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【ウエストサイド season2】演者が変われば人物が変わる。複数キャストで演じる奇跡。

2月2日、豊洲の360度シアター「IHI ステージアラウンド東京」で上演中の「ウエストサイドストーリー season2」を観劇した。今回の「360度版」ウエストサイドは12月のseason1も観劇していて、セット、演出が同じだからこそより強調されるキャスト違い公演の魅力を感じることができた。

私が観劇した2回のプリンシパルキャストは以下の通り。

12月8日(日)マチネ公演        
  トニー:宮野真守
  マリア:北乃きい
  リフ:小野田龍之介
  ベルナルド:中河内雅貴
  アニータ:樋口麻美
2月2日(日)マチネ公演
  トニー:村上虹郎
  マリア:宮澤エマ
  リフ:小野賢章
  ベルナルド:廣瀬友祐
  アニータ:May.J

Season1を観た際には、これで演出が同じままキャストが変わった時に、どれくらいイメージが違って見えるのか、はたまた声優で歌手としても定評のある宮野真守のトニーが、歌い手としては未知数の村上虹郎に変わって見劣りしてしまわないか、正直心配でもあったのだが、そんなものは全く無用だった。


「陽」の宮野真守、「陰」の村上虹郎

役者が変わると、ここまで違って見えるのかと驚いたのがトニー役の2人。
宮野トニーは、長身とそのスター性で、明るく人懐っこそうな雰囲気が出ていて、Jetsの元リーダーとしても、このムードメーカー感でメンバーを取りまとめていたのではないか、と思わせる。一方で、村上トニーは彼にしか出せない独特の影が登場時から滲み出ていて、その誠実さや真面目さ、人の考えを慮って行動する慎重さがリーダー性につながっているような気になる。ドクの店での登場シーンは、全く同じ台詞にもかかわらず、滲み出る性格は全く正反対なのだ。

不思議なのは、この世界的に有名な物語で、トニーという登場人物のプロフィールも行動も決まっているはずなのに、役者が変わるだけで全く違う人物になり、かつそれでも物語が成立しているということ。元々の映画があるだけに、キャストが変わることでここまで変わることは奇跡にも思える。シーズン1〜3まで、それぞれWキャストなので、トニーだけでも6通りの物語があることになる。全組み合わせを考えると何十通りも。気障な言い方かもしれないが、毎日劇場では奇跡が起こっているのかもしれない。

この複数キャストの魅力は、もちろんトニーだけではない。例えば、北乃きいのマリアは、少し大人しそうな箱入り娘で、バルコニーのシーンでは、校則を破れない優等生のような生真面目さが出ている一方、宮澤エマのマリアは奔放で天真爛漫、屈託がなく明るいキャラクター。マリアの部屋で「I feel pretty」を歌うシーンはその自由奔放でコミカルな明るさが存分に出ている。同じ歌を歌っていても、そのキャラクター性によって、歌も少しずつ違って聞こえてくる。これは多分、観た人にしか分からないから、ぜひ見て欲しい。


村上虹郎の表現力が発揮される「マリア」

どちらのキャストもそれぞれに魅力があったのだが、私が特にお気に入りだったのは、村上虹郎トニーの歌う「マリア」。ミュージカル初挑戦で、これまで(バラエティや役の演技以外で)音楽活動歴があまりない村上虹郎は、素人の私でも明らかに声楽的ではない歌い方をするのだが、感情が他のどのキャストよりもダイレクトに載っていると感じた。その独特の声と抜群の演技力で表現する「マリア」は格別で、中途半端に声楽の技術を入れず、演技力だけを駆使して歌い続けて欲しいと思ってしまった(それをキープし続けるのも難しいのだろうけど・・・)本当にまた聴きに行きたい。あとサントラCDを出して欲しい。


Wキャストの魅力を多くの人に感じて欲しい

宮野真守のSeason1はもう終了してしまったが、Season2はまだ上演中で、今後Season3も控えている。それぞれがWキャストで、2日連続で見ても昨日と異なるウエストサイドストーリーを見ることができるのは、複数キャストの上演があるミュージカルならではだろう。きっと、蒼井翔太、森崎ウィン、そして王道ミュージカルの柿澤勇人と浦井健治のトニーもそれぞれ全く違うものになるに違いない。

もちろん複数公演を見比べなくても、一回見るだけで世界観を十分に感じられる。まだ一度も360度劇場に足を運んだことがない人は、ぜひ世界的に有名なミュージカルを上演中の今、一度行ってみて欲しい。観てみて欲しい。感じて欲しい。何十通りもあるキャストたちの熱演を。




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