チェリッシュとわたくし

「日本のソフトロックは実はチェリッシュ」(!)というそれまで考えた事もなかったツイートのメンションに触れ、「そうなの?聴いてみるか」と思いサブスクにてベストアルバムを取り敢えず登録して、今聴いています。
という事で唐突にレビュー。
「ベストアルバムから漏れたものにも逸品が…」という声もありましょうがまずは大づかみに把握する事を優先という事で。
ではいきます。



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「チェリッシュ ベスト」
レーベル: ビクターエンタテイメント
ASIN: B005CLPE9Y

01 なのにあなたは京都にゆくの
02 だからわたしは北国へ
03 ひまわりの小径
04 古いお寺にただひとり
05 若草の髪かざり
06 避暑地の恋
07 てんとう虫のサンバ
08 白いギター
09 恋の風車
10 ふたりの急行列車
11 渚のささやき
12 愛の終末
13 哀愁のレイン・レイン
14 千羽鶴
15 四季・奈津子
16 愛とは勇気だから

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チェリッシュてものすごベストアルバム多いのね…2つや3つじゃない。どうも今からオリジナルアルバムを売る事を全く諦めているとしか思えない。
その中でさしあたりサブスクの中から適度なボリュームのものはこれか…?と思い、聴いてみたわけです。
1971年のデビューEP「なのにあなたは京都へゆくの」から最終曲「愛とは勇気だから」1996年リリースEPまで、という事でキャリアの網羅という点では、まあ充分なのかな…。
さて本当にソフトロックなのか?いざ試聴!


その前に。
一応手前勝手ながら、そして僭越ながら採点します。その尺度はこんな感じ。
当然ながら俺の偏見のみで断定するので「ちげーよ!」「こいつ何も判ってねえ◯ね!」といったご異見も多々ありましょうが、そういう方々は同アルバムのレビューしてそのリンクを俺に送ってくださいな。読みたい。
さて。
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ソフトロック度:★★★★★
普遍度:★★★★★
個人的に今後も聴き返す度:★★★★★
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そんな感じで。スタート!!

01 なのにあなたは京都にゆくの(1971)
作詞:脇田なおみ/作曲:藤田哲朗/編曲:馬飼野俊一

ソフトロック度:★
普遍度:★★★
個人的に今後も聴き返す度:★

いきなり全然好きじゃないよ! あと俺そもそもマイナーキーの曲って正直苦手で…。
あと散々言われてるだろうが、詞が理不尽すぎる!
主人公が京都を憎いという事だけが伝わってくるが、その理由なり経緯がまったく描写されていないので言いがかりに聞こえてしまう。奈良や岡山だったら果たしてどうなの?
あとこの時点のチェリッシュはバンド編成のはずだが、例えばドラマーなりベーシストがこの曲に対してできる貢献とは?と思うとなにか虚しさに捕らわれてしまう。すいません、ダメです。
他、男(松崎好孝)ヴォーカルが全く無いのだが、その辺いかがなのでしょうか。


02 だからわたしは北国へ(1972)
作詞:林春生/作曲・編曲:筒美京平

ソフトロック度:★
普遍度:★★
個人的に今後も聴き返す度:★★

楽曲的には前作の延長。ここで男VOも入ってサビでハーモニーを入れる事によって「なるほどこうですよね」と一応納得できた。
というか基本、リードヴォーカルは松井悦子なのですね。アート・ガーファンクル枠か…。


03 ひまわりの小径(1972)
作詞:林春生/作曲・編曲:筒美京平

ソフトロック度:★★
普遍度:★★
個人的に今後も聴き返す度:★★

ここからバンド編成を辞めてデュオになったそうです。がしかし音からはそういう事は一切わからない。要するにバンドでやる意味はそれほどなかったという事の様子。
ソフトロック度が少し上がったのはイントロのアコーディオンがフレンチポップを思わせるから(少し)。
それはそうと俺、この松崎好孝氏の声質、けっこう好きかもしれない。
70年代のショコラ&アキトぽい、と言えば言える。

04 古いお寺にただひとり(1972)
作詞:山上路夫/ 作曲:鈴木邦彦/編曲:青木望

ソフトロック度:★
普遍度:★★
個人的に今後も聴き返す度:★★

ごめん、単に歌謡曲としか思えなかった。いや歌謡曲だから悪いというわけではない。が、主旨的に言うとソフトロックなんでしょうチェリッシュて?それを信じて聞き進めてきたが、少々疲れてきた。
あとこれもしかして「京都 大原 三千院恋に破れた 女がひとり~」に影響受けた詞?
さて寺とくれば京都。デビュー曲で京都Disの毒を吐くだけ吐いた女が京都で色々不倫について考えてる、そんな世界観!(詞を読むとそう思えた)
取り敢えずみうらじゅんといとうせいこうの見仏記みたいにオフビートのゆったりした感覚は皆無。

