爆音でかかり続けるよヒット曲#9『八ヶ岳でカバー曲の機能性を再認識した件』(ハシノイチロウ)

LL教室のハシノです。
先日、「ハイライフ八ヶ岳」というフェスに行ってきました。
 
渋さ知らズや田我流など個人的にツボなラインナップに、マキタスポーツさんも出演するということで、これは行くしかないなと。
山梨県北杜市。いわゆる清里エリアで、バブル期にはさぞ栄えただろうなという感じのスキー場が会場で、ステージは3つ。
小さめのフェスに行き慣れてるはずのわたくしでも、思わず「えっ」となるようなかわいらしい規模だった。
メインステージがフジロックのアヴァロンぐらい、サブステージが苗場食堂ぐらいといえば伝わるだろうか。
フェス以外でたとえるなら、タワレコのインストアライブをやるぐらいの大きさ。
全エリアがすぐ隣接していて移動のストレスはなく、お客さんも多すぎず、
トイレにも食事にも並ぶことなく、快適に過ごすことができました。
 
ただ、フェスにおいて、客にとって快適であるってことは、集客面でどうなのって余計な心配もしちゃう。
だって出演者の顔ぶれがわりと豪華なんですよ。
元ちとせ、スクービー・ドゥー、渋さ知らズ、田我流、マキタスポーツ、勝井祐二、ジム・オルーク、オオヤユウスケ、ユザーン、そしてなんといってもSUGIZO!この規模でペイできるのかしら?と、ただの客ながらに心配になるほど。
 
ただ、みんな基本的にフルバンドでやってくる感じではなく、ピンだったりアコースティックだったりが基本スタイル。
件のSUGIZOも、普段X JAPANやルナシーで紅白だの東京ドームだのっていう場所で様式美な活動をやってる反動のように、この日はエフェクトをかけまくったバイオリンでひたすら前衛的な音を鳴らす感じの、誰にも遠慮しないライブを繰り広げていた。
そんな感じでも、熱心なスレイブ(ルナシーファン)たちが結構来ていて、大自然に似合わない黒尽くめのファッションで最前列を埋めていたのが印象的だった。
 
あといろんな人たちのライブを一通り見ていて興味があったのが、バンドサウンドの音圧やグルーヴに頼れない編成で、フェスという場所でどうやっていくのかっていう戦略。
みなさんそれぞれにキラーチューンがあったり歌の世界感があったりするものの、それでもツカミはあったほうがよいってことなのか、示し合わせたかのようにカバー曲をセットリストに入れていたのがおもしろかったですよ。
それなりに名が通ったアーティストであっても、やはりフェスだと初見のお客さんが多いわけで、ファン以外からすると知らない人が知らない曲をやってるだけなわけで。
そこでカバー曲という「共通の話題」で接点をつくるというのはすごく理にかなっているなと思いました。
たとえば元ちとせはフェアグラウンド・アトラクションの「パーフェクト」(バンド名にピンとこなくてもみんな聴いたことある有名曲なので各自ググってね)を、トレードマークである奄美のこぶしを効かせまくってカバーしてたし、スクービーは山下達郎の「ライド・オン・タイム」をファンキーにカバーしてたし、オオヤユウスケはフィッシュマンズの「いかれたBaby」をやってた。
 
いずれも、アーティストとしての個性がしっかりある人が有名曲を自分の味つけで料理するっていう理想的なカバーのあり方が成立していた。
もともとファンだった人からすると、フェスならではのうれしい試みになってるし、初めての人からすると、知ってる曲をこんなふうに料理するアーティストなのか!
というふうに、興味を持ったり理解を深めたりする手がかりになっていたはず。
 
今後の音楽シーンって、超有名なアーティストが人気を独占するのではなく、そこそこ食えてる程度にそこそこ有名なアーティストがたくさん活動する時代になっていくのかなと思っていて、そうなるとお客にとっては「はじめまして」な機会が増えるであろう。
その際に、興味を持ってもらって理解を深めてもらうきっかけとして、カバー曲がめっちゃ機能的じゃん!
ってことにもっとアーティスト側が気づいていくんじゃないだろうかと思っています。
 
なお、そんなハイライフ八ヶ岳においてマキタスポーツさんは最新のオトネタを披露し、かなりウケていました。
やや年齢層が高めの客層、そしてリテラシーは高めで、おそらくオトネタがど真ん中で刺さる感じのオーディエンスだったみたい。
我が家もそうだったんだけど、子連れが多めだったので、キンタマとかおしっこが絡むネタも爆笑を生んでいたよね。うちの長男4歳もしっかり掴まれていた。
 
キャンプサイトの一部がかなりハードにぬかるんでいたこと以外は、ラインナップも最高だったし本当に快適で気持ちいいフェスでした。
来年も開催されるようだったら参加したい!(初出・2019.9.10)

【ハシノイチロウ】
1976年、大阪生まれ。会社員であり、DJ・レコードコレクター。
2015年、批評家の矢野利裕、構成作家の森野誠一と音楽批評ユニット『LL教室』を結成。
・ハシノイチロウblog 森の掟
http://guatarro.hatenablog.com

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