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④とける
ソフトクリームを舌でからめとりながら、ふとプールの塩素のにおいを嗅いだ気がした。今日の日付を思い起こす。そうだ栗の花が咲く季節だ。今年も初夏がきた。季節がめぐるというが、四季は輪を描いているとは思えない。半袖の腕をとりまく風の肌触りや、髪に降る陽ざしや、ソフトクリームのおいしさなど、経験済みのことばかりなのに、まったく新鮮で喜びに満ちている。皮膚感覚であじわう記憶。思考を介さない、手つかずの記憶。
私は初夏が好きだ。
空はバニラアイスとソーダアイスのようにさわやかな色合いで、耳に差したイヤフォンからは陽気なポップソングが流れる。このまま、頭のなかを気持ちいい空気がどんどんさらってしまえばいい。身体ひとつで季節を生きていきたい。
庭の中にはいくつもの花壇があった。なんの変化もみられない土のしっとりした面を眺めながら、この学校からは何年すればでられるのだろうと、何を習得すれば卒業生として認められるのだろうと思う。
出たところで、塀の高さなど関係なく季節は地面から風から空から、どこからでもやってきて、世界中を満たしてしまうのに。それでも、外へ行きたいのには、私には足があり目があり耳があるからだ。
出ること。
思えば、生まれるときも、特に選択肢はなく出るだけが目的だったのだ。
卒業生になるには?と昨日先生に聞いた。
先生は笑って、あなたはもう出ているよ、といった。
そうなのだ。
門はいつも開いている。なのに私の足は門をくぐらない。門の外からも風はこっちへ吹いてくる。行ってみればいい。でも、それは、あっちの世界へ「入る」ことでもあるのだ。
いつでも出ていける、と思いながら、塀の周りをぐるぐると歩き回ってソフトクリームを食べる日々。皮膚感覚で生きるのだ。瞬間で。物語の中に生きれば、世界が「こっち」と「あっち」に二分化されてしまうから。
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