05 若草の髪かざり(1973)
作詞:阿久悠/作曲・編曲:馬飼野俊一

ソフトロック度:★★★
普遍度:★★★
個人的に今後も聴き返す度:★★

イントロのリコーダーがどことなくカーペンターズ「シング」を少し思わせるのでソフトロック度UP。
あとメインメロディを追いかける男コーラスが少し「おっ」となる。
詞が牧歌的に、夢見がちに…なんというかレーシーになってきました。やっぱ古寺で鬱屈してるより野原を散策する若い二人のほうが聞いてる方も楽に息ができるな!でも僕疲れたよ。たまには長調で曲作ってよ!
詞的にBUZZ「ケンとメリー〜愛と風のように〜」にもしかして影響与えてる?


06 避暑地の恋(1973)
作詞:林春生/作曲・編曲:馬飼野俊一

ソフトロック度:★
普遍度:★★
個人的に今後も聴き返す度:★

避暑地の恋か。パーシー・フェイス楽団ぽいのかな。頼むぞソフトロック!
…と一縷の望みを託したものの、ああまたこれで三曲くらい同じ曲調だ…
とはいうものの「赤い屋根の時計台が」「古くなった石の道をあなたと」と、詞に微妙にリゾート感出てきた。近所をぶらぶらしているようには聞こえないなあ。日常感覚を少しだけ遊離したところに着地しようとしているのか?


07 てんとう虫のサンバ(1973)
作詞:さいとう大三/作曲・編曲:馬飼野俊一
ソフトロック度:★★★★★
普遍度:★★★★★
個人的に今後も聴き返す度:★★★

やたー!少々不安を覚えること6曲に続き、やっと心の底からこれはいいと言える曲が出ましたよ!
馬飼野俊一は個人的に「疾風ザブングル」「乾いた大地」を書いた人というイメージだったが、それは取り敢えずどうでもいい。やはりこういう、ひとつ抜けた「長い夜」的(今度書きます)な強度のあるポップソングこそが演者を飛躍させるのだ。音楽的には何一つサンバじゃなくて16ビート基調の軽いソウル風味ポップ。
詞でいうと、前作までの幾分現実感覚の希薄な(あえて言えば少女趣味)助走が見事にここで「離陸」したといってもいい。
と同時に吉田拓郎「結婚しようよ」からヒッピー臭を抜いて女言葉でパラフレーズした見事な本歌取りであるよ。
何も言うことないです。「メロディ・フェア」とか「ロッキン・ロビン」同様に良い。エヴァーグリーン。

08 白いギター(1973)
作詞:林春生/作曲・編曲:馬飼野俊一
ソフトロック度:★
普遍度:★★
個人的に今後も聴き返す度:★

…と思ったのにまたべったりしたマイナーキーの曲だよ!もう!
6/8の所謂ロッカバラード。感想は特になし!

09 恋の風車(1974)
作詞:林春生/作曲・編曲:筒美京平
ソフトロック度:★
普遍度:★★
個人的に今後も聴き返す度:★

ここへきて気がついたが、チェリッシュの場合、編曲はみな作曲者なんだな。
リズムが幾分ハネてきたような気がする。サビは16ビートだ。といってもファンキーとまでは言えないが、このあたり初期のベタッと重いノリからは一線を画している…ような気がする。筒美先生はその後ディスコ歌謡でガツンと当てるわけで、その萌芽…というかプロトタイプなのかも。

10 ふたりの急行列車(1974)
作詞:林春生/作曲・編曲:筒美京平
ソフトロック度:★★★
普遍度:★★
個人的に今後も聴き返す度:★★

おっ?いいじゃないか。軽快なメジャーキーの曲だ。
そして最初から男女コーラス。ユニゾンじゃなくてきっちりハモ作ってるぞ。
俺はやっぱり明るい曲調が好きだからこれはいいぞ。イントロと間奏のフルートもどことなくA&Mぽい。悪くないです。

11 渚のささやき(1974)
作詞:林春生/作曲・編曲:筒美京平
ソフトロック度:★★
普遍度:★★★
個人的に今後も聴き返す度:★★

初めて男女かけあいデュエット歌唱だ。そうだよ!編成的にこういうのもっとやるべきなんだ!
曲調は8/6カントリーバラード。スライドギター導入は多分カーペンターズからの頂き。
サビ後半のホーンアレンジもどことなくバカラックぽくていいな!俺はやっと安心してきたよ。

