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多分日本一詳しい北インド料理のニンニクと生姜のお話

 こんにちは!鰤子です!ネイティブインド料理教室は楽しんでいただけておりますでしょうか?かなりマニアックなことまで書いていますが、気になることがあればいつでも何でも聞いてくださいね!

 さて前回と前々回の記事では、①北インド料理-ベジ・ヒンドゥーホームスタイルと②北インド料理-ノンベジ・ヒンドゥーホームスタイルの料理体系においてのパウダースパイスの扱い方をまとめた2つの考え方について解説いたしました!
 しかし実際インドカレーを作るにあたっては、その他にも玉ねぎやニンニク、生姜にグリーンチリにトマトと他にもたくさんの食材が登場しますね。ここからはそういった一つ一つの食材に関して、①と②の料理体系では現地ではどの様な使い方をされて、そしてどういう働きをしているのかを解説していきます!生姜にしてもニンニクにしても玉ねぎにしても、レシピではインドカレーのレシピ本では普通に登場するものの、何がどうしてそうなるのかまで解説してある本はあんまりないですね!
 もしパウダースパイスの解説がマニアック過ぎて難しかった場合は、それら2つの記事は読み飛ばしていただいても大丈夫です!実はパウダースパイスのことが全く分からなかったしても、北インドカレーを美味しく作れる裏技があったりするんですよね…それはこの記事の最後のおまけで紹介します!
 それではここから生姜とニンニクについて解説していきますね!まずは生姜から見ていきましょうー!

インドと生姜

 これは雑学の域かも知れませんが、実はインドが世界で一番生姜を生産し、そして消費しているのです!!

ヒンドゥー教徒の家庭料理における生姜の重要性

 北インドの10の料理体系のうち、①北インド料理-ベジ・ヒンドゥーホームスタイルと②北インド料理-ノンベジ・ヒンドゥーホームスタイルはの2つの料理体系は中でも特に生姜を好んで使う料理です。もちろんニンニクも使いますが、ニンニクよりは生姜の方がみんな大好き、そんな感じなんですね。インドが生姜を世界で一番消費しているというのも頷ける生姜の登場頻度と使用量です。北インドカレーではチキンカレーなど、作るときにニンニクと生姜を両方使用する料理もたくさんありますが、それでもニンニクよりも生姜の方が使う量が多かったりして、何かと生姜贔屓な料理体系といえます。
 しかしなぜニンニクではなく生姜なのか、これはもう文化とか習慣とかそういうレベルで、理由を考えてもしょうがないのかもしれませんが、一応これを考えるためのヒントがあります。
 それは生姜が現在のインド辺り原産であるということです。これはターメリックとチリパウダーのことを解説た記事で書いた、①と②の料理体系でターメリックが頻繁に使用されることと同じ様な理由が背景にあることを推測できますね。ちなみに私はターメリックを積極的に料理に使用することについて、ターメリックとチリパウダーの記事では”宗教的な好み”であるかのように話しました。しかしこれ意外にももう一つ、宗教(や医学)に繋がる重要な要素があります。それが人種です。インド人は”大雑把には”人種的にはアーリア系とドラヴィダ系という2つの人種に分けることができます。ただこれはインド人に限らずですが、ある場所に暮らす人種にとって、やはりその土地で豊富に採れるものは相性が良いものなのです。それはその土地の気候風土とも関係しているでしょう。インドに暮らす人たちが、インドの気候で育つ食材を使って、日々健康に暮らすための知恵が医学(もっというとおばあちゃんの知恵袋的な、極端にローカライズされた食の話もあります。)であるともいえるので、①と②の料理がターメリックと生姜を頻繁に使用するのは、やはりそれらが彼らの体と相性が良く、彼らの健康に一役買っているからとも考えることができます。ただ人種のルーツにまでこまかく言及し始めると大変なことになってしまうので、これで一旦人種の話は終わりにします!
 それともう一つ、これは北インド料理に限らずインド料理全般であまり知られていないことなのかもしれないことなのですが、実はインドの家庭料理は”和を以て貴しとなす”的なノリがあります。クセが強くて辛いものばかり食べている、といった印象もあったりなかったりのインド料理ですが、実はクセの強い料理は1回の食事で登場したとしても1つか2つです。時と場合によってはクセ強料理が登場しない食事の場もありますよ。親子三代揃って食事をする場合なんかはそうですね。”お年寄りは変わったものとか、辛いものとか、クセの強いものはあまり食べない”というのはインドでもそうなんですね。
 定食(ターリ)ではご飯とお漬物、ダル、その他カレー味っぽいおかずが1つか2つか3つ程度登場しますが、お漬物がスパイシーでクセがあって、後はゴーヤみたいにクセのある食材の料理が1つあれば、残りは大体食べやすい料理で定食は構成されます。全体的にクセツヨ、みたいな定食はあまりありませんね。ではクセ強料理はどのような扱いかというと単品扱いです。家庭ではそれがターリの隅に盛り分けてよそられることがありますが、飲食店では単品で注文する料理の中にクセ強料理が入っています。単品がメニューに無いような定食屋ではターリにもクセ強が紛れることがあります。(*一般論なので、これにいは例外が多くあります。)

