新潟駅前ビル殺人事件

あるテレビ局の報道の中で、ちょっと気になる証言があった。
犯人の元同級生が言うには、彼には切れやすい所があったので、ひょっとしたら被害者の女性が何か彼のプライドを傷つけるようなことを言ったのかもしれないということだった。
あくまでも元同級生の推測だから、事実かどうかはわからない。
ただ、一般的に言って、女性が付き合っている男性と別れる際には、別れ方や表現には十分気を付けないと危険なことになりうるということは確かだ。

僕が電話でもカウンセリング相談を受けていたころ、ある夜、20代後半の女性の相談者から緊急コールがあって、出てみると、普段落ち着いた人なのにすごく動揺して怯えている様子だった。
「つい数日前に別れた元彼から電話がかかってきて、『今からそっちへ行くから。どうしても別れるっていうんならマンションに火をつけてやる!』って脅されてるんだけど。かなり興奮してて怖い。どうしたらいいですか?」
「で、どう答えたの?」
「とにかく怖かったので、そのまま急いで切っちゃいました」
「いつ?」
「ついさっきです。このままじっとしてた方がいい? それとも急いで逃げた方がいいかな?」
「いや、すぐにでも折り返し電話した方がいいよ。ただし、決して怒りや恐れをみせないこと。できる?」
「はい、できるとおもいます。今、よしよしさんの声をきいたら落ち着いたし」
「で、こんなふうに言ってごらん。『これまで付き合ってくれてありがとう。いろんな楽しい思い出を大事にしたいの、だから寂しいけれども、お互い寂しいけれども、二人の思い出を大切にしていくためにも、これからは静かに別々の道を歩んで行こう』っていう風に君の言葉で言ってごらん」
「はい。なんか、それ、わかる。一昨日別れ話したときは、わたし、そういうこと言わなかったし。相手を傷つけるようなこと言ったかなって、それが悪かったのかな?」
「そのことはまた後で話そう。とにかく相手を強く拒絶するようなことだけは言わないようにね。じゃ、すぐにでも折り返してごらん」

ということで、いったん切ったところ、数十分して、また彼女からかかってきた。
「教えてもらった通り言ったら、かなり穏やかになった。けど、それでも会いたいってしつこいの。でも、強い拒絶はダメって言われたの思い返して、黙って聞いてたんだけど…」
「で? 途中で切っちゃったの?」
「ううん。ちょっと来客来たんで、またかけなおすって、今切ったとこ」
「それは上手な口実思いついたね(笑)。…そうだな、その男性のこと、詳しく話してくれる?」
「うん、いいよ」
それから結構長い時間、彼女は彼のことを話してくれた。出会った経緯から、これまでどんなふうに付き合ってきたか。どういう人で、どういう人生を歩んできた人とか。
話を聞く限りでは、今は激高してはいるものの、それほど危険な人物ではなさそうだったし、彼女自身も彼(元彼)と会うことにはそれほど抵抗はなさそうだったので、「一度だけ会って最後の話し合いをしたい」という相手の要求に応じることに。

翌日、二人が会う約束の時間帯は、僕の方でもいつでも電話を受けられるような状態にしておいた。万一の事も考えてね。
やがてかかってきた彼女からの電話は明るく穏やかな声だった。

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