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モータリゼーションに抗った街「ビトリア・ガスティス」

case|事例

スペイン北部バスク地方の州都「ビトリア・ガスティス」には、市街地を取り囲むように「anillo verde(アニーロ ベルデ)」と呼ばれる緑豊かな空間が広がっている。anillo verdeは、自転車道や公園などで構成される延長30kmの空間で、高木が生い茂った高幅員の並木道が公園や広場、市民農園をつないでる。その街を取り囲む空間は、ほとんど自動車が走っておらず、静かで鳥のさえずりが聞こえるオアシスを形成している。近年、地球温暖化などを背景に世界中の都市で緑に対する投資が増えているが、数十年前から緑への投資を続けている、わずか人口25万人の小さな都市ビトリア・ガスティスは、都市の緑化政策において世界的なリーダーとなっている。

戦後の都市化によって、ビトリア・ガスティスでももれなく人口が増加し、1950年に52,000人だった人口は現在253,000人と約5倍となった。人口の増加と共に自動車の利用も増加傾向にあったが、1970年代当時の市長らは自動車が街中にあふれる状況を好ましく思わず、モータリゼーションに抗う政策に転換をしていく。当時、他のヨーロッパ諸都市が自動車を受け入れるべく道路整備への投資を強化している一方で、ビトリア・ガスティスは都心に自動車を入れないという急進的な決断を行った。

anillo verdeは、1980年代はじめに構想が議論され始め、1990年代初頭から整備が始まった。併せて形成された自転車走行空間は、現在、総延長180kmに及ぶ。25万本の植樹は、市民を巻き込んだコミュニティ・ベースのプロジェクトとして進められた。現在、市民ひとりあたりの緑地面積は50㎡と、ロンドンの31㎡、バルセロナの17㎡と比較しても、緑の豊かさが伺える。2006年からはスーパーブロックの整備が行われ歩行者エリアは31%から71%へと急増した。

一連の施策に対して市民から反対に遭うこともある。市の担当者は持続可能な都市をつくるためには反対に遭いながらも施策を進める勇気が必要だと話す。また、反対意識を緩和するために、環境団体や自治会をプロジェクトに積極的に巻き込んでもいる。結果として、豊富な緑を市民は誇りに思うようになったが、現在の施策推進プロセスには課題もある。特に交通など生活と密接する課題についての官民の対話においては、行政の対話に対する計画性がなく即興的であると市民から不満も出ている。

insight|知見

  • ビトリア・ガスティスの航空写真を見てみると、福岡をはじめとする日本の都市よりも相当に緑が豊かに見えます。25万本の植樹をコミュニティベースで進めたという点にも驚きました。

  • 福岡の緑のボランティア制度は国内でも先駆的なものだったと聞いたことがありますが、最近は高齢化などでボランティアの担い手が少なくなっているようです。一人一花なども市民の参画機会をもっと増やして都市内の緑のネットワーク形成を市民と一緒にやるようなことを考えても面白いかなと思いました