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作品撮りをしているプロ = ダメなカメラマンという定説


SNSを見ていると作品撮りを多数公開しているプロカメラマンが非常に多く見受けられ、本職の撮影よりも作品撮りに夢中になっているようにさえ見えたりします。

そしてその作品をみた周囲の人々が素晴らしく賞賛しているわけなんですが、今回はそんな不思議な現象を否定する記事を書いてみたいと思います。

※ なお、ここでは『職業カメラマン』と『写真作家の創作活動』は異なるものとします。

■ 私が作品撮りをしていた時期

かくいう私も、かつて広告撮影を生業としていた時代の初期に積極的に作品撮りをしていました。

どういう時期どういう時間に作品撮りをしていたかと言いますと、仕事時間の半分はカメラマン、もう半分は先輩がたのアシスタントをしていた時期で、仕事の隙き間の時間や休日の時間を見つけては作品撮りを行なっていました。

モデル事務所から紹介を受けた駆け出しの新人モデルやキャリアの浅いヘアメイク、スタイリストなど、同じようなルーキー陣がチームで作品を作る感じで、それぞれののポートフォリオ(過去作品などを入れるバインダーのようなのもで、ブックとも呼ばれる)やコンポジットを充実させることを目的としていることが多かったです。

■ 作品撮りをしていると馬鹿にされる世界

因みに…私以外の諸先輩カメラマンがたは数多くのクライアントやレギュラー仕事を抱えているため、作品撮りなどは一切しないし時間もない。もちろんブックを作る必要もありません。プライベートでカメラを持つことも無いし、作品撮りなどという金にならない撮影なんて絶対やりたくないと思っていたはずです。

なので諸先輩がたは私が作品撮りをしていると『お前、まだ作品撮りなんてやってるのか』(早く一人前になって仕事を取ってきて金になる撮影をしろという意味で)とよく小馬鹿にされたものでした。

■ 作品撮りは仕事に繋がるのか

さまざまな専門カテゴリーがあるので一概には言えませんが、自分の場合は作品をみた人からぜひ会ってみたいと言われて仕事に繋がったのはたった一度きり。あとは先に仕事が決まっていて念のためブックを見せる程度のことが多かったです。というか作品なんて見せなくても仕事が決まるときは決まるんですよね…。

よく『横の繋がりを作るために』なんてカッコ付けていう人がいますが、それは作品撮りに限ったことではなく他の場面で言えることなので作品撮りはまったく関係ない気がします。(結局は上から降ってきた仕事が横から流れてくるだけなので横だけでなく上の繋がりも絶対に必要です)

■ プロのカメラマンなら素人モデルを作品に使うな

SNSをみているとプロを名乗るカメラマンがSNSで被写体として活動する素人モデルを起用している写真を数多くみます。

中には素材として素晴らしいモデルも何人か見受けられ、Hanakoとかに載ってそうな(バカにしてませんよ)エモ系の素敵な写真に仕上がったりしています。

さて、ここからは個人的な意見ですが、作り込み作品やナチュラルメイク以外のコテコテのメイク作品などに素人モデルを使ってしまうと本当にキツくて目も当てられない写真に仕上がってしまう気がしてならないのです。

そこはやはり造形的な意味でも非現実を想像させる意味でも日本人以外を起用するべきだと。

プロであれば有名どころのモデルエージェンシーから外国人モデルを借りることはさほど高いハードルではないはず。なのにそれをせずにお手軽に素人モデルを起用して顔や髪の毛にいろいろと食っ付けまくった駄作を作り出す意味が本当にわからない。

私がいま見ている範中のプロカメラマンがたまたまそうなのかも知れないが…。

■ 作品撮りの結果は作品としても今ひとつ

実際に人物撮影の作品撮りを行ったり他人のポートフォリオをみて感じるのは、やはり作品撮りには試し打ち的な成果はあってもカタチとして残す芸術的な域やクライアントから仕事を頂ける域には達しないということ。

ヘアメイクやスタイリストが手掛けた作品に関しては彼ら彼女らの技術を示せる作品であってカメラマン自身が世に送り出すには今ひとつ独創性が足りないことが多い気がします。

■ 作品撮りはブックから外していかないと恥をかく

『案件別に作品撮りをしてブックの写真を入れ替えろ』というようなツイートをみたことがありますが、実際にはあまり意味がないように思います。

なぜなら作品を見せて技術を裏付けようとしても作品撮りは所詮は練習試合の結果であって、クライアントは練習結果よりも実績を見たがっていることが多いからです。案件に近付けた作品を見せることイコール『実際は仕事では撮ったことがありません』と自ら墓穴を掘ることにもなります。だったら見せないほうがマシです。

私自身もアパレル撮影のオーディションで審査側に回ることもありましたが、モデルが持参するブックの中身100%がメディア掲載時の印刷物であり、クライアントからみたらワケの分からないカメラマンとの作品撮りのような説得力のない写真は一切入っていない。

同じようにカメラマン側も自分の撮影実績をファイリングすると同時に作品撮りの写真はどんどん抜いて実績100%にするのが理想なのです。

実績以外の使えないデータはInstagramにでも放り込んでおけば充分です。

■ 作品撮りという名目はアマチュアカメラマンに譲るべき

ここまで書けば、職業フォトグラファーの世界においての作品撮りがどのような性質のものか多少は伝わったのではないでしょうか。

個人的な意見として、作品撮りに一生懸命になっていいのはアマチュアカメラマンの特権とも言えると思いますし、プロは作品撮りという行為を格好よく語らないほうがいいと思うのです。

ただしヘアサロンの(ヘアスタイル等の)作品撮りはそのまま美容師さんの作品を撮っているという意味なので今のままでいいと思っています。もはや美容師さん自身が素敵な写真を撮る時代になっていますが…。

アマチュアカメラマンであればブックに関しても作品をファイリングして『こんな作品撮ってますよ』と他人にアピールするツールとして積極的に使っても全然良いですよね。

■ それでもプロカメラマンが素人相手に作品撮りをする理由

最後に。それでもなぜプロカメラマンが素人相手に作品撮りを繰り返すのか、その理由はこの記事を読めばなんとなく察しが付くような気がします。

きっとアマチュアのカメラマンさんと同じように単に撮影をたのしみたいのではないかと推察しますが、事務所に所属しているモデルよりも時間や条件の融通が利くという意味ではカメラマン自身の都合に合わせやすい、悪い言いかたをすれば事務所のモデルよりも都合よく利用しやすいと言い換えることもできます。

また、プロの世界では大したメリットのない作品撮りをだしに個人的な行動にまで付き合わされたり売名に利用されたりという現状も考えて、素人の被写体側も多少は線引きをしたり警戒すべきではないかと個人的には思っています。


以上、今回はプロカメラマンの作品撮りに関して皆さんが誤解している内容を解いてみました。ではまた次の記事で。

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