メルセデスベンツ W202 C200 試乗記
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メルセデスベンツ W202 C200 試乗記

メルセデスベンツ。このメーカーは世界で最も高級車ブランドとして名高いブランドだ。とはいえ、このメーカーほどその魅力が分かりにくいメーカーは他にあるだろうか。例えば、BMWの最大の魅力はその走行性能だろうし、アルファロメオの最大の魅力は官能性だ。こう考えてみると、メルセデスのクルマは何がいいのか分からない。安全性が高いのはボルボもそうであるし、走行性能だってBMWというライバルがいるではないか。ではなぜメルセデスはその地位を保てているのだろうかというのは私の中での長年の疑問の一つだ。

そんななか、私は幸運にもメルセデスに試乗する機会を得た。というのも、私がいつもの習慣で中古車サイトを物色していると、近所からW202型のC200が掲載されていた。しかも相場価格の半額以下の価格だ。W202といえば、経営危機を機にメルセデスが大きく方向転換する前の最後のモデルだ。私は、このマニア好みのモデルを、もしかしたら無理をすれば購入維持できるかもしれないと思い、とりあえず車を見に行ってみることにしたという次第だ。

当日店を訪れると、店先にはそのシルバーのメルセデスが停まっていた。私は車を降りて店主に挨拶をすると、車の説明もそこそこに試乗に行ってきて良いと言うので、私は早速車に乗り込んだ。

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メルセデスらしい子気味いい音のドアを閉めて、まずはドライビングポジションを合わせる。この車は素のモデルなので、本革シートや電動シートはない。レバーを引っ張りながらペダル位置が自然になるようにシートをスライドする。次にステアリング位置を動かす。上下はしないが前後はするらしい。そしてすぐに良いドライビングポジションが決まった。どうもラテン車だとうまくポジションが出ないことも多いが、すんなりポジションが決まるし、操作系の不自然さがないあたりがドイツ車らしいところだ。Cクラスに関してはこのモデルまではシート内部の素材にヤシの実の殻を使ったシートであるらしい。ヤシの実であるからほかのシートと違うか、と言われると怪しいが、マニアとしてはそういった部分が気になってしまうものだ。全体的には硬めのシートであるが座り心地が良い。現行Cクラスにも乗ったことがあるが、それと比べるとサイズは小さくて少しタッチの柔らかい印象だ。個人的にはこちらのシートの方が好みである。

そしてギアをドライブに入れて走り出す。最初はスロットルのモッサリ感を感じたが、そういうものと思って運転すれば全く問題はない。アイポイントも高く、細くて立ったピラーと角ばったボディのおかげで視界は良好で車両感覚がとてもつかみやすい。最近は更なる安全性の要求とデザイン性の優先、さらにはソナー類が発達したせいか、こういった意匠の車は少なくなってしまったが、個人的にはこちらの方が感覚的に運転できるので好みだ。


このあたりでこの個体に関する話をしよう。これは97年式で後期モデルなので5ATを搭載している。走行は9万キロ弱。外装に細かい傷はあるが、クリアの禿などはない。不具合はアライメントの狂いとエアコンがとんでもなく効かないのと電動ドアミラーの故障と屋根落ちくらいだ。まあ価格と年式と欧州車であることを考えればこんなものであろう。あとで聞くところによるとこの車はワンオーナー車だったようだ。車検も1年以上残っていたので、おそらく、年配の方が新車で購入し免許を返納したとかでこの車を手放したのだろう。20年以上大切に連れ添った愛車を手放すのはつらかっただろうなと思う。


