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サービスとは

 誰しもサービスというものに触れる機会がある。みんなが良いと思うものもあれば、共にした相手は喜んでいたけれど私は気分が悪かった、みたいな両極の感情を引き起こすものもある。人やモノを介してはっきりわかるものもあれば、なんかわかんないけれど心地良いみたいなものもある。お金払ってはないけどサービスだと感じることもあれば、サービス料としてお金を払っているお店もある。なんだか曖昧で複雑でわりとふわっとしている。

 そもそも、サービスとはなにかについて考えてみると、商品そのもの(例えば料理、ジュエリー、洗濯機)に付随して提供される周辺のあらゆる行為や情報、みたいなもので広範囲であり、商品やその価格を問わず存在する。商品とサービスは深く関連するが同じではないということ。顧客は商品を求めている、ただ、欲しいと念ずれば目の前に現れるわけではないので、その過程や周辺の接点もより良い体験にしよう、みたいな感じかもしれない。

良いサービスは、
商品以外、その周辺の接点において顧客の利益を最大化するものであり、商品に余計な情報を加えないものである。

ということにして、本屋さんを例に考えてみる

商品)本
 お店に入るとジャンルや作家別に丁寧に分けて陳列しているのがわかるし、本の位置にまで配慮があるのがわかる。探しやすいように手に取りやすいように。芥川賞や本屋大賞、その他なにかしらの特集コーナーの恩恵を受けて僕らは新しい本を選ぶ手助けをしてもらっている。ソムリエの方が共に好みのワインを選ぶ手伝いや料理の説明をしてくれるのに似ている。
 お目当ての本を見つけたとして、表紙や帯が汚れていて破れていたらどうだろう。本(商品)の中身に全く影響がないのは事実だけれどなにか価値が下がった気がする。丁寧に扱われていて傷がないことは商品に余計な情報がなくとても良いサービスだ。人は余計な情報を嫌がる。本の内容は同じなのに。

 まず、本屋さんの従業員が『この本少し分かりずらかったのでお客様のために結末補足して書き換えときました!』みたいなことは意味不明なので商品自体にサービスの範囲が及ばないことはわかる。
 また、もし読みたい本を見つけてテンションあがっちゃった人のためにレジ横にカラオケボックス置いてます!みたいなサービスも意味不明だと思う。例に挙げたものは、本を買いにきたお客様のために思いつくサービスとして正しいように思えるが、これはいわゆる気が利くとかコミュニケーション能力が高いと評価されてる人だけが思いつく特別なものだろうか?
 見えてくるのは、扱っている商品とそれを求める人や環境を丁寧に観察するとその周辺情報を得ることができる、それを顧客の利益に沿って実行するのが求められていて、技術として普遍性を持つものかもしれないということ。
 サービスを可視化するとは、顧客の利益を最大化するとはどういうことか、サービス料を設定しているようなレストランを例にもう少し詳しく考えてみる。

商品=料理(味や表現方法や哲学等を含む)

レストラン利用時の料理(商品)以外を構成する周辺5要素

 1.食事に必要な道具
 2.お客様の行動範囲
 3.料理間の時間
 4.来店目的や関係性やコミュニケーション
 5.コース料理以外の選択肢

大きく分けてみるとこんな感じ。
さらに細分化していくつか記述すると、

レストラン利用時の料理(商品)以外を構成する周辺5要素
 1.食事に必要な道具
  ー皿,グラス,カトラリー,テーブル,椅子,おしぼり,ナプキン,,
 2.お客様の行動範囲
  ーお店に入る扉や取手,席までの動線や店内,トイレ,会計,帰宅,,
 3.料理間の時間
  ー食事まで,食事を届ける,食事中,食事終わり片付け準備,,
 4.来店目的や関係性やコミュニケーション
  ー言葉や手紙,皿への反映,サプライズ,お土産,テーブル装飾,,
 5.コース料理以外の選択肢
  ードリンク,空調,ブランケット,時間の調節,,

こんな感じ。分類はこれくらいにして次はそれぞれもう少し具体的に。

レストラン利用時の料理(商品)以外を構成する周辺5要素
1.食事に必要な道具

  ー皿,グラス,カトラリー,テーブル,椅子,おしぼり,ナプキン,,

→種類や形状や質感や温度や使用方法やタイミング、付随する情報はいくつもある。
基本的なものはナイフ、フォーク、スプーン。もちろん綺麗であることが最低限必要だ。体温とお皿の温度に近い方が望ましいかもしれないし、料理へのアプローチがしやすいように大きさや材質を選んだ方がいいかもしれない。もしテーブルに収納スペースがあって必要十分なカトラリーを用意して毎回自分で好きに選んでもらう方法をとってもいいかもしれない。次のお皿に十分なスペースが与えられるようにセットする位置をどこにするか悩む人もいるだろう。人の身体や置かれるもの(お皿、グラス等)を考慮して快適なテーブルスペースが与えられていることも一つのサービスに思える。

