しま

香川の夏

転ばせにかかっているとしか思えない石段の傾斜を、せっせとあがってそこそこ高い神社の境内にたどりつく。妖怪が建てたような石の鳥居の下をくぐるまえに、石段と、その下の町並み、さっきまで泳いでいた市民プールのある運動公園を振り返った。ゴロゴロとした灰色の石のつらなりの下に、アスファルトの道路が見え、木々にさえぎられて、あとは屋根ばっかり。そして、田んぼ田んぼ、左右におにぎりのような山がぽこぽこ。視界の中で、遠くに私が乗ってきた電車がまっすぐ右の山から左の山へ移動する。電車の向こうはやっぱり田んぼ。イオンスーパーのピンク色の箱。その先には、真っ平らに青く海の帯。薄い鉛筆で書いたような水平線。のんびりとかすむ空の色。

夏の日差しの光線をすりぬけて、たくさんの風が吹いてくる。

塩素でぱさぱさの髪の毛も、気持ちよさそうに揺れる。

スカートもまくれあがって、でも誰もいないので気にしない。

ひとしきり眺めてみたところで、鳥居をくぐって、本殿にいちおう手を合わせた。本殿の奥は、反対側の道に降りる石段があって、そこはうっそうと草が生い茂り、表の石段よりさらに難易度が高い。苔もたくさんある。

数年前の冬日に、長野県のある街で、同じような石段の神社をはいつくばって上ったことを思い出した。雪がぎっしりと石段を埋め尽くして、滑り台一歩手前のようになっていたのを、境内にあがるために必死こいて四つん這いで進んだのだ。よく無事だったものだ。

地元の夏はいつもこの風景から始まる。プール通い、帰り道の神社、単線の電車はいつだって空いている。そのあとで、ごちゃまぜにおかずが乗ったタコライスを食べにいつものご飯やさんに入る。ご飯やさんは、狭いけどまあまあ混んでいて、あまり話す暇がないけど、サラリーマンの人たちが一気に去ると、おすすめの本や、今日かかっているBGMについて、世間話をする。たまにデザートのソフトクリームまで食べてしまい、プールで運動したカロリーは元通りに補充される。

空を仰いだ。

信号が青に変わって道路の真ん中まで来たところで、水泳バッグをお店に忘れたことに気がついて、のろのろと来た道を帰る。

こんなことを続けているうちに秋が来て、秋は秋のルーティンが私の生活を回す。

規則正しい動物のように遊んでいたい。

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