苦くて、あまい
コーヒーはブラックが好き。
苦味を楽しみながら飲む。
後味もすっきりするし。
チョコレートなどの甘いものを食べる時、一緒に飲むのはブラックに限る。口の中にある糖分をコーヒーで一掃する…罪悪感も流してしまえる素敵な作業。甘くてにがくて永遠に繰り返していられる。砂糖入りのコーヒーだと、そうはいかない、罪の意識が蓄積していく感じがする。
コーヒーが飲めるようになったのは社会人になってからだ。
それまでは紅茶一辺倒、特に午後の紅茶が好きすぎてKIRINに熱烈な手紙を送ったことがあるほどだ。大人気スターにファンレターを書いても返事が来ることなんてないだろうけど、そこはさすが天下のKIRINさん
「お手紙ありがと!気に入ってくれてうれしいな♡これからもよろしくね♡」
とお返事が来た。内容は私の感じたイメージ、もちろん本当はちゃんとした文章だった。
大勢のファンに向けた印刷された定型文でも、お返事はうれしかった記憶がある。
ああ、今回はコーヒーの話について書くんだった。
その昔、最初に働いた職場ではお客さんにコーヒーをいれるのが慣例となっていた。
お洋服を沢山買ってくださった方や常連さんは、会計が済むと奥のテーブルに案内されてお話をしていくのである。
素敵なカップにネスカフェゴールドブレンドを入れてお出しする。
時々は、それに付き合って飲まなければならなかった。新人の頃のコーヒーが苦手な私は、クリープをバカみたいな量入れてベージュの飲み物にして飲んだ。そしてお客さんの世間話に、へーすごい、愚痴にえー大変、などと慣れない相槌を打ちながら聞いていた。
時が経ち、お客さんのコーディネートを考えられる頃には、こげ茶くらいの色で、差し入れのお菓子と共に美味しく飲めるようになった。
お客さんのオレスゲー話をにこやかにききながら、頭の中では次の来店に繋がるような甘い返しの言葉をずっと考えていた。
その頃仲良くしていた歳下の男の子と食事に行った時の話。
食後の飲みものを頼む際に
「『男はデートの時ブラックコーヒーを飲むんだ』っておじさんが言ってた」
とコーヒーを頼んだ彼。
私はたっぷりとミルクを入れながら
「へぇ、そうなんだ、なんだかかっこいいね」
と言いながらも、その時は何のことだかわからなかった。
少し後からブラックコーヒーを飲むようになって、その意味を理解した。
まあ、理解した意味が正しいかどうかはわからないし、その彼に訊くことも、多分ないだろう。
The Verveの’Bitter Sweet Symphony’
ストリングスが美しくて、うっとりするような曲。でも内容は、人生は苦くて甘い交響曲、なんてフレーズを混ぜながらひたすら苦悩している歌。
日々生きてると、苦々しいこと、甘々なこと、それだけじゃなくしょっぱくピリ辛なことも、甘酸っぱいこともたくさんあって。いろいろが交ざり、響き合ってる。
The Verveを聴きながら、ちょっとだけセンチメンタルな気分になった。
秋だし、ね。
2023.9.28
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