2.お客様の行動範囲
  ーお店に入る扉や取手,席までの動線や店内,トイレ,会計,帰宅,,

→故障してない、ペーパーが充分である、毎回清掃に入って清潔に保つ。みたいなことはもちろん、トイレはレストランの中で唯一1人になれる場所、という役割もあるのでそれを考慮すると、歯ブラシマウスウォッシュ・おしぼり・綿棒・生理用品等があれば利用する人もいるかもしれない。鏡はもちろんそこは顔がちゃんと見えるくらいには明るくあるべきだ。道具にこだわる人なら、ハンドソープ等のアメニティーを目を引くものにしておいてもいいかもしれない。視点を変えると、利用後すぐに他の人がトイレに入るのを躊躇う人もいるかもしれない、お店としては次のお客様の利用に備えてなるべく早く清掃に入りたい思いもある、その場合テーブルから見える位置にトイレがあるとすると、、、

3.料理間の時間
  ー来店から1品目まで,食事を届ける,食事中,食事終わり片付け準備,,

→基本的に食事中はお客様同士の時間を用意する。食べ終わり、次のお皿を届けるまでが5分とすると、まずは食べ終わったお皿やグラス等を速やかに下げる。そして次のカトラリーのセットやペアリングのワインを持ってくることが残りの最低限の仕事。作業は合わせて1分はかかるので残り4分。お客様同士の時間をなるべく確保した方がいい場合は片付けの際か料理を運ぶ少し前にセッティング時間を重ねた方がいいかもしれない。ペアリングを頼んでいるとか、料理やワインに追加の質問等があったお客様ならこの時間をメニューにはない価値を共有できるかもしれない。

4.来店目的や関係性やコミュニケーション
  ー言葉や手紙,皿への反映,サプライズ,お土産,テーブル装飾,,

→例えば男女の二人組で女性が誕生日のお祝いでの来店、予約時にデザートにメッセージを添えてくださいと希望。お店としての選択肢は他にも無数にあるように見える。時間も方法も。テーブルにメッセージカードを置いて出迎える、お土産に花束を渡す、みたいなことを思いつくかもしれない。でもこれは良いサービスなんだろうか。相手はデザート時までお祝いの言葉をとっておくつもりかもしれないし、お店を出たあとに花を渡す予定や、別の予定があって花束が邪魔かもしれない。
 誕生日とはいえこんな高級店に来ている2人は本当に付き合っているんだろうか、わかるわけがない。お客様の来店ログを残しているお店がある、メニュー内容やワインの好み、職場やメンバー構成などの会話の内容まで。希望がある場合、前回と同じメニューや全く違うメニューを出すのに役立つだろう。商品以外の情報、2人のうち男性は一度来店していてログがある場合、今回会話の糸口にして良いのだろうか。お店側から先に触れるのは美しくないように思う。以前来たことを女性側に知られたくないかもしれないし、職場はすでに辞めていて思い出したくない記憶かもしれない。料理の味がわからなくなるくらいに。お客様の状況を推測するのは不可能なので、今回の来店では今回お客様側から開示された情報のみを扱うべきだと思う。お客様の利益になることは、自分が良いと思うことと同じではない。

5.コース料理以外の選択肢
  ードリンク,空調,ブランケット,時間の調節,量の調節,,,,

→水、アルコール、ノンアル、ペアリング、最後のコーヒーや紅茶
 いつ選ぶのかどうやって選ぶのか、グラス、温度、量、濃度、出すタイミングは幅があるし、水のように常にテーブルにあるものもあればペアリングのように毎回変わるものもある。出す直前に必ずグラスやお皿を明るいところで確認するルールは有効に見える。

 お客さんの行動や状態は丁寧に観察することで細分化できて、顧客の利益を最大化するためにそれぞれどういったサービスが最適か決めることができる。グラスが綺麗な方が良いのは共通するが、視点は持ち合わせていても幅がある問題に関してはなにが最適か、人や環境によって変わるので難しいし悩ませるしそれがサービスの醍醐味でもある。
 いわゆる高級店だから接客やサービスがいいとは限らない。サービス部門ごとにある一定の基準はお店で起こりうる全てに分類、対応しているわけではないからだ。感動する人もいれば最低な人もいるのが現状で結局は個人によってしまう。また、前段(4 来店目的や関係性)で挙げたように、顧客の利益を最大化するというのは自分がいいと思うことをすることではない、こんなにもしてあげた、みたいな傲慢さは自己満足に過ぎないので、相手を丁寧に観察して事実や要求をもとになにをすべきか決める必要がある。

