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NYCが都市イノベーションの拠点となるためには「実証実験の煉獄」から抜け出す必要がある

case|事例

ニューヨーク市は繁栄した都市イノベーションの拠点となるべく準備を進めているが、まずは「実証実験の煉獄」のような状況から抜け出す必要があるとコーネル・テックとニューヨーク市経済開発公社が最新のレポートで主張している。「実証実験の煉獄」とは、都市イノベーションの実証実験自体が成功しても大規模な社会実装にはつながらない状況を指している。実際に、2022年にニューヨーク市では12の実証プログラムに600以上の企業が応募し、50以上の実証が実施された。しかし、大規模な社会実装に結び付いたケースは稀で、プログラムの運営自体が長期的な成果の追跡や目標達成のために必要な各種の調整・修正よりも、実証そのものを成功させるという極めて短期的な考えに重点が置かれているとレポートは指摘する。

レポートでは、都市イノベーションの実現には、市役所、大学、スタートアップ、金融機関、NPOの5つのステークホルダーが適切な協働関係を築くことが重要とし、現在の状況を打破するために連邦予算や新たな制度を用いて都市課題をテックベースで解決するためのロードマップを示している。

また、適切なステークホルダーに必要な情報を提供し、実証実験で得られたデータや知見をもとにどのように政策変更を行うべきかという問いに対して、以下の3つの提案を行っている。

  1. イノベーション能力の強化:ニューヨーク市役所全体でイノベーションを推進するチームと担当職員をサポートすることで能力の強化を行うことが必要。一般的なイノベーションチームは、新技術や実証の支援方法について適切なトレーニングを受けているが、市の職員はそのようなトレーニングを受ける機会が乏しい。またイノベーションチームは、技術サポートや研究開発で大学とより協力をすべきであるし、市は外部のステークホルダーとの協働関係を強化すべき

  2. 調達プロセスの近代化:これまでの調達方法では、市が求めているソリューションを仕様に落とし、入札によってソリューションの調達を行ってきたが、この仕組みを変えるべき。近代化されたチャレンジ型の調達方法では、市が解くべき問題を定義し創造的なソリューションを提供できる事業者を公募で募り選定することが望ましい。2019年にカリフォルニア州ですでに類似の調達方法が導入されている。

  3. スタートアップを支援できるビジネスポータルの構築:ニューヨークには多種多様なスタートアップが拠点を置き、その一部は大企業にまで成長しているが、中小企業サービス局の支援内容は伝統的な実店舗への支援という性格がつよく、スタートアップへ適切な支援が提供できない場合もある。一方で、NPOなどはスタートアップ支援を充実させており、それらを一元化することでより市内のスタートアップの成長を促すことが必要。

insight|知見

  • 日本でも「実証実験疲れ」が指摘されていますし、実証すること自体が目的化してしまい、社会実装が疎かになってしまうケースも多いように思います。また制度や規制についても特例措置でパッチワーク的に対応しているため、制度体系そのものが崩れてきているように感じます。

  • レポートで指摘されているチームのリテラシー向上や調達方法の改良などが必要であることは言うまでもなく、社会実装のために必要なインフラ整備や制度改定に本腰を入れるべきではないかと思います。安易な規制緩和や実証の目的化だけは避けるべきです。