見出し画像

1989年のプログレ的風景:マイク・ラザフォードの全米No.1に、ABWHの衝撃w、また売れないトニー・バンクスに、帰ってきたフィル・コリンズ

 1989年というと、1月に昭和天皇の崩御、そして新元号「平成」のスタート、社会の自粛ムードなど、年初から経験したことのない諸々があった年ですね。ちょうどその頃大ヒットしていたのが、ジェネシスのマイク・ラザフォードのサイドプロジェクト、マイク + ザ・メカニクス の2ndアルバム、Living Yearsでした。このアルバム、実は88年の10月にリリースされていたので、本来は88年の記事に書くべきだったのですが、シングルカットされたLiving Yearsが、全米No.1となるのは89年3月でしたので、この年のネタにしました(これを88年に入れると、ジョン・アンダーソンの座りがわるかったんです…w)。それにしても、ジェネシス、ピーター・ガブリエルの全米No.1に続いて、マイク・ラザフォードまでもが全米No.1の大ヒットを飛ばすとは、本当に驚かされました。

Living Years / Mike + The Mechanics

マイク・ラザフォードは、イギリスの名門パブリックスクール出身のミュージシャンですが、父親は海軍軍人で、かなりの高官だったらしいですね。その彼が、「オヤジが生きてるうちにもっと話しとくんだった」と歌い、これがまた素晴らしい名曲なんですよね。でも、彼の自伝とかを読むと、ラザフォードの父親は息子の音楽活動には理解があって、あんまり確執とかはなかったようなんですけどね(^^;)

 そして6月にリリースされたのが、このアルバム。バンド名もアルバムタイトルも同じで、Anderson Bruford Wakeman Howe (笑) 最初見たとき、ホントに目を疑いました。「あれ、イエスじゃん、いないの誰だっけ…」(笑)ですよね。まあビル・ブルーフォードが入っているので、アラン・ホワイトはいないわけですが、イエスの古参メンバーとしていないのは、クリス・スクワイアだけなんですね。それまで、トレヴァー・ホーン、トレヴァー・ラビンというメンバーが入って、大ヒットしたイエスだったのですが、どうもその路線に嫌気がさしたジョン・アンダーソンが抜けて、かつての黄金時代のイエスのメンバーを集めて組んだのがこれだったわけです。

Anderson Bruford Wakeman Howe(邦題:閃光) / Anderson Bruford Wakeman Howe

 これで、イエスと名乗れないのは、ここに参加していないクリス・スクワイアなわけですね。要するに、クリス・スクワイアが在籍するバンドがイエスと名乗る権利を持っていたわけです。結局クリス・スクワイアと他のメンバーの確執というのが、イエスのお家騒動の中心地だったということなのでしょうか。それでