見出し画像

なぜカナダのスマートシティチャレンジは的外れなのか?

case|事例

(カルガリー大学Ryan Burns准教授の論考)
カナダ連邦政府は2017年にスマートシティチャレンジを立ち上げ、テクノロジーを活かして都市生活を改善できる自治体に対して最大5,000万ドル(約73億円)を授与することを決定した。スマートシティチャレンジには数百の自治体から応募があり、幾度かの選考を経てモントリオールが5,000万ドルを手にすることとなった。現在、カナダ連邦政府は2回目のスマートシティチャレンジを企画している。

一方、この数年の間に、スマートシティはそのアイディアよりも知的で高度なテクノロジーが適用されることは稀で、社会的な利益よりも企業の利益が優先されがちではないかという疑念が生まれている。もともとスマートシティという言葉自体が、ビジネスマーケティングの用語としての起源を持つ。IBMが2009年に発表した「Smarter City」という概念は、知的なテクノロジーを適用するということよりも、IBMが販売したい技術群としての性格が強かった。

現状、テック企業のマーケティングが、どのように都市問題を解決するのかという自治体の意思決定に大きな影響を及ぼすようになっている。しかし、テクノロジーのみで都市問題を解決できると考えると、問題の根本的な原因を見落とすことになる。例えば、ホームレスの問題は、ビッグデータの解析やWi-Fiの提供などで解決できるような問題ではなく、住宅価格の高騰や労働市場の不安定さなどを含むより広範で総合的な問題である。そもそも都市の問題とは、データやテクノロジーだけでは解決できない複雑な政治的問題と言える。

次のスマートシティチャレンジの公的支出は、何世代にもわたってカナダの都市を形づくることになるが、残念なことにプロセスの透明性や説明責任は十分といえない。カナダとは対照的に、バルセロナはe-デモクラシーをスマートシティの中心に据え、テクノロジーによって市民の参加やコミュニティの関与を促進しようと努めている。搾取的なデータ収集やプライバシーの軽視などによるSidewalk Torontoの失敗は、テクノロジーを重視し、コミュニティニーズを疎かにした場合の警告と言える。カナダでもコミュニティとの対話や市民の関与に力を入れるべきだ。実際、1回目のスマートシティチャレンジの提案にはコミュニティニーズに基づくものが多くあった。スマートやデジタルを目標とせず、より本質的な問題に焦点を当てるために、スマートシティという言葉を捨てることも一計だ。公平な都市や健康な都市とする方が本質的な問題に目を向けやすい。

また、次のスマートシティチャレンジでは、課題の設計フェーズで自治会やNPO、市民団体、プランナー、政策立案者など幅広い層を巻き込むと共に、テック企業を外すべきだ。都市政策はテクノロジーによって制限されるべきではなく、課題を認識するための民主的な議論が基本にあるべきだ。テクノロジーは二の次で、テック企業は課題が設定された後でそれを解決するために貢献すればよい。

insight|知見

  • NYCの都市イノベーションへの警告をまとめた先日のコーネル・テックのレポートも同様ですが、テクノロジー偏重主義は一度見直すべきではないかと感じました。

  • 自動運転や電動キックボード、デジタルツイン、位置情報解析など様々な技術の実証が行われていますが、果たしてそれが当初想定の都市問題をどれくらい改善しているのかということはきちんと事後評価をする必要があると思います。

  • テクノロジーをいかに適用するかという技術論から、それを都市にどう実装して生活を改善するのかという政策論に移行するべきですし、政策論の議論には市民をより関与させ、テック企業の影響はできるだけ小さくすべきではないかと思います。