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「Loop Hero」はRPGなのか

「Loop Hero」というインディーズ・ゲームが売れている。Steamで50万本を超えるスマッシュヒット、と日本のゲームメディアも報じている。彼らは本作をRPGにジャンル分けしているが、ただしくはアイドル(放置)ゲームである。

令和になってもRPGをマーケティング用語として濫用してるゲームシーンってヤバい。ゲーマーが未だにRPGを求めているとしても、これはRPGじゃないぞ、と思いキーボードをカタカタ言わせることにした。

各メディアの書き方を見てみよう。

ファミ通
ぐるぐるループしながら成長していくローグライクRPG『Loop Hero』が発売初週で50万本を突破
4Gamer
インディーズゲームの小部屋:Room#674「Loop Hero」
本作は,スゴロクのようなマップ上にカードを配置し,装備や資源を集めてキャラクターを強化していくRPGだ。
Automaton
循環RPG『Loop Hero』はやくも売上50万本突破。ゲームスピードの追加や新クラスなど今後のアプデも予告

いずれもRPGと書いている。

一方、パブリッシャー(販売)はRPGとタグ付けているが、ディベロッパー(開発)は公式サイトのゲーム紹介(About this game)やPVにおいてRPGとは言っていない。Steamで当初はRPGのタグが表にでていたが、プレイヤー達が設定したタグによって沈められており、RPGだと思われていないことを示している。

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開発はRPGと言っていないが、パブリッシャーがRPGとしてプレスリリースを配った。そして、メディア各社がそれを鵜呑みにして「コタツ記事」を書いてしまっている。本作を実際にプレイしたら、このゲームにRPG要素が無いことに気づいていたはずだ。

Loop Heroはどんなゲームか

ひとまずこちらのPVを御覧いただきたい。Loop Heroにはいろいろな要素を組み合わせたミクスチャー・ロックみたいなところがある

ピクセルアートの冷えた空気を感じると思う。そして環状の道が特徴的だ。でも雰囲気しか伝わらなかったと思うのでもう少し具体的に説明する。大雑把に言うと、本作は遠征(ステージ攻略)とデッキ構築の2つのフェーズに分かれている。2つのフェーズを繰り返していくことで自身を強化し、ステージをクリアしていく。

遠征フェーズでは、ヒーローが環状のコースを自動的に周回する。コース上でヒーローが敵と出会うと自動的に戦闘する。戦闘に勝利するとプレイヤーは戦利品としてカードや装備を獲得する。そのカードをマップ上に配置しヒーローを強化したり、コースに配置し出現する敵を強化したりできる。配置の組み合わせでコンボもある。

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環状のコースを周回

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自動戦闘を見守る

また取得した装備はヒーローに装備させるが、ランダムで特殊効果(攻撃速度や回避等)が付いているので、特定の方向の装備を集めるのがポイントだ。周回を進めて、カードを配置しコースを強化していくと一定のところでボスが現れるので、これを倒すとステージをクリアできる(または稼ぎを続けてもいい)。

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追加効果のついたアイテムを集めていく

デッキ構築フェーズでは、遠征を通して得た資源を消費してベースに設備を建築できる。すると新しいカードがアンロックできたり、ヒーローのステータスを強化できたりする。アンロックしたカードでデッキを更新し、遠征フェーズに備える。こうしてヒーローの基礎能力を高めていく。

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設備の開放と建築

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デッキ構築

Loop Heroは遠征でステージに挑み、その収穫でデッキを構築する、ということを繰り返すゲームだ。コースを周回をすることで敵が自動的にスケール(成長)していくので、それに負けないようにヒーローを強化する。そのためには、プレイヤーがコースと装備を上手く管理する必要があり、それが本作のゲーム体験の核になっている。

Loop Heroはアイドルゲームである

前節でLoop Heroの特徴を概説したが、アイドルゲームの見守りを土台に、そこへ簡単なデッキ構築や装備更新を載せた構造になっている。そのへんの操作を頻繁に行うので単に見守るだけの時間は少ないのだが、間接的な操作に留まっていて、アイドルゲームの本質と一致している。

アイドルゲームは放置ゲームやIncremental Game、Clicker Gameとも呼ばれるマイナージャンルだ。国内では「クッキーババア」こと「Cookie Clicker」が比較的有名だろう。こちらは設備を整えて、クッキーを数字として積み上げていくゲームだ。

「見守る」とは操作が必要ないことを、「Incremental」とは数字を積み上げていくことを意味している。詳しくはこの辺この辺を読んで欲しい。基本的な構造としては、何らかの作業を行う主体が居て、プレイヤーは環境を整えたりメンテしたりしてそれを間接的にサポートすることでゲームを進める。その主体は自動的に動作・進行しており、プレイヤーはその動きそのものに直接関与できない(または関与を制限されている)。

Cookie Clickerの例で言えば、始めはプレイヤーがクリックすることでクッキーを生産していき、その生産物を消費することで設備を導入・強化すると生産が自動化されていく。するとプレイはーがクリックして直接生産することはなくなるが、設備が自動的に生産するので、設備の導入・強化を効率的に行うことで生産をサポートしていく。こうしてより多くのクッキーを効率的に作るゲームになっている。

このように、クッキーの生産を効率化することと、Loop Heroのヒーローとコースを整備することは、プレイヤーの体験から見て間接的な関与という点で一致しているのだ。

さて、これでもまだLoop HeroがRPGだと思えるだろうか。もしかしたら装備更新による成長をRPG的な要素だと思ったのだろうか。でも装備更新はローグライクやストラテジー、ハックアンドスラッシュなどの多彩なジャンルに実装されていて、RPGに固有の要素ではない。

それに本作におけるアイテムの追加効果(Mod)を吟味して装備を整えていく過程は、RPGというよりもローグライクやハックスラッシュの体験に近い。

そもそもRPGとは何か?

RPGとは何かについて論じ始めると長くなるので手短に切り上げる。

RPGは、2Dまたは3Dの仮想空間で、シナリオやクエストの問題を戦闘をはさみながら解決していくフォーマットの内、戦闘がアクションやストラテジー要素の弱いものを指す。と私は考えている。

多くのRPGはキャラクター育成要素を有しているが、固有の要素ではないと思う。しかし、多くのプレイヤーは、ドラクエやFFなどのRPGによって育成要素に初めて触れたため、育成要素がRPG固有のものだと刷り込まれてしまっている。ここで言う刷り込みとは、うずらに初めて見たものを親として誤認させる意味である。

例えば古典的なシューティングでは、RPGと同じ様に敵を倒し武装を成長させたとしても、RPG的だとは誰も思っていない。恋愛シミュレーションゲーム「ときめきメモリアル」で主人公のパラメーターを成長させたとしてもRPGだと認識されない。あくまでバトルに付随して成長した場合のみ、あなたはRPGと捉えているはずだ。

つまりバトルの下部システムとして成長要素を位置づけることができる。その上で思考実験として、RPGツクール制のゲームで戦闘ありで成長や装備変更なしを想像してみてほしい。これはRPGに含まれるのではないか。一方で戦闘がなかった場合はアドベンチャーにカテゴライズするはずだ。

以上論述してきたように、RPGとは、仮想空間の中でシナリオ上の問題をバトルや対話で解決していくフォーマットをさしている。成長要素はRPG固有のものではなく、バトルに付随するオプショナルなシステムにである。だから成長要素でもってLoop HeroをRPGとしてカテゴライズしてはいけない。

まとめ:RPGではなくアイドルゲーム

Loop Heroの正しいジャンルはアイドルゲームである。本作にもRPGのような成長要素があるものの、成長要素がRPG特有のシステムとはいえないため、本作をRPGと言うのは誤りだ。

本作にもちょっとしたシナリオや対話シーンがあるが、もちろんこれらもRPG特有と言えず他の多くのゲームに共通して存在する要素である。それ以外にRPGに関わりそうな要素はなく、ゆえに本作をRPGと呼ぶのは難しい。

アイドルゲームをもっと深く知りたい場合、ひとまずCookie Clickerが良いだろう。日本でもっとも広くプレイされたアイドルゲームなので、日本人の気質に合っているかもしれない。

おまけに本作の個人的な評価もメモっておくと、本質的にはアイドルゲームなのだが装備更新やカード配置などで操作が忙しい。また戦闘中はカードを配置できないため、戦闘後にたびたび時計をとめて配置する必要があるなど、全体のペースがギクシャクしているところが好きではない。クールなビジュアルとサウンドからなる雰囲気などはとても良い。 

スコアは6.5/10で「良作かな?」くらいだと思っている。

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