 このように①と②の料理体系では、各料理のスパイスの配合やニンニクや生姜などその他の食材で何をどれくらい使うかを考えるときは、あまり何かを尖らせず、全体を丸く収めるような感じでレシピを考えていくといいです。例えばニンニクは生姜に比べてやはり主張が強い食材ですから、何にでも使わず、使い所を考えて生姜とのバランスを取りながら料理を作っていくんですね。料理的にも北インドにはベジタリアンの方が多くいるので、必然的に豆や野菜を使った料理が充実しています。そういった料理を中心に定食を作るときには、不用意にニンニクを使うとニンニクが勝って、ニンニクが支配する食卓みたいになってしまうこともあるので、ニンニクよりは他の食材に馴染みがよい生姜の方が使い勝手が良いということもあります。

ヒンドゥー教の世界での生姜の健康効果

 ヒンドゥー教の医学アーユルヴェーダは、インド亜大陸に住む人々が健康に生きていくための叡智の結晶と言えます(他のどの医学もそうですが…)。そのアーユルヴェーダの考え方の一つに、食事の際に食べたものを消化するための力「アグニ」という考え方があります。アグニとは古代のインド神話に登場する火の神さまの名前なのですが、簡単に言うと”食べたものを体内でアグニが燃やして、人が活動するために必要なエネルギーに変えてくれる”ということです。アグニが元気な状態でいて、食べたものをしっかりと消化してくれる、この状態を維持することが日々の健康を保つために大事なことなのです。そしてこのアグニを元気にしてくれたり、アグニの働きを助けてくれる食材が生姜なんですね。これが①と②の料理体系で生姜が頻繁に登場する根底の部分なんですね。ちなみに体を冷やすとアグニが弱ってしまうので、冷たい食べ物や飲み物を極力避け、生姜を料理などに使うことでアグニが元気な状態を保ちます。なので食事中に氷でキンキンに冷やした水は飲むものではありませんし、生姜が全く使われていない食事というのもあまり考えられないんですね(ファストフードは別!)。また”体を冷やさない”ということと”必要以上に熱を帯びてしまって火照った体を冷ます”ということは全く別のことです!

北インドの家庭料理の料理名

 ところでちょっと話が脱線しますが、①と②の料理体系において料理の名前がどのように組み立てられているのか考えたことはありますでしょうか?それに関する知識があるとここから先、色々と便利なのでここで一度整理して解説しておこうと思います!
 北インドのヒンドゥー教徒の家庭料理の料理名はその多くが

A."食材名+食材名(2つのメイン食材の組み合わせ)"
B."メイン食材+存在感のある副食材(スパイス、ハーブ、香味野菜など)"
C."食材名+調理法もしくは状態を表す語"
D.”単一の食材名”

の4つのパターンに当てはまります。では実際の例を見ていきましょう!

例:

A."メイン食材名+メイン食材名"もしくは”メイン食材+副食材”
-アル・ゴビ(じゃがいもとカリフラワー)、パニール・マタル(パニールとグリーンピース)、シャルガム・ゴシュト(カブとマトン)、ビンディ・キーマ(オクラとキーマ)

B."メイン食材+存在感のある副食材”
-ゴビ・アドラキ(カリフラワーに生姜)、パニール・ラシュニ(パニールにニンニク)、ゴシュト・サフラニ(マトンにサフラン)、ムルグ・カリミルチ(チキンにブラックペッパー)

C."食材名+調理法もしくは状態を表す語"
-チキン・ジョル(汁っぽいチキン)、アンダ・ブナ(汁気のないゆで卵)、

D.”単一の食材名”
-サーグ(青菜の料理の総称)、ダル(豆-特にひきわり豆の料理の総称)、サブジ(これは野菜料理の総称ですが…)

 料理名は各単語同士をつなぎ合わせた”単なる組み合わせ”でしか無いので、ヒンドゥー語において文法的に正しければ、理屈の上ではどんな単語同士の組み合わせも成立します。ただ食材同士の相性、地域性による食べる食べない、個人の好みなどがあるので、単語の組み合わせとそうでない組み合わせ(料理)というのがあります。

生姜の使い方

 それでは次に、実際料理を作るときに生姜がどのように使われているのかを見ていきましょう!ここでは話を分かりやすくするために、にんにくを使わず生姜のみ使う場合について解説します。他によく使う食材としては玉ねぎがありますが、玉ねぎについても別の記事で詳しく解説することとしてこの記事では不使用のレシピを扱います!
*ちなみに玉ねぎについては私もよく質問を受けますが「入れても入れなくてもいい」、「よって入れ過ぎたら負け」、「日本の玉ねぎはインドの玉ねぎより水分をたくさん含んでいる」、「インド料理ではあめ色に炒める必要は特にない」→「玉ねぎそのものは別にそこまで重要じゃない」ということだけとりあえず覚えておいていただければと思います!玉ねぎの量で悩むくらいなら玉ねぎ抜きで作ってみたら良いですよ!

 ①と②の料理体系の料理では、生姜は使うタイミングが3つあります。そして生姜の切り方も色々あります。それぞれまとめると以下のようになります。

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