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トロントではオンタリオプレイスの再開発が大論争

case|事例

トロントではオンタリオ湖に浮かぶ人工島「オンタリオプレイス」の再開発案を巡って大論争が巻き起こっている。トロント市では、オンタリオ州の再開発案を承認するかどうかの判断を今秋に控えており、市民とのパブリックミーティングを重ねている。

再開発案は民間事業者「Therme社」が運営を担うウエスト島の屋内型ウォーターパークを中心とするものだが、その建築計画が破壊的でオーバースケールであるとの批判を受けている。計画案は昨年から修正を重ねているが、建築計画がオーバースケールでトロントのウォーターフロントの景観としてふさわしくないとの批判に対して、大きな修正は今のところなされていない。またTherme社は、昨年、開発のボリュームを25%減らすと発表していたが、これはスピンニュースで、修正案では5.8%小さくなっているだけで、延べ床面積はサッカー場12個分に相当するスケールのまま計画が進んでいる。

オンタリオプレイスのウェスト島は、国際的に重要な景観建築を誇っているが、現状の開発計画のままではその貴重な景観が完全に失われてしまう可能性が高い。また、Therme社は屋上に公園的スペースを設けると計画に記載しているが、実際にそれが本当に公園と呼べるのかも怪しい。屋外スペースはTherme社にリースされるが、その運営・管理は行政が担うとされており、365日24時間、市民に開放される予定だ。しかし、詳細なリース契約の文面は公表されておらず煙に巻かれる懸念もある。さらにイースト島の開発案でも、新たな公園整備の計画はあるものの、オンタリオ科学センターが縮小移転され、巨大な公共駐車場が整備されるなど時代錯誤な計画であるとの批判が根強い。

insight|知見

  • 行き過ぎた資本の論理に対する義憤や反発は、完全にジェントリフィケーションした宮下公園や久屋大通公園に対する批判や明治外苑の樹木伐採への批判をはじめ、日本の都市開発でも強くなっているように思います。

  • 福岡でも最近P-PFIの新たな計画が公表されましたし、WFの再開発の議論は長く続いていますが、どのくらい市民に開かれるのか、資本の論理をどの程度許容するのかというのは、(開発後かもしれませんが)議論になりそうです。

  • 宇沢弘文は、社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置として、社会的共通資本という概念を提唱しました。社会的共通資本には、森林や河川などの「自然環境」と道路や公園、交通などの「社会的インフラストラクチャー」に加えて、「制度資本」が含まれます

  • 社会的共通資本を踏まえると、高い公共性が求められる開発では、民間事業者が自由に経済活動をしながらも、社会的に望ましいコモンズや市民に開かれた公共空間を適切に保つような制度設計が必要な気がします。