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【雑節】 秋の土用の養生

2020年10月20日~11月6 日は秋の土用です。土用というと鰻を食べる夏の土用が有名ですが全ての季節にあります。
土用とは、四立(立春・立夏・立秋・立冬)直前の約18日間の季節の移行期のことを指し、今の季節を最後まで味わいながら次の季節の準備をする期間です。


土用は自分の中心を意識する

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(出典:Pando

土用には中心という意味があります。季節と季節の移行期に土用があるのは、それぞれの季節に得たものを自分の中心へ統合する意味があると私は解釈しています。

「はい、明日から冬です」というように、季節はいきなり変わるものではありません。前の季節で出し惜しんだことがないか内省しながら次の季節への準備を進める、というように新旧が入り組んだ形で移ろい行きます。このグラデーション的な変容は季節に身体がよく馴染むし、何よりその世界観が美しくて好きです。


胃はキッチンに立つシュフみたいな存在

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五行の土は脾。対応する臓は、身体の中心に位置する「胃」です。

胃が司るのは消化機能。
消化機能とは、外から取り込んだものを分解して自分の身体が取り込める形まで落とし込む働きのことです。外から取り込む量より消化する力が強すぎると胃酸が出過ぎて胃粘膜を傷つけてしまいます。一方、消化する能力よりも外からたくさんの物を摂取してしまうと分解できず、胃もたれを起こして摂取量を減らさせたり、下痢や嘔吐という反応として身体の外へと追い出そうとします。

また胃が消化するのは食べ物だけではありません。ストレスは胃にくる、とよく言いますが、胃はあらゆる「外から摂取されるもの」に対して敏感に反応しています。胃は、外から入ってくるあらゆるものを粛々と選別しながら「これは取り込めるものだろうか?」といつでも目を光らせている功労者です。

・この食べ物は取り込めるものだろうか?
・この情報は取り込めるものだろうか?
・この人間関係は取り込めるものだろうか?
・この生活は取り込めるものだろうか?

胃に手を当ててみるといろんな話し声が聞こえてきます。
私はそんな声を聞きながら胃はキッチンに立つ〝シュフ〟みたいな存在だなぁと思いました。レストランにいるシェフではありません。主婦・主夫です。シュフ。

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買い物から帰ってきて「うわ、冷蔵庫に入らない。しかたない冷凍か」とか「これ賞味期限いつ?・・って今日じゃん。どうする。とりあえず小さく切ってお味噌汁に入れておくか・・」とか。
夫が買ってきた新しいガジェット類に「この近未来的なブツは一体なんだ。どうやって使うんだこれ」とちょっと遠目から興味深げに観察してみたり、娘が保育園で作ってきた制作物を「どこに飾る?そしてアトリエに溢れかえる過去の創作物たちをどうする?うーん捨てるのもなぁ・・とりあえず写真に撮ってアーカイブしておくかぁ」とか。

いつでも「どうやって取り込む?これ」という目線で全体を見回して、誰に何を提供するわけでもなく陰ながら粛々と動き続ける存在、それが胃なのです。


胃を養生するにはよく噛むこと

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土用には黄色くて甘いものを食べると良いとされていますが、今の時期であればさつまいもや栗などでしょうか。また青魚も良いらしく、夏の土用は鰻、秋は秋刀魚と仰る方もいます。
それらの情報は調べるとゴロゴロたくさん出てきますし、この時期の健康法はいろんな方が発信しているのでそちらへお任せして、私は「よく噛むこと」をお勧めしてみたいと思います。

「よく噛むこと」。
なんだ、それだけか。と思われるかもしれませんがこれがまた効果絶大です。

以前腸内環境を考えた食事法についての勉強会に参加したときに、講師の先生が「おかゆやスムージーのようなペースト状のものを摂る時であってもしっかり噛みましょう。口には口の仕事をしていただきましょう」というようなことをおっしゃっていてなるほど、と思いました。

至極当然の話ですが、口でしっかり咀嚼してその時点で小さくなっていれば胃の仕事量はぐっと減ってとても楽になるのです。

私はとてもせっかちな性格なのでこの「よく噛む」ということが中々苦痛でして、何も意識しなければ10回くらい噛むと箸に取った次なる食べ物を放り込みたくなってしまうのです(汗)。
思えば娘の離乳食期から現在に至るまで彼女に「次々にお口に入れないでよく噛んでね〜」なんて言い続けていましたが、自分の食事はほとんど丸呑み状態でした・・。反省です。

よく噛めば満腹中枢が刺激されてお腹いっぱいになりますし、消化にエネルギーを使いにくくなるので、部屋の片付けとか、情報の整理とか、他のことに消化のエネルギーを注ぐことができます。そして、ちょっとずつ痩せます。
私の場合は、そもそも噛むことが自体が面倒くさいので食べる量が落ちるだけかもしれませんが(笑)、しかし、食事を量ではなく質で満たすようになって、食事以外でも自分を満たせる方法がいくつも選択肢としてあるということは胃にとって最大の養生法になるのではないかと思っています。

先天の気を消耗しないために後天の気を貯めておく
◆冬の準備としての秋の養生の意味◆

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身体をめぐる気には、先天の気と後天の気の二種類があります。

先天の気は、生まれ持った気のことで、 に蓄えられています。
後天の気は、生まれてから自分で作っていく気のことで、一つは先ほどから述べている脾(胃)で摂取した食べ物から作り、もう一つは 肺 で取り込んだ大気から作ります。

先天の気は有限で、幼い頃はたくさんありますが、自然の流れで歳を重ねるごとに減っていきます。身体の元気がなくなっていくこと(気虚)や老化は、消費する気に対して後天の気を作り出す量が少ないことによって起こります。

ここで、季節に対応する臓器のことを考えてみましょう。土用は脾ですが、現在の季節、秋は肺、来たる冬は腎です。

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(出典: 二十四節気に合わせ心と体を美しく整える)

冬は腎に負担がかかりやすい、つまり先天の気を消耗しやすい季節なのです。
以前「冷え」についての勉強会で、東洋医学を勉強されている整体師の方がこんなことをおっしゃっていました。

「息の長い女優さんほど、長い仕事の後には休息期間をとっている。特に冬場はよく休むことを心が得ている。彼女たちは腎の養生法をよくわかっていらっしゃる」

秋は収斂(引き締める)季節、冬は収蔵(内に保存する)季節とよく養生法で言われますが、このようなわけだったのですね。
冬に先天の気を消耗しないために、春に芽吹き夏に増大した気を、秋には内側に引き戻し貯めて、そしてまた新しいエネルギーとして生まれ変わる春を待つ。そうやって季節は巡りエネルギーは循環していきます。

秋の土用というのは一年を通してのエネルギー効率を考えて土(身体)を整える時期のに最適な時期です。皆さんもぜひ自分の中心にいるシュフに耳を傾けて、いろんなことを語りかけてみてください。「今日は何食べたい?」「もうちょっと休んでもいいよ」と。

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