話を戻すと、スロットルのダルさによって赤信号からの加速では多少一般車に出遅れそうになるが、踏み込めばしっかり加速する。この時に優秀なのがこの5速ATだ。多少踏み込んでも、しっかりと2千回転ぐらいでサクサク変速する。どっかのプ〇ョーとかいうメーカーの、放っておくと平気で3千回転まで回してくれるATとは大違いだ。これは坂道での加速シーンでも変わらなかった。これは燃費もいいのではなかろうか、と思いみんカラのレビューを見ると平均でリッター10近く走っていた。これはこの車のカタログ値、10・15モード燃費 9.7km/リットルという数字とそんなに変わらない値だ。こんなにカタログ値と実燃費が変わらない車を私は初めて見た。これはリッター8のプジョーに乗るものとしては嫉妬せざるを得ない性能だ。

静粛性はそこまで高くはなかった。特にロードノイズはひどかった印象だ。ただ、これは路面状況との関係もあるだろうし、タイヤも製造から時間がたって硬化しているだろうから正しく評価できているかは不明だ。走行安定性については、ステアリングをまっすぐしていると本当にまっすぐ走る。当たり前のことを言っているようで、これが出来ていない車は多い。そして何より、ステアリングや車の動きが路面の凹凸の影響を受けないのである。これがボールナット式ステアリングの力なのだろうか。

そして乗り心地も素晴らしかった。これまでの私のドイツ車の乗り心地の印象は、路面の凹凸に対して車が揺れることには揺れるのだが、減衰が高いため乗員が不快に思うことはない、といったものであって、フラットライドという点ではプジョーの方が上だと思っていた。しかし、この車は地面の凹凸に対するフラットさという点でプジョーもセルシオも超えてきた。これには本当に驚かされた。そして、この車は8万キロ以上を走破してもなお入力に対してボディが軋まない。さすがはドイツ車の剛性感である。

すこしばかりワインディングを走ることもできたが、ハンドリングも申し分ない。そりゃさながらロードスターとは言わないが、比較的ハイスピードでコーナリングをしても、この車は難なく曲がっていく。個人的にはステア量から想像するより車が曲がっていくような感覚があったのだが、これは私の感覚がおかしいのか、ほかの人が乗ってもそうなのかは分からない。

試乗が終わり、ラゲッジを覗いてみる。思いのほか高さがあり、荷物もたくさん入りそうだ。ラゲッジの底をめくるとテンパータイヤとバッテリーが入っている。テンパ―タイヤのタイヤサイズが普通のタイヤと変わらないのは欧州車にはありがちなことなのだろうか。


総じて言うなら、この車は私がこれまで乗った中で一番の出来のクルマだった。この車の運転感覚は、私が前世でこの車を運転していたのではないか、と思うほどなじみやすいものであった。これほどまでに慣れるのに時間がかからなかった車は初めてであった。しかもこの車の乗り心地、走安性、ハンドリングで困るような道はおそらく舗装路である限り国内にはない。


では私はこの車を買うのであろうか。


結局、私は買わないことにした。


というのも、この車にはロードスターに乗った時の楽しさや、イタリア車に乗った時の官能性、セルシオに乗った時の特別感やNBOXの広さに対する感動のようなものが無いのだ。

この車の魅力は上に書いたように乗って一発で分かる魅力ではない。もっと地味で、人が運転する乗り物として根源的な部分の完成度の高さこそが、この車の一番の魅力である。そして、きっと上で書いたようなわかりやすい魅力より、こういう地味な作りこみこそ、本当に作るのが難しいものなのではないかと思う。

つまるところ、移動手段としての車でここまで優れた車はない。あったとしてもメルセデスの他車種だろう。


しかしながら、私は移動手段の車として最低限必要なものはすでに持っている。しかも、3歳から乗っていて、母から託されたプジョーである。そんな簡単に手放すわけにはいかないので、この車を購入するとすれば増車という形になる。さすがに移動の道具は2つもいらないな、となったのだ。

しかし、もし私が道具としての車を買い替えることがあるとすれば、その時には90年代以前のメルセデスが最善の手段になるであろう。

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車好き大学生。九州地方在住。NBロードスターとプジョー307SWに乗ってます。試乗記や車に関することを中心としたコラムを書いていこうと思ってます。