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061. トラムの駅の果てと果て

bonjour!🇫🇷 毎週金曜日更新のフランス滞在記をお届けします。
幻想的なフランス革命博物館での朝の時間を満喫すると(↓)、ブーランジェリーで買ったパンオショコラをかじりながらグルノーブルの市街地へ戻るバスを待つ。

朝早くに出てきたので、これからどこかへ行く時間はまだまだある。しかし、特に行くあてもない。思いつかない。やれやれ、出不精な人間はこういう時に良いアイデアが閃かなくてなかなか困るものだ。いつもながら、ずいぶん遅れてやってきたバスに乗り込むととりあえずグルノーブル・アルプ大学まできた道を遡った。

どうしよう。
まだまだ時間はある。
でも、この後行く場所を考えるの、面倒臭いなぁ。

バスの終点である大学が近づくにつれ憂鬱になっていくわたしの気持ちを知ってか知らずか、娘は窓の刻々と変わりゆく窓の外の景色を嬉々として追いかける。

「みてみて!面白い雲!」
「おんまか(馬)が走ってる!」
「今黄色いバスとすれ違った。どこへ行くのかなぁ?」

そう、乗り物好きな彼女にとってはこの時間こそがアトラクションであり、行き先や目的なんてどうだっていいのだ。いいなぁ、羨ましいなぁと重力に逆らえずにいる瞼をなんとか押し上げて彼女の横顔を見つめていると、あっという間に大学に着いてしまった。

さて、これからどうしよう。

とりあえずトボトボとトラム乗り場へ向かう。今日は一日乗車券を買ったので、バスもトラムも乗り放題だ。よし、いつも乗らない電車、行かないところへ行ってみようとB線に乗りこみ、そして、ちょっとドキドキしながら果てまで行ってみることにした。

一駅ごとに窓の外はのどかになり、乗客は減り、ローカル色を増してゆく。閑散とした車内には私と娘、後はご婦人が一人だけ。ちょっと娘のトイレ事情も心配になってきて、不安な気持ちとワクワクする気持ちがリズム良く往来している。

大学生の頃良くお世話になった青春18きっぷを思い出した。確か、あの時は始発の小田原からひたすら乗っていたら夜香川まで着いて、その日泊まる宿がなかなか見つからなくて困ったっけ。

そんなことを回想していたら、ついにトラムはB線の果てに到着。終点のアナウンスがあり、トラムを降りて、引き返そうとすると、娘はすやすやと眠っていた。朝早くからたくさん動いたので疲れたのでしょう。すっかり脱力して、ズシリと重たくなった娘を背負いトラムを降り、また大学の方向へ戻るトラムを待つ。

駅のホームには母娘二人。待てど暮らせどトラムは来ない。片方の背中には娘、もう片方の背中には冬のキラキラとしたお日様を背負う。娘の首元にじんわりと汗を感じ慌てて日陰に移動した。しんと静まり返った駅には娘の寝息が響いていた。

こんな時間も悪くない。


しばらくすると一人、また一人とトラムを待つ人がやってきて、ほどなくしてトラムがやってきた。トラムが切って行く風で娘は目を覚ました。しばらくボゥっと何処かを見つめたのちに、キョロキョロとあたりを見渡していた。

「さぁ、帰ろう」

今度は大学でA線に乗り換えた。そして、自分の家の最寄りの駅まで来たのだけれど、ちょっと好奇心が働いて、もうちょっと先に行ってみようと思った。トラムはどんどん、わたしたちを知らない場所まで運んでいく。一人、また一人と乗客がいなくなってゆく。またあの不安と冒険心のリズムが聞こえ始めた。しかし、ん?何かがおかしいぞ?行き先を告げる電光掲示板には何も表示されなくなっている。トラムの車内には私と娘、二人だけ。だんだんと冒険心よりも不安の方が強くなっていった。

トラムは青々とした芝生に囲まれたレールの上を走っていき、ついに停車した。すると、大きく伸びをした運転手が運転席から出てきて、車内に残された私たちに気づいてちょっとびっくりしたような仕草をした。そして、何か一言言い捨てて去っていった。

そこで私は気がついた。
ここが終点であることに。

はて、そんなアナウンスあっただろうか。でも残っているのが私たちだけというのを見ると、みんな気がついて降りたのだろう。周りに駅も何もないところで降ろされ困り果てた私たちは必死に先ほどの運転手を追いかけて、グルノーブルの市街地に戻りたいのだけれどと言ってみた。これから昼休みに入るのだろう。面倒臭そうに私たちの肩の後ろの方を指差してあっちに行ったら良い、というような仕草で応える運転手。彼に一礼して、皆目見当もつかぬままトボトボと道を歩いた。

すると、先ほど降りたトラムが見えてきて、自分の間抜けっぷりに思わず吹き出してしまった。

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急に笑い出した私を不思議そうに眺める娘に、
「ママ、間違えちゃったよ」と言うと、娘までクプクプと笑い出した。

グーグルマップで調べると近くに市街地へ戻るバスの停車駅がありそうだ。そこまで二人でのんびり歩いて、同じようにのんびりとやってきたバスに乗り込んだ。時間をみるとまだ14時半。まだまだ時間はたっぷりある。

「おうちの近くに着いたら、いつものカフェでおやつを食べよう」

今日は長い長い一日。
こんな日も悪くない。

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