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『クローゼット ZERO』〜その8〜

[➉純子と怜]
*麻生家
純子   板付き
―明転―
     純子、出かける準備をしている
     怜、部屋に入ってくる
純子:なんなの?ノックもしないで。私これから・・・
怜:どういうことですか!?
純子:なんのこと?
怜:今度の勝負、ウチが勝つように仕組んでるんですよね?
純子:あら?なんの話かしら?
怜:とぼけないでください!
純子:まったく、どこから情報が漏れてるのかしら。本当にだらしないんだから。
怜:なんでそんなことを。
純子:万が一のことを考えてよ。念には念を入れて。勝負っていうのはなにがおこるかわからないんだから。
怜:だからって・・・
純子:怜、甘いこと言わないでちょうだい。勝負は勝たないと意味ないの、勝ち続けないと。万が一なんてあってはならないのよ。
怜:僕のことを、信用してもらえないんですね・・・。
純子:・・・はあ、もういいわ。
怜:え?
純子:あなたがそこまで甘い考えだったとはね。もう、あなた達は大会出なくていいわよ。
怜:!?ど、どういうことですか?
純子:実はね、あなた達の学校だけじゃなく、この海老原市も近々隣の朝比奈市と合併することになってるのよ。
怜:え・・・
純子:それで、朝比奈市の学校にもダンス大会に参加してもらうことにしたのよ。この子達に出場してもらおうと思ってるのよ。(資料を渡す)
怜:こ、これは・・・。
純子:本当はこの海老原市から優勝者が出てくれた方が、後々有利にことが運べるんだけどあなたがこんな情けないようじゃね・・・まあ、しょうがないわ。
怜:待ってください!
純子:怜、念には念を入れてっていうのはこういうことを言うのよ。勉強しなさい。
怜:・・・。
純子:じゃあ私は事務所の社長と食事があるから出かけるわね。今晩は莉奈と二人ですませてちょうだい。じゃ、いってきます。
     純子、ハケ
怜:・・・クソ。
―暗転―


 
*道端
―明転―
     怜、トボトボと歩いてくる
NA:(ここから昔の純子の声)怜ちゃん、こっちおいで。
     怜、立ち止まる
NA:怜ちゃんはいい子ねぇ。
怜:・・・母さん・・・。
NA:怜ちゃんに妹ができるのよ。お兄ちゃんになるんだから、しっかりしないとね。
NA:怜ちゃんと莉奈は、私の宝物よ。
怜:母さん。
NA:あなた、なんでいつもそうなのよ?怜、あなたは向こうに行ってなさい。
怜:・・・・母さん?
NA:もういいわ。あなたとはもうやっていけない。別れましょう。
NA:怜、お母さん忙しいの、また今度にして。
怜:母さん!
NA:今週の日曜ですか?ええ、大丈夫です、ありがとうございます。
怜:・・・。
NA:はー、まさか全部落ちるとはね・・・父親に似たのかしら。いいわ、あなたは鳳凰学園に通いなさい。
怜:待って・・・
NA:私がこの街を変えてみせるわ。
NA:怜、私の期待を裏切らないでちょうだい。
怜:母さん・・・
NA:はあ、もういいわ。
怜:・・・・・うわーーーーー!!!!(叫ぶ)
     怜、膝から崩れ落ちる
怜:母さん・・・俺は・・・・
―暗転―
 
