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幸福というのはどこにあるのだろうと思う。

いつも私は探しにいって必死にそこらじゅうをあさり、疲れて幸福をさらに減らしてしまう。
「幸せはあなたのが足元に」むしろ「幸せはあなたの中に」という台詞があったなたしか。心が明るいと、なんでも楽しくみえてしまうものなんだろう。

どうしたら、心に明かりを入れられるのか。

真理子はうつむいたまま、帰り道をいそぐ。イタリアンレストランでの勤務が終わった後は、なにもせずに家に帰って冷凍ご飯をあたためて、スーパーのお惣菜と一緒に黙々とたべて、お風呂に入ってねるだけだ。

たとえば、電車を反対方向に二駅もいけば、スカイツリーが見えて、そこで雰囲気の良いカフェかなんかでお酒を飲んで、いい気分で夜ご飯ぐらいは楽しめるのかもしれない。でもでも。その後、遅くなってから家路につくのが面倒なのだ。

面倒くさい。

私は疲れている。それは間違いない。仕事に。誰かと一緒なら、疲れていることを忘れて騒げると思った。

「おーいだれかあ、私を遊びに連れて行ってよ」とつぶやくと、前から来た男が「それじゃ、これからスカイツリーでも見に行こうよ」と返事した。
ギョッとして、まじまじと男の顔を眺めると、男はイヤホンをつかって携帯電話で相手と話をしているところだった。真理子の視線を「?」という表情でキャッチし、すれちがった。

疲れた。疲れた。もう一歩も歩けない。やっぱりレストラン辞めるべきかも。なにが悪いのかわからないけど、スタッフも親切で、まかないも美味しいけど、毎日行列してお客さんが押しかけてきて、なんかもう、あそこは賑やかすぎる。地元の田んぼが恋しい。あーそろそろ蛍が出てくる時期だな。

無性に寂しくなり、地元の友達に電話を入れた。何年振ぶりだろう。

は?どうしたん?ごっつ急やなー元気しよん

もう毎日むっちゃしんどい。

えー、いま仕事のかえりなん?

うん、さっきな、独り言ゆうたらすれ違った人が返事したからびっくりしたんやけど、その人携帯で話しとるだけやったわ

独り言?しんどいわあーとか?

うん。そしたらスカイツリーでもいくか!って返事されたからびっくりしたわ

ついていったらよかったのに

やめろや、本人がスカイツリーみたいにピッカピカの禿ちゃぴんやで

あんた、高校んときすきやったやん、吉田せんせい。あの禿。

禿げといえば、そろそろ蛍、でた?

禿といえば、って。いや、住んどるとなかなか見に行かんからな、どうやろー出たかなあ?あんたたまには帰ってきーよ。一人で蛍やん見に行けんし。


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