもお腹いっぱい。それでも、今回の1人旅は尾道だった。日常が憎くても、平坦でも、愛

          【旅と独白-尾道編-】その瞬間、その光景、その感情

          【旅と独白-北海道編-】白くて静かな世界で自分に帰っていく

          濾過 違和感にまみれて、重ったるい惰性を何年と繰り返してもそれに慣れず、あの頃自分が思っていたほど上手な生き方ができる人種ではないと気づいてしまった。 目の前の人間に勝手に敵意を感じて構えたり、見えてもいない出来事に心臓が痛んだり。どうせ、ものごとはだいたい多面性をもっていて、紙一重で、わたしの中はおさまりがつかない。 誰かの役に立ちたいとか、世の中を変えるだとか、綺麗そうな思いがそこら中に燦然としているというのに、こういうざまだ。 しかし、この世界を見て、感じているの

          【旅と独白-北海道編-】白くて静かな世界で自分に帰っていく