12 愛の終末(1974)
作詞:林春生/作曲・編曲:筒美京平
ソフトロック度:★
普遍度:★★
個人的に今後も聴き返す度:★
…なのにまたマイナーキーだ。ああ…げんなり。ほんとにもう、少しはウキウキした気持ちで生きたいと思えないんですか?(言いがかり)
多分カーペンターズの「スーパースター」が下敷きなのかなあ…。
でも初期よりはリズムアレンジが凝ってるせいで割と聴ける。

13 哀愁のレイン・レイン(1975)
作詞:林春生/作曲・編曲:馬飼野俊一
ソフトロック度:★★
普遍度:★★
個人的に今後も聴き返す度:★★
久し振りに馬飼野俊一起用。
イントロとAメロがミレニウム「午前5時」ぽい明るさがあって、いいな!
と思いきやサビでまたドメスティックなマイナーになってしまうのだが、なぜかドラムのオカズの力技で妙に重厚な印象に。
ジェフ・リンの曲で時々こういうのあるけど、そんな感じで聞けなくもない。ないのかな。

14 千羽鶴(1975)
作詞:林春生/作曲:馬飼野俊一/編曲:前田憲男
ソフトロック度:★
普遍度:★★
個人的に今後も聴き返す度:★
タイトルでもう察していたが、俺の苦手な系統のしっとり和風マイナー曲でした。
次だ次!


15 四季・奈津子(1980)
作詞:五木寛之/作曲:笠井幹男/編曲:前田憲男

おっ?時代飛んだ。'80年だ。
と思ったら、サブスクにこの曲入ってなかった!なのでレビューはなし!
でも、何故に?
唐突に作詞・五木寛之であってタイトルがこれという事はつまりあれか?「四季・奈津子」が映画化され、その主題歌として起用されたという経緯?
どうもそのようだ。
おそらく権利関係で割愛されたと思われる。

15 愛とは勇気だから(1996)
作詞:山上路夫/作曲:岩沢二弓/編曲:大谷和夫
ソフトロック度:★
普遍度:★★★
個人的に今後も聴き返す度:★★
音響と編曲のクォリティが突如それまでと比較にならないくらい上がったのだけどなにゆえ?
エルトン・ジョンとかリンダ・ロンシュタットとか、そういう感じ。よく言って雄大、悪く言って大仰。
でもずっとこじんまりした世界を歌ってたから、たまにはいいんじゃないだろうか(ひとごと)。
もはやソフトロック云々では全然ないが、お手本はいわゆるAORであろう。
完全にフォークを捨てた感すごいぞ。まあもう90年代なかばだしね…。

そして松崎好孝がいきなり野性的な野太いシャウト気味なコーラスを聴かせる。こんな弾も持ってたのか。どうした何があった。

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という事で聴き終えました。
ベストを聴く限り、チェリッシュがソフトロックかどうかでいうと「曲によってそういう要素は無くもないが、体質は別にそうではない」ようだ。
ただ、ユニット名がそもそもアソシエイションの曲名を頂いているように、結成時点ではそのへんを視野に入れていたのはまず間違いないと思う。
が、結果として非常に歌謡曲的なアプローチがかなりウェイトを占める事になったのは明らか。
また、フォーク出身にも関わらず、自作曲のこだわりが全然なく、むしろ「その折々の作家に曲を書かせヒット目指す」という、むしろ実に歌謡曲的なアプローチに終始しているようだ。この辺はカーペンターズと同じか。
が、かといってリチャード・カーペンターのようなサウンドプロデューサーがいるようでもないので、一本筋の通ったディレクションは無い。大きく「ソフトサウンドで、女声VOメイン、要所要所で男声を絡ませる」以上の緻密な狙いは無いと思われる。
もしかするとソフトロック的であるのは「男女混声コーラスグループ」という編成(当初は大きなインパクトあったろう)のみなのでは。

とりあえず薄くベスト聞いた所感はこんなところです。

がしかし、シングルカットされなかったアルバム収録曲、シングルB面などでとてつもなくマニアックな曲をしれっと、そしてひっそりと発表していたりするのもこうしたグループにとてもよくある事なので、今後はそっちを探してみます。

以下「チェリッシュとわたくし 逆襲編」に続く。

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「結婚するって本当ですか」が入ってないよ?どうして?
と途中まで思っていてすみませんでした。それはダ・カーポ。


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