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blgtzを聴け。

”ミュージシャンズ・ミュージシャン”なんて言葉がある。
肯定的な意味で使われることはほぼないと言ってもいい。(理解のないクソサイトでは)the pillowsの代名詞的になっちゃてるし、なんならザ・バンドにも使われてることもある。

まあ the pillowsなんてまだマシでSpotifyの月間リスナーは30万人近くいる(*2022年12月)からいい方で、これから僕が紹介するのは月間リスナーが300人くらいしかいない”ミュージシャンズ・ミュージシャン”だ。

僕が彼の名前を知ったのはこの記事からだ。

blgtz。
ビル・ゲイツという億万長者の名前が冠された、このアーティストをParannnoulから教えてもらった。
海外のアーティストから自国の音楽を教えてもらう、という体験は僕にとって珍しいことでは無くて、裸のラリーズもThe 1975のマシュー・ヒーリーが教えてくれたくらいだし、そういう意味でインターネットの記事は素晴らしい。
というか、彼は裸のラリーズくらいの知名度はあったっていいし、ラリーズくらい凄まじいアーティストであることは間違いない。


今の個人的な出会いは蛇足だったかもしれない。とにかくblgtzについて語っていこう。

名前に似合わず、彼の音楽は暗く・重く・冷たい。
バンド形態をとることもあるようだが、基本はボーカル&ギターの田村昭太のソロプロジェクトのようだ。

まさかのギターボーカルドラム(足だけだけど)。
この動画を見てもらえばわかるように、彼の音楽はシューゲイザーとポストロックを通過したようなスタイル……とでも形容すべきだろうか。
ちょっと調べてみれば、ART-SCHOOLやTHE NOVEMBERSと繋がりがあるようで、木下理樹との対談もある。まさに”ミュージシャンズ・ミュージシャン”だ。


ここまで出てきたバンド名から察したかもしれないが、彼の音楽は”鬱ロック”としてくくられてるらしい。確かに彼のブログを読めば「入院します」の報告が繰り返し現れている。だとしてもsyrupやARTと一緒に括れるから、彼のキャリアが断続的だから、なんて理由で彼の音楽を”鬱ロック”なんて括るのは安直な気がする。いや、むしろblgtz以外に"鬱ロック"という言葉は使うべきではないのかもしれない。

素晴らしいディスコグラフィーにもかかわらず、彼のアルバムをじっくり語っているブログ記事やnoteはあまり見かけない。だからこの記事がその先鞭をつけるようなものになればいいと思っている。そしてあなたもblgtzについて語ってほしい。そしてあなたの記事やツイートを読んだ誰かが……なんて妄想。

チルコ


おそらく1stアルバム。blgtzに関する情報が少ないので、音楽ストリーミングサービスで聴けるものとしてはこれが一番古い音源だと思われる。
Vaporwaveを思わせるような無意味なようで何かしらの意味がありそうなタイトルの曲が並ぶ。どこか空中泥棒(もしくは公衆道徳)を思わせる、静謐なフォークアルバムになっている。
彼の音楽性はすでに確立されている。インタビューなどでは自分自身を"シューゲイザー"と定義しているが、スロウコアのような反復に特徴がある。
特に一曲目「→(305demo)」は、決して楽しくはない浮遊感、どこにも行けない絶望感を持っていて、フィッシュマンズの『宇宙、日本、世田谷』に肉薄しているとも言えるだろう。1stアルバムの時点で彼は諦念、いや"悟り"の境地に達してしまっているのだ。

無人テレビの設計図

1stがインディースロウコアフォークだとすれば、初めて本格的にシューゲイザーとしての表現を確立したアルバムだ。
狂ったタイトル、「アタシはキレイな水滴のfilmウフフ」から1stの狂気とは別の意味で狂っていることが解る。轟音と絶叫になだれ込む、この一瞬が堪らなく愛おしい。ドリームポップ的な「w.c.music of the year」、そして爽快かつ閉所恐怖症的なギターロック、「DJスクールウォーズ」。『Kid A』の最後を締めくくる「Motion Picture Soundtrack」のような荘厳さをもつ「モーゼ」。
かなりLo-fiな録音も相まって、彼の激情が伝わる素晴らしいアルバムになっている。『チルコ』と『無人テレビの設計図』の2作を聴けば彼の個性と特徴は伝わるはずだ。


