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窓の開閉問題について悩む

人はいつでもなにかしら悩んでいる。仕事のことだったり、家庭のことだったり、友人や恋人のことだったり、ときには自分の力ではどうすることもできないようなこと(天気やテレビドラマの今後の展開)についても悩んだりしてしまう。悩みに悩みぬき、しまいには、次は何について悩もうか悩んだりする。

そんな悩みとはもうおさらば! 今日ご紹介するこのパワーストーン。これさえ肌身離さず身に着けていれば、あなたの悩みなんてきれいさっぱりすっからかん! 頭の中まですっからかん! とかいう胡散臭い商品を売りつけたいわけではなくて。

人が抱える様々な悩みの中で、今回は季節性のある悩みについて。

たとえば、冬になるとしもやけがひどいだったり、食欲の秋には食べ過ぎてしまったり、春になると花粉症に悩まされたり、正月太りに苦しんだり、冬は脂肪を蓄えておいたほうがいいとか言ってみたり、夏は夏バテしないように食べたほうがいいとか言ってみたり、結局、一年中食べすぎちゃってみたり。それだと季節性ないじゃん。

今、私が悩んでいるのは、窓の開閉問題だ。(門構えが三つも並んだ! フィーバー!)

◎窓の開閉問題・・・採光または通風の目的で壁にあけた開口部を開けるべきか、閉めるべきかを決めかねている状態のこと。

これだけを読めば、「いったい何を悩むことがあるんだい、ベイビー?」と訊ねたくなるところだろう。「暑ければ開ければいいし、寒ければ閉めればいい。隣のマンションを見張りたければカーテンを少しだけ開けてその隙間から覗けばいいし、ターゲットが無防備に顔を出したときには、すかさずライフルで仕留めればいい。簡単なことじゃないかい、ベイビー?」とこの文章を読んでいる誰もがそう思ったはずだ。

だが、ことはそう簡単ではない。
窓を開けたくなるのは、暑いからだ。新鮮な空気を取り入れたいという目的もある。
「それなら開ければいいのさ! ほら、迷うことなく! 今こそ君の心の窓もレッツオープン!」という感じでさっきから合いの手を入れてくるこいつはいったい誰なのだ。

私が何をためらっているのかというと、砂だ。
窓を開けたときに室内に吹きこむ砂の量が、もう、すんごい。砂かけババアのせいなのね。そうなのね。

冷房の風が苦手で、とんでもない暑さにでもならない限り、外気を取り入れることで涼を得たい。
しかし、その代償となるのが、ここは浜辺だったか? と疑いたくなるほどの砂。

原因はなんとなくわかっている。開けている窓に面するのは、片側三車線の国道なのだ。大量の車が行き交うと同時に、たくさんの砂埃が舞っているのだろう。窓から室内へ吹きこむ風は、旅のお供に砂まで引き連れてくるわけだ。
つまり、私の部屋は窓を開けるのに適した環境ではないということになる。

新聞の折り込み広告によくある家の間取りのチラシを見ながら「あ~あ、こんだけ広い家に住めたらな」などと考えていた子供の頃の私とは違う。今では新聞の折り込み広告によくある家の間取りのチラシを見ながら「この立地なら窓から砂は入ってこないか……?」と考えるようになった。

そんなことを朝から晩までやっていると、今日一日を無駄にしたという罪悪感とともに「はたして窓を開けるための最高の立地条件とはなんだろうか」という疑問が日付の変わる頃にようやく生まれてくる。一日を無駄にしたという自覚があったはずなのに、さらにもう一日無駄にしようというのだ。

ぱっと思いつくのが、自然豊かな環境。
窓を開けると鳥のさえずりや、風が木々の枝葉を揺らす音が聞こえてくる。春は暖かな陽光が差し込み、夏の日照りが激しいときには、緑が優しくカーテンの役割を果たしてくれる。

最高だ! ここに決まりじゃないか!
と、私はハンコを押しそうになった。が、そこで気がついた。

虫だ。
自然が多いところには絶対に虫がいる。
以前、私が暮らしていたマンションでは、窓を開けると必ず虫がやってきて、次第にその環境にもなれ、羽音が聞こえても無視する(「虫だけに」って一応書いておこう)ような日々が続き、あるとき、どうせまた虫だろうと思っていたら、鳥がバサバサと部屋に侵入し、私は万歳のような格好で両手から足の爪先までピーンと伸ばした姿勢のまま「ギャース!」と叫び、ヒッチコックの映画を思い出すことになるのだが、それはまた別のお話。

では、こういう環境はどうだろう。
建物の中に建物を建てるのだ。大きな白い箱の中に私の家を造る。すると、私の部屋の窓を開けてもそこには砂も虫も存在しないというわけだ。

完璧だ! ここに決まりじゃないか!
と、私はハンコを押しそうになった。が、そこで気がついた。

その大きな白い箱の換気はどうなっている? もし仮にその箱自体が密閉されているとしたら、新鮮な空気を取り入れること自体が不可能ということになる。というか、その前に、出入りが不可能ということになる。そもそも、その大きな白い箱って何。

そこまで考えて、私はようやく気がついた。人の悩みなんてちっぽけなものだということに。そして、これまで開けっ放しにしていた窓を、もう夜だから閉め、さっと砂を掃除し、寝ることにした。

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