誤訳だらけの和訳本


まず、次の和訳分を読んでみてください。

身の上話を聞くのがマジ好きな人なんかだったらさ、まず、あんたどこで生まれたの?だとか、あんたのクソみたいな子供時代はどんな感じだった?だとか、 ご両親はあんたが生まれる前にはどんなお仕事したりしてたの?だとか、その他デイビッド・カッパーフィールド式のつまんねーことを知りたがるだろうけど、僕ははなっからそんなこと喋る気にはなれないんだよな。
                     宮本麗音訳

いかがでしょう? 
そう、サリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ』の出だしの部分ですね。
で、すでに出版されている和訳本の訳文と比べてみてください。
どれもこれも、最初のところは「もし君が…」となってるでしょう。
完全な誤訳です。

原文を見て見ましょう。

If you really want to hear about it, the first thing you'll probably want to know is where I was born, and what my lousy childhood was like, and how my parents were occupied and all before they had me, and all that David Copperfield kind of crap, but I don't feel like going into it.

なるほど、はっきり「you」と書いてあります。
でも、これはいわゆる「非人称のyou」なんですよね。
英語で説明すると、こんなふうになります。

The second-person pronouns are also often used to indicate an unspecified person. This is sometimes referred to as "generic you," "impersonal you," or "indefinite you." This is less formal than its counterpart, the pronoun "one," but it is sometimes preferred.

たぶん高校辺りでは教えているはずなんだけど、どうもプロを自称する日本人翻訳家の方々にとっても難しい概念であるようです。
それだけならまだしも、翻訳本を出版する当事者の方々までもが、誤訳を見抜けず、むしろ宮本麗音先生のような超優れた翻訳家の訳文のすごさがわからないまま出版拒否なさっているというのでは、どうも日本の英語教育の未来も真っ暗ですね。(苦笑)

ちなみに、もし宮本麗音先生訳の『誰かさんと誰かさんが麦畑』(仮題)をマジ出版してみたいと思われる方がいらしたら、私の方にご一報ください。




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