music from the motion picture soundtrack

38分と短いながらも彼の素晴らしさが極限まで表出した傑作。僕はこれをベストに挙げたい。
「ルネ・ラルーの友達」は、心地良くリリカルなヴァースの反復から徐々に展開していき、物語の始まりを予感させる。「スカートの青」はインストだが、今作で一番叙情的だ。聞き手の経験にある"どこか"(あの夏の日の電車、冬の日の自分の部屋、あるいは清潔な閉鎖病棟……)を思い浮かべさせるだろう。
最終曲「僕の事キライになる」はblgtzのシグネイチャーである、静謐からの怒涛の轟音、に突入したかと思えば唐突に終わる。そして隠しトラックが僕たちを物語の終わりへと誘う。
前作のささくれだった絶望はなく、ただただ"僕"に寄り添ってくれる、まるで"僕"のための映画のサウンドトラックのような作品。
日本のロックにとどまらず、ロックミュージックのある種の到達点として、このアルバムだけでも聴くべきだ。

マイナスの世代による瞬間のドキュメント

シューゲイザーアルバムとしては今作が一番優秀なのではないだろうか。前作までは"静"の曲と"動"の曲がハッキリと分かれている場合が多かったが、一曲の中に"静と"動"が同居するものが多い。
ヴァースとコーラス(というよりシャウト)の構成が明確で、曲の終盤で全てを轟音に包み込んでいくのも心地良い。一方で胃もたれするアルバムという印象もある。確かにこれは一般的なギターロックのフォーマットなのだけど、彼の絶叫と囁きが持つエネルギーを受け止めるには一曲一曲が重すぎる印象もある。

blgtz-EP

まるでBeach Fossilsのようなドリームポップ曲「New  Song」で幕を開ける今作。ドラムがしっかり役割を果たしているな、というのが印象的で、前作よりもバンドサウンドとして洗練されている。
おそらくこの時期はソロプロジェクトの期間で、にもかかわらずバンド音楽としての洗練を感じるのはいささか不気味。冒頭に挙げた「This One」も収録されている。

同時に消える一日

トライバルなドラムから始まる「イデオロギー」を聴いた瞬間に、このアルバムは"どこか違う"ものであることを予感させる。実際、彼はこのアルバムを最後に一旦音楽から身を引く。
これまで聞き取りにくかったリリックも明瞭に分かる。"君のことわすれてしまう"という反復がパラノイア的な「ほら、さっきの」は個人的に好きな曲。
これまでコードやアルペジオ主体だったギターがリフやギターソロを担っているのも印象的。なんとなく初期The Novembersを髣髴とさせる。(まあ、当たり前っちゃ当たり前だけど)
少年性を持っていたファルセットや絶叫が後退して、ドスの効いた声が前面に出たせいもあるかもしれない。

Feature-EP


2017年にリリースされたシングル「ech0」を除けば久々の音源。曲は2014年ごろに書かれていたものなので、そのブランクはあまりない……と思いきや、一曲目からまさかの打ち込みドラムとラップである。ちょっと不安になる幕開けも束の間、「ロスト・ミュージック」エベレスト・クライマー」ではblgtzのシグネイチャーが炸裂している。そして「カタルシスは突然に」はギターカッティングとシンセベースのニューウェーブ。これまでのblgtzには無かったような曲だけど、かなりアリ。
カムバック作としてはかなり優秀。


ここまでblgtzのディスコグラフィーを紹介してきたが、お分かりのように僕の文章彼の素晴らしさを十分に伝えきることができない。
こんな間違った言説が罷り通る現状を許しちゃダメだ。さあ、君もblgtzを聴け。そして"ミュージシャンズ・ミュージシャン"ではないと証明してくれ。
そこまでのポピュラリティーは無くてもいい。彼の音楽は分かる人だけに分かればいい。でも現状は分かる人にさえも届いていないのだ。
これが歴史の変わり目だ。blgtzのディスコグラフィーをロック歴代ベストアルバムに捩じ込もう。ヴェルベット・アンダーグラウンドのギグには100人も来なかった。だけど彼らは後進たちから再評価され再発見された。
blgtzを再評価し再発見するのは君だ。

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