爆音でかかり続けてるよヒット曲#11『エルトン・ジョンに出会えなかった理由』（ハシノイチロウ）

LL教室のハシノです。
先日、映画『ロケットマン』を観ました。
世界的ポップスターであるエルトン・ジョンの数々の名曲と数々の奇行、その影にあった成長や苦悩、家族や友人との関係がミュージカル仕立てで描かれており、話題になりましたよね。

特に、作詞を担当する盟友バーニーとの出会いをきっかけに、アーティストとして成功を掴むところまでのサクセスストーリー部分が個人的共感ポイント。
初のアメリカでのライブで圧倒的なパフォーマンスを見せつけ、エルトン・ジョンは一躍売れっ子になっていくんだけど、自分もバンドマン時代にものすごく手応えを感じるライブをやって、一夜にして状況が変わっていったことを経験していて、規模は違えどそのことを思い出したりした。
　
そんな感じでスターへの道を駆け上がっていく前半から一転して、スターになっても満たされずアルコールや薬物におぼれていく後半は見ていてつらかった。映画『ボヘミアン・ラプソディー』と共通する展開。
だけど、エルトン・ジョンはソロでクイーンはバンドだったという点で両者は大きく異なる。私生活はボロボロでもバンドとしてステージに立つとかつての絆が蘇ったという『ボヘミアン・ラプソディー』に対して、『ロケットマン』のエルトン・ジョンはライブ中まったく楽しくなさそうで。
楽しそうに振る舞えば振る舞うほど、心の空虚さが引き立ってしまうという描き方になっていたのが印象的。
　
もはや死語かもしれないけど、バンドの化学反応とかメンバーの絆っていいもんだなって、逆説的に感じることができたのだった。
ということで『ロケットマン』は、『ボヘミアン・ラプソディー』に感動した方やロック・ミュージカルが好きな方をはじめ、広くオススメです。
　
ところで、お恥ずかしい話、今回はじめてエルトン・ジョンの音楽をちゃんと聴いた。そしたら曲がめっちゃ良くてびっくりしたんですよ。なので今回は、自分はなぜ今までエルトン・ジョンを聴かなかったのか、反省しつつ考えてみたいと思う。
　
まず、やはり世代的な要因が大きいはず。80年代後半から洋楽に触れはじめ、90年代にロックな価値観を植え付けられた自分のようなタイプにとって、エルトン・ジョンはどちらかというと批判される対象だった。
「オルタナティブ」（＝「～とは別のもの」的な意味）という言葉が出てきたのが象徴的なんだけど、それまでのメインストリームのロックとは違う、インディペンデントなものこそカッコいいという価値観だったのが90年代。

アーティストとしての積極的にリリースしていた時期を過ぎていた90年代のエルトン・ジョンは、たまに浪費や奇行がゴシップネタになる人。
大昔に売れ線のポップソングをいくつかリリースした人。ぐらいのイメージだった。そういったイメージが強すぎて、新規リスナーにとって聴いてみようかなと思えるタイミングがなかった。

同じような時代のシンガーソングライターの中でも、たとえばキャロル・キングやトッド・ラングレンといった人たちは常に若いミュージシャンからリスペクトされており、そこからたどってきた新たなファンを獲得し続けている。また、もう少しポップ寄りのアーティストでも、たとえばカーペンターズは、ソニック・ユースとかが参加したトリビュート・アルバムがあったので、それきっかけで聴いたし、ABBAも半分おちょくったようなカバーとかがたくさん存在するので、それがきっかけになりやすい。

それがエルトン・ジョンに関しては、自分が知ってる限りそういう感じの若手からのリスペクト企画ってこれまであんまりなかったと思う。
そして何より、リアルタイムだとエルトン・ジョンという人間の存在感、それこそ映画で描かれていたような派手なポップスター感が実体験でわかるんだけど、我々のような後追いの世代にはそこが伝わらない。曲は残るけど、存在感は残らないっていうか。
　
たとえばですよ、テリー伊藤が長嶋茂雄のすごさをいくら語っても、現役時代を知らない我々にとっては王貞治のほうが記録もすごいし、なんでそんな長嶋長嶋っていうのかピンとこないってことあると思うんです。
その感じで、記録よりも記憶に残るタイプの人って、時代によって文脈が変わってしまうと案外語り継がれないもんだなって。
なのでこういうリアルタイムの人が感じていた存在感みたいなものを追体験できる「ロケットマン」みたいな映画は本当にありがたい。

それでいうと、記録よりも記憶に残るタイプで、若い世代に存在感が伝わりづらいミュージシャンってことでいうと、たとえば日本だと尾崎豊でしょうか。いつの日か「I love you～尾崎豊の地図」みたいなタイトルで映画化されてほしい。ラストに救いがなさそうなのがネックだけど。