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シアトルは低所得者向けの移動支援策「mobility wallet」を検討中

case|事例

シアトル市は、低所得者の移動制約問題を解消することを目的に、新たに「mobility wallet」を導入することを検討している。mobility walletは、低所得者を対象にオンデマンド交通やマイクロモビリティで使用できるデビットカードを配布する施策で、生活費に占める交通費の負担を軽減することをねらっている。。デビットカードには、200ドル(約28,000円)がチャージされており、4カ月おきに金額補填がされる。

シアトル市は1月に公営住宅に住む低所得者を対象とする公共交通無料パスを配布している。当初は10,000人への配布だったが、現在では23,000人に拡大し、年間50万トリップの利用がある。しかし、公共交通無料パスはすべての低所得者を救うことができず、公共交通沿線に住んでいない低所得者は恩恵を享受できない。

そこで、シアトル市は、公共交通無料パスに加えて、公共交通以外の移動手段でも利用できるmobility walletの効果を検証したいと考えている。mobility walletは、終電後、夜遅くまで勤務を強いられる人をはじめ、公共交通を利用できない人のセーフティネットとなることが期待されている。mobility walletの財源は、有権者から承認された0.15%の消費税が充当されるSeattle Transit Measureから拠出される。

mobility walletと類似のプログラムはすでにロサンゼルスで実証が始まっている。それはUniversal Mobility Programと名づけられ、1,800万ドル(約25億円)が予算化されている。そのプログラムでは、低所得者エリアへの電動バイクや電気自動車のシェアリングサービスやオンデマンドシャトルサービスの導入が進められるほか、低所得者向けに月150ドル(約20,000円)の交通費補助が与えられる。第1フェーズでの実証は2024年4月までで1,000人をモニターとして効果検証が行われる。第2フェーズはさらに1,000人のモニターを追加して実施される予定だ。交通費補助の提供によって、公共交通利用は40,000トリップ、ライドヘイリング利用は25,000トリップ生成されており、金額割合でも公共交通には補助のうち約12%、ライドヘイリングには約84%が拠出されている。

insight|知見

  • 移動のしやすさは、教育や仕事、医療へのアクセスのしやすさを意味するので、生活の質を高めるために不可欠な要素のひとつと言えます。

  • 逆に、教育や医療のサービスを改善したり、雇用を生んだりしても、そこへのアクセスが制約を受けるのであれば、その便益は社会全体に波及しません。

  • 人口減少が進み郊外がスポンジ化している日本では、郊外や過疎地の公共交通の維持が難しくなっています。移動制約は社会サービスやさまざまな機会へのアクセスが出来なくなることを意味し、社会の活力を削ぐことになります。都市の縮小はいろいろな問題を同時に解かなければならない複雑さがありますね。