[⑪怜のキモチ]
*海老原駅南口
     凌、晃一、ジョー、元気   板付き
     みんな、イライラしてる 
凌:・・・・行くか。
晃一:・・・ああ。
ジョー:あれ?慎ちゃんは?
晃一:そういえば・・・
凌:あの野郎、この大事な時に・・・。
     怜、来る
凌:テメー!なにしに来やがった!!
怜:・・・話がある
晃一:こっちは話すことなんてねーよ。胸糞わりー。
凌:おい、行くぞ。
怜:待て、どこ行くつもりだ?
晃一:うるせー、どけ。
怜:待て・・・
凌:しつけーな!殴り込みだよ!お望み通り学校やめてやるよ!裏でコソコソしやがって・・・そんな大人ぶっ潰してやんだよ!!
怜:な、なに言ってるんだ。
晃一:せいせいしたろ?思い通りになって。てめーは一生ママの言うこと聞いてろ。
凌:もう二度と俺らにツラ見せんな。おい、行くぞ!ぶっ潰してやる!
     クズ高メンバー、頷く
怜:待て!話を・・
凌:うるせー!このネズミ野郎!テメーと話すことなんてねーっつってんだよ!!行くぞ!
     クズ高メンバー、行こうとする
怜:待てって言ってんだろうが!!(大声)
     クズ高、止まる
怜:学校やめる?やめてどうする?
凌:なんだと?(怜に詰め寄る、にらみ合い)
怜:お前ら、今までの状況がどれだけ恵まれてるかわかってるのか?好き勝手やってても、所詮俺らなんて親のすねかじって生きてんだよ!嫌だから学校やめんのか?その後はどうすんだ?もっと嫌なことが待ってる!仲間とも会えなくなる!
凌:・・・。
ジョー:それは困るね・・・。
怜:逃げんじゃねーよ!現実から目を逸らしてもなんも変わんねーんだよ!今のこの状況でどうにかするんだよ!いくら上が腐ってても、俺らまで腐っちまってどうすんだよ!自分たちの居場所をテメーで捨てるようなことするんじゃねーよ!大事なもんはテメーで守るしかねーんだよ!自分たちでどうにかしなきゃいけねーんだよ!
一同:・・・。
怜:頼む、今回の件、いったん俺に預けてくれ。
凌:なに言ってんだテメー、今さらテメーのこと信用なんて・・・
怜:頼む!俺を信用してくれ!(土下座)
一同:!!
     慎治、ホー学メンバー、来る
美樹生:怜・・・。
     美樹生、怜のそばに行き、怜を引き起こす
怜:美樹生・・・。
     美樹生、怜をブン殴る
一同:!!!
晃一:な、なにしてんだよ・・・。
美樹生:てめー、一人でなにやってんだよ!
怜:え?
美樹生:なにがあったのか知らねーけどよ、全部抱え込んでんじゃねーよ!俺らがいんだろ!なんのための仲間なんだよ!なんでなんにも話さねーんだよ!俺らお前のなんなんだよ!
怜:美樹生・・・。
     修兵、怜の前で土下座
修兵:すいませんでした!俺、怜さんのことなんも考えないで余計なこと・・・
怜:修兵・・・。
恵介:なあ、俺らにも話してくれよ、なにがあったんだよ?
凌:おい、お前らなに勝手なこと・・・
     修兵、クズ高の前で頭を下げる
修兵:頼む!怜さんの話聞いてくれ!
凌:な・・・
     守、クズ高の前に行き、頭を下げる。
守:僕からもお願いします!
晃一:先生・・・。
美樹生:怜は、怜はあんな裏切りするような奴じゃねぇ、なにか事情があると思うんだ、信用してやってくれ、頼む。(頭を下げる)
     恵介も頭下げる
一同:!!!
怜:みんな・・・。
晃一:・・・凌、どうする?
凌:・・・ここまでされちゃあ、聞くしかねえだろ・・・おいお前ら、頭あげろよ。
美樹生:助かる。おい、怜、聞かせろよ。
怜:すまん・・・。本当のことを言うと、母親がクズ高のことを潰したがってるのは最初からわかってたんだ。
凌:じゃあ、お前もそのつもりだったってことかよ!?
怜:違う!俺は、俺は・・・俺はなんとか・・・どっちも生き残れるようにしたかったんだ。
晃一:どっちも?
怜:あの人は、この街を自分の代で変えてーんだ。そのための手っ取り早い方法は、この街のマイナスイメージをすべて消し去ること・・・
慎治:それが、俺たちってことか。
怜:ああ。その結果さえ出せば、この街での地位は絶対なものになる。そしてこの街での実績を引っさげて、いずれは国会議員の座も視野に入れてる。あの人は目的のためには手段は選ばない。邪魔になるものは切り捨てもする・・・。
晃一:切り捨て?
怜:俺は、そんなやり方やめてもらいたかった。だから、俺らもお前らも生き残れる方向へ持ってきたかったんだ。そんな俺のやり方が気に食わなかったんだろうな・・・。
晃一:それで、お前のことまで切り捨てたってことかよ・・・。
怜:もう、代わりまで用意されてた・・・。
美樹生:そんなことがあったのか・・・。
凌:それにしても、テメーの母ちゃんは血も涙もねーな。実の息子を切り捨てるなんてな。そんな奴母親失格だ。裏切っちまえよ。
晃一:そうだよ、もうそんな義理もねーだろ。
