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タリン旧市街の石畳を緑地へと変えたタクティカル・アーバニズムの実証

case | 事例

昨年の夏、タリンの歴史的な市庁舎前の石畳広場は、活気あふれるポップアップ・パークへと生まれ変わった。仮設の公園は地元の人々や観光客を迎え、新しい木製のベンチやくつろぎスペース、教育用QRコードを備えた緑豊かな植物コンテナなどが設置された。2023年の欧州グリーン・キャピタルとなったタリンで実施されたこの「緑の軌跡」プロジェクトは、戦術的な都市介入の影響を探ることを目的として実施され、旧市街に加え、クルーズ・ターミナルに近い海辺のエリアでも同様の実証が行われた。タクティカル・アーバニズム(戦術的都市主義)は、硬直的な都市計画のプロセスを補完する都市計画手法のことで、大規模なインフラ投資を行う前に、アイデアをテストし、市民や他の利害関係者からフィードバックを集めることで、リスクを軽減し、協働と共創を促進することで、市民が積極的に環境形成に参加することを促し、生活空間の質と所有意識の両方を高めるアプローチである。

タリンのチームは、住民、訪問者、企業が市庁舎広場の都市空間の変化をどのように経験したかを探るため、6ヶ月間の実証実験を通して体系的な観察とインタビューを行い、フィードバックを整理した。観光客からはより積極的に評価され、地元住民からは様々な意見が寄せられたが、主に肯定的または中立的なフィードバックが多かった。利用しやすい緑地ができたことが高く評価され、公園の多機能性(社交、飲食、仕事、くつろぎ、景観など)も高く評価された。一方で、雨や日差しを避けるシェルター、公共の水飲み場、トイレ、自転車ラックなどの設備不足の課題もあった。
商店やレストランなど地域のビジネス主体は、広場が地元の人々にとってより魅力的な場所になり、観光客の長期滞在を促す役割を果たしたことや、従業員にとって快適な休憩空間が提供されたことを主に評価した。一方で、公園でくつろぐことを人々が選ぶことから、レストランの利用が減少すること、夕方からの人流は時にはアルコールの過剰摂取や手に負えない行動につながることもあったため、照明の改善やセキュリティ対策の強化が必要であることも課題として残った。

全体として、仮設の公園は旧市街の活性化に成功し、地元の人々や観光客にリラックスできる空間を提供すると同時に、活気がある非商業的な空間を創ることができた。好意的フィードバックを根拠に、この夏公園はまた復活することとなった。ただし、欧州グリーン・キャピタル・イヤー終了後の予算制約により、シェルターの増設など、課題への対応は制限されたままだ。公園の人気を維持し、旧市街の夏の常設施設としての確立するためには、改善のための追加資金を確保することが極めて重要である。タリンでは2024年に、これまで実施した場所以外に、街全体でさらなる戦術的介入を実施する計画だ。将来的にはエストニア全土の他の都市や町に、タクティカル・アーバニズムをより広く適用することが考えられる。

insight | 知見

  • 欧州の古い都市にある石畳広場は、日本にはないからか、どうしても羨望の眼差しで見てしまいますが、なるほど石畳広場は緑の役割を果たしていない、という批判的な視点もあるのですね。

  • 世の中実証実験と称される活動は山のようにありますが、体系立った丁寧な観察やインタビューなどによるフィードバックの整理が重要だと思います。その整理結果をもとに、ビジネスが関われる部分と、行政が予算を確保して続ける部分がはっきりするのではないでしょうか。記事では「常設施設としての確立するためには、改善のための追加資金を確保することが重要」とありますが、利害関係者にとってのメリットが整理しきれなかったので資金が確保できなかった、という見方もできそうですね。