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”ハイライン効果”:アメリカ全土に広がる廃インフラの再構築

case | 事例

NYCマンハッタンの廃線跡は2000年代初頭には朽ち果てようとしていたが、先見の明のある数人の住民が、この放置されたスペースに機会を見出し、地域社会のための公共緑地として生まれ変わらせた。この著名なハイラインプロジェクトは絶大な人気を誇ったがゆえに、チェルシーやヘルズ・キッチンといった周辺地域の急速な高級化と住宅密集化を招き、不動産価値が急騰し、長年の住民や企業の多くが追い出された。ハイラインは経済的利益をもたらしたが、その利益は既存のコミュニティと公平に共有されなかったのだ。ハイラインをモデルに、アメリカの他の都市でも老朽化した鉄道、道路、工業用地を市民インフラに再構築するブームが起こったが、この種のインフラ再利用は、黒人、ラテン系、ネイティブ・アメリカン、アジア系住民の居住区を荒廃させることにもつながった。インフラ再利用プロジェクトが前進するためには、社会的な公平性が最重要視されなければならないことが理解されてきた結果、この”ハイライン効果”は修正を重ね、現在米国内の多くのプロジェクトは、公平性に立脚した未利用スペースの活用に取り組んでいる:

マイアミの「アンダーライン
マイアミはメトロ鉄道の高架下の土地を10マイル(約16km)の直線的な公園とアーバン・トレイルに変える計画に着手している。このアンダーラインと名づけられた120エーカー(約50ha)の緑地は、2026年の完成時には、市内に点在する複数の異なる地域を結ぶ「社会的・市民的背骨」として機能する予定だ。アンダーラインの開発は「公平性とコミュニティ参加」を最優先事項としており、グリーン・ジェントリフィケーションが社会的弱者を追い出すリスクを認識した上で、コリドー沿いのアフォーダブル住宅を確保する土地信託のような戦略を模索している。

ヒューストンの「バッファロー・バイユー・パートナーシップ
ヒューストンでは、バッファロー・バイユー(水路)によって長い間分断されていたアフリカ系アメリカ人コミュニティ地域とダウンタウンをつなぐために、街の主要な水路との関係を再構築している。プロジェクトでは、緑地と歩道橋を通じて、これらの地域をつなぎ合わせると同時に、公園とハイキング・サイクリング・コースを整備した。プロジェクトでは人種平等の視点が採用され、労働者訓練と建設工事の雇用機会を優先的に提供した。ジェントリフィケーションの圧力はあるが、アフォーダブル住宅の開発、マイノリティ経営のビジネス支援、インフラ改善に重点を置いている。

フィラデルフィアの「レイルパーク
3マイル(約4.8km)の直線的な公園とレクリエーション・トレイルは、かつて市内の複数の多様な地域を貨物輸送していた廃線となった高架鉄道の上に整備されている。レイルパークが完成すれば、チャイナタウンやキャロウヒルなど、巨大な高架橋によって歴史的に分断されてきた地域が物理的につながることになる。プロジェクトは、地域の文化を称え、産業の特徴を維持し、集会や公共プログラミングのための柔軟なスペースを提供するという原則に基づいており、アフォーダブル住宅を確保するためのコミュニティ土地信託への寄付などを通じて、ジェントリフィケーションや強制退去の圧力に対抗している

ワシントンDCの「11番街ブリッジ・パーク
ワシントンDCの11thストリート・ブリッジ・パークは、老朽化した高速道路の橋を、キャピトル・ヒルとアナコスティアの多様な地区をつなぐ公園、パフォーマンス会場、レクリエーション・エリアを備えた高架の公共空間に変える計画である。この6,000万ドル(約93億円)のプロジェクトが既存住民に利益をもたらすよう、当初からコミュニティとの関わりと「公平な開発計画」が優先された。アフォーダブル住宅を維持するためのコミュニティ土地信託や、職業訓練、中小企業支援、青少年プログラムを提供するための地元の非営利団体との提携などが含まれる。

地域社会の関わりの中で利用されていないインフラを公共スペースに変えることは、経済的・社会的不公正を是正する機会となり得るが、そのためには公平性の観点を組み込むことが重要で、明確な目標と測定可能な成果によって推進される必要がある。推進組織は、例えば雇用と経済的機会、アフォーダブル住宅の供給、近隣のつながり、健康と福祉、文化の保護、人口動態の多様性となどの指標を設定し追い求めるべきである。

insight | 知見

  • ハイライン以外で知っていたのはマイアミのアンダーラインだけだったので、その他の事例もそれぞれ整理して少し長めの要約記事になってしまいました。

  • 貧富の格差が大きく人種も多様な社会であるアメリカであるからこそ、このような公共空間づくりによって進んでしまうジェントリフィケーションに対して、どのように保障措置を設けるかの試みが進んでいるのだと思います。

  • 日本でも多くの都市で都心の再開発や公共空間整備が進められていますが、賑わいや活気の創出に焦点があたっていて、将来のジェントリフィケーションに関する議論はほとんどないのが実情だと思います。日本社会で既に進んでる貧富格差や、今後拡大するであろう外国人の受け入れを念頭に、公共空間づくりにおける公平性の考えを広げていく必要がありそうです。