元気:最低・・・
ジョー:うん、ゲコクジョーね、ゲゴクジョー!
凌:よし、やっぱり殴り込みだ!お前ら・・・
怜:やめてくれ!
一同:!?
怜:やめてくれ・・・あんな人でも、俺の・・・俺の母さんなんだ・・・。
美樹生:怜・・・。
怜:昔は、あんな人じゃなかった・・・。
凌:・・・すまん。
怜:・・・俺は、昔の優しかった母さんに戻ってもらいたかった・・・。
守:怜さん・・・。
美樹生:お前、欲張りすぎだろ。一人でそんな・・・。
恵介:でもよ、これからどうすんだよ、もう代わりまで用意されてるんだろ?
怜:ああ、こうなっちまったらもう母親がどうとか言ってる場合じゃねー。幸い、大会の出場を取り消されたわけじゃない。大会は出る。そして・・・俺らの代わり、そいつらはどうにかして辞退させる。
晃一:辞退?そんなことどうやってやるんだよ?
怜:この戦いは絶対に負けるわけにはいかねー。最悪、力づくでも辞退させる。
修兵:力づく・・・。
恵介:たしかに、手段は選んでられねーかもな。
怜:よし、だから俺らは・・・
凌:なに言ってんだテメーら!!!!
怜:!?
凌:ふざけんじゃねーよ!なにが辞退させるだよ!そんなんで生き残ってもな、嬉しくもなんともねーんだよ!!
怜:だが・・・
凌:お前言っただろ?俺らまで腐ってどーすんだって。
怜:比留間・・・。
凌:そんなことしたらお前の母親と一緒じゃねーか!いいか?俺らは腐らねー。お前らも腐るんじゃねーよ!相手が誰だか知らねーけど、実力で勝つんだよ!ズルなんてできねーぐらいの圧倒的な差で勝ちゃいいんだろ!俺はやってやるよ!だから、だからテメーらも全力でかかってこいよ、そんで、お前の母ちゃんの目、覚まさせてやれよ!
怜:なっ!お前ダンス素人だろ?勝算あんのかよ?
凌:そんなもん知らねーよ!勝つっつったら勝つんだよ!
怜:な、なに言ってんだ、こいつ・・・。
晃一:お前知らなかったのか?ウチの大将、バカなんだよ。
慎治:思い通りになると思ってんじゃねーぞ。
ジョー:それでこそ凌ちゃんね。
元気:・・・かっこいい。
凌:クズ高の底力、なめんじゃねー!真っ向勝負だ!
怜:お前ら・・・
美樹生:うおーーー!!!(号泣)
一同:!?
美樹生:(泣きながら)う、う、お前、いい奴だったんだな。
凌:お、おい、こいつなに泣いてんだよ・・・。
恵介:いや・・・
美樹生:(泣きながら)男じゃねーか!男だよ、お前、男だー。
凌:お、おう。
美樹生:(泣きながら)お前ら、いい頭持ってんな、こんな男なかなかいねーぞ。(晃一に)大事にしろよ。
晃一:あ、ああ。
美樹生:(泣きながら)俺ぁ感動したよ!こんな不利な状況でよ、正々堂々とよ、こんな男なかなかいねーぞ。(ジョーに)大事にしろよ。
ジョー:うん、大事にしてるよ。
美樹生:(泣きながら)普通逃げ出したくなるだろ。それをこいつはよ。男だよ。(元気に)大事にしろよ。
元気:・・・キモ。
美樹生:俺、こんな男初めてだぜ、男だよ、男。(凌に)感動した!!
慎治:俺は!?なんでいつもとばされんだよ!
凌:こいつ、こんな熱い奴だったんだな。
怜:スクールウォーズ見て号泣するタイプだ。おい、美樹生、わかったから泣きやめよ。
美樹生:ああ。(顔をゴシゴシ)へへっ、みっともねーとこ見せちまったな。すまねぇ。
凌:気にすんな。
美樹生:(自分のほっぺた叩いて気合を入れる)よーーーーっし!上等だ!お互い全力でやろうじゃねーか。そして、勝った方が莉奈ちゃんを手に入れる!比留間、勝負だ!
凌:莉奈ちゃんを?・・・やべー、そのことすっかり忘れてたぜ・・・
晃一:本当、バカだよな・・・。
凌:莉奈ちゃんをかけてか、おもしれー、やってやるよ!
怜:いや、今莉奈関係ないだろ・・・。
晃一:そっちの大将もだいぶバカだな。
怜:・・・まあな。
美樹生・凌:てめーら、やってやんぞ!!
一同:(お互い目で確認して)おっしゃー!
美樹生・凌:ぶっ潰す!!
怜:ったく、勝手に話進めるなよ・・・。わかったよ。ただ、対策は練っておく。修兵、それに花岡、あとで話聞いてくれ。
修兵・慎治:?
晃一:あ、そういえばよ、お前らの代わりってどんな奴らなんだよ?
怜:ああ、こいつらだ。知ってるか?(写真取り出し、見せる)
     一同、覗き込み、驚き
晃一:こ、これって!
元気:時雨!?
怜:こいつら、朝比奈市の高校通ってるみたいだ。
晃一:相手プロじゃねーか!!
恵介:やっぱ辞退させる方がいいんじゃねーか?
守:これはちょっと厳しいですよ。
凌:相手は皇潤のもやし野郎か!
美樹生:こりゃあ、ますます負けられねぇ。
晃一:おい、本気かよ?
凌:あたりめーだろ!
美樹生:上等だ。
怜:ぶっ潰す!
晃一:こいつも壊れた!!
―暗転―



つづく

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