・サービスは商品周辺にあること
・丁寧な観察と分類によって可視化できること
・みんなが良いと判断するものもあれば、何が最適か変化するものもある

ことがわかった。

 ここからは良いサービスとはなにかについて考えてみる。これまでの方法で得られるものは、自然に思えるものもしくは気が利くな、とか、とても配慮されてるなと感じるものにはなるかもしれないけれど、最高とか記憶に残るほどかと言われるとどうだろうか。幅のあるものはどうすれば最高のサービスになるのか。これはすごく難しい。

 良いサービスとはなにか話を進める前にここで最悪なケースについても考えてみる。大きく分けて2つ。

1.お客様は対等であり平等であることを理解していない
2.意図的に正しいことをしない

まずは1.(お客様は対等であり平等であることを理解していない)について。

 ちなみに、従業員に暴言を吐くとかは論外だし、泥だらけの服での来店みたいなものは衛生上お断りしないといけない場合もある。もしくは、5000万以上の商品しかなく従業員も少なく1日に対応できる人数に限りがあるので、収入証明とともに来店予約をとってもらうとか、招待や会員制度のみでの来店、みたいなルールをもとに運営しているお店は該当しない。

 ひらかれているお店にも関わらず、服や靴や年齢みたいなもので、お金持ってそうとか社会的地位が高そうだとか、場慣れしてそうだとか、説明してもわからないだろう、みたいな傲慢な判断や態度をとる愚かなものを指している。持ち得ている基準を人によってネガティブな対応に変えるもののことだ。商品にお金を払うことが確定している、サービス料設定しているようなホテルやレストランでさえ少なくない頻度で見受けられる。『レストランで良いサービスを受けたいなら良いお客様でいるべきだ』とか、『ホテルマンは靴でお客様のステイタスをはかる』みたいな言葉もあるが意味不明だと思う。ドレスコードや作法等の業界の当たり前みたいなものをお客様が理解しているとは限らないし、全ての人がホームページを見てくれるわけではない。自責思考を持って、必要なら事前に説明しておくべきだしお金出してる時点で全てのお客様は平等でありプロの仕事をするべきだと思う。
 繰り返すと、お店のブランドや権威みたいなものとサービスの質は全く関係ない。あるミシュラン三つ星店で食事をした際に次の魚料理が出てくるまでに60分以上あいたことがあった。個室を除いて5テーブルほどあって僕らは2番目にスタートしていたけどデザートに辿り着いた頃にはすでに他のテーブルは食事終了していて3組はすでに帰宅、1組も帰るところだった。トラブルが起きたこと、そしてそれを僕らで補われたことは明らかだった。その間何かしらの説明や謝罪もなく僕らはただひたすら待った。料理は何事もなかったかのように運ばれてきた。今ならお店の方に声をかけて状況を尋ねると思うけど、あの頃の僕は未熟だった。こいつらで帳尻合わせよう、文句言わないだろうし大した経験もないだろうから大丈夫、みたいなことで飛ばされたんだろうか、正解はわからないけど今考えると見下されていたんだろう。さらに最悪なのは僕らのみになった時に他のテーブルや椅子の清掃をはじめられたことだ。もう4.5年前だけどあの時の悔しさとか一緒に食事をした相手への申し訳なさみたいな感情は今でも覚えている。驕りや見下した態度は、思っているより相手に伝わる。

次に、2(意図的に正しいことをしない)について。

 サービスによっては答えが必ず同じで、その質を担保するために決まっていることやルーティンなどがある。グラスは提供前に欠けたり汚れたりしていないか確認するとか、お客様を通す前にテーブルに汚れやゴミがないか確認するとか。この項で扱いたいのは、なにが良い状態か分かっているのにそれをあえて無視する、従わない、みたいな罪の重さについて。めんどくさいなーとか、ちょっとだけだからいけるでしょとか、たぶん大丈夫だと思う、みたいなことで手を抜き、当たり前のことを当たり前に実行しないもののこと。
 人はミスをする。これまであげたように視点はたくさんあるし様々な制約もある中で業務は進んでいるので全てを完璧にこなすことは不可能だ。他のことに気を取られて忘れちゃうとかミスしちゃうことは誰にでもある。これは仕方のないことで全く別問題。
 ここで問題なのは、いま分かっているけど"あえて"やらないこと。例えば、ケーキに使う生クリームは温度によって脂肪分やタンパク質の状態が変わってしまうので冷たい状態が望ましい。だからそのボウルには常に氷を当てて扱う。『仕上げでちょっと使うだけだし氷取りに行くのめんどくさいからいいや』とか『寒いから氷触るの嫌だなー』とか。全体の完成度はその過程の積み重ねでのみ決まるので、途中の雑さは質を下げる。
 実質的な損害は別として、『お客様に出すコーヒーを入れている時に先輩に話しかけられたので少し時間が経ってしまったがまだ熱いしそのまま提供した』、『提供の際に手が滑ってカップを倒しコーヒーをお客様にぶちまけてしまった』、どちらがまずいことかは明らかだ。

 悪い部門はこの辺にして話を戻そう。良いサービスとはなにか。感動とか記憶に残るほどのものになるにはなにが必要なんだろうか。そもそも確定した答えがあるものではないんだけれど、なにかしら要素が見つかればいいなーって感じで。
 前提としてお客様の感情はなにかしらポジティブな状態で、感動まで引き上げるとなると、新奇性、承認や特別感、問題解決、深い共感、この4つが大事そうな気がする。さりげなさや細やかな心遣いなど関連するキーワードを考慮すると派手なパフォーマンスは必要なさそう。物事が大きくなればなるほど受け取る側のエネルギーも必要になるため、よほど希望に沿っていないと顧客の利益にはなりえないからだと思う。あとはメインとはちょっと外れた場所、ってのもポイントな気がする。

ー新奇性 
 新しい体験や知識や視点の更新によってもたらされる驚きとか信頼とか感謝。

ー承認や特別感
 今回のテーマでもあるような丁寧な観察や要望をもとにした顧客の利益を追求するようなもの。また、傾聴の技術でもある同調や肯定のような自分が受け入れられて尊重される心地よさの享受。

ー問題解決
 他のエンタメでもあるように、現状(困難)→理想や希望(成功、達成、学び)の構図を応用するもの。

ー深い共感
 承認や特別感とは逆のもので、お客様自信が抱くもの。

曖昧だけどこんな感じで。
ここまでくると商品にも関連しそうになるけれど、なるべくサービス部分に当てはまるようにもう少し具体的に考えてみる。

 備品の様々は多く見つかる、ここまで配慮されてるなんて、、、。

 お店に入るとわりと曖昧なものがある、焼菓子と生菓子を買いたい場合どういう順序を踏むのか、注文を受けてもらえる順番は先着順なのか決まった順なのか、持ち帰りではなく店内で食事をしたい場合ケーキはいつ選ぶのか、このような疑問にわかりやすい案内があるお店に出会ったとき僕はすごく感動した。

 お店での声掛けの際に、もし私たちにお手伝いできることあればおっしゃってください、もしかすると色違いとか似たようなシルエットとか裏に在庫あるけど出せてないものもあるので、、と、その後すぐに下がってこちらから意思があるまで放置してくれた。なにかあれば頼りたいというメリットの提示もあるし相手の要求に沿って、という謙虚さが伝わってすごく感動した。

 お迎えするという表現や手袋をつけて商品を取り扱うことは、これから自分のものになるかもしれないものが大切に扱われていることに好感を持てるのかもしれない。

 お店を出て見えなくなるまでお見送りしているお店もある。それに気づいてから何年も経つけれど今も同じようにみる。丁寧なお見送りに感動する人もいるだろう。

よくない例であげた誕生日の話だけど、感動した体験もあって。
 あるホテルに泊まった際に相手の誕生日であることを告げると、大切な日にありがとうございますと、ささやかではありますが、、ということで出来ることをいくつも提案してもらったことがある。まずは相手を受け入れて尊重する、自分たちの仕事をベースに貢献できそうなことを謙虚に提案していただいた姿勢にすごく感動した。そして当日それらのサービスは自分たちのポイントとはせず徹底的に僕らのためにあった。

 夜にご飯を食べてる際に、明日はーに行くんです。って話をした。次の日チェックアウトの際、晴れてよかったですねと、良い一日をお過ごしくださいと言葉をいただいたことがあって、隣の県の天候を調べてくださってホテルを出たあとの幸せみたいなものまで配慮いただいて、気持ちの良い出発にしてくれたことを感謝している。

レストランの料理の複雑性。ー産地だからどういう特徴があるとか、こういう調理法だからこうとか、テーマに沿ってこういう手段をとってる、とか、具体的なものから抽象的な文脈まで、なんかわかんないけど美味しいみたいなその先の攻略に向けたヒントみたいなものの共有はともに料理を開拓しているみたいで楽しく

 まとめると、

 驕らず手を抜かず、丁寧な観察に基づいて顧客の利益に集中することが大事そう

これまでの体験をもとにいろいろ書いたけどそれは同時に悩んでるということでもあるので、もしここまで読んでくれた人がいて良い悪い問わず共有してくれる方いたらお話聞きたいです、よろしくお願いします

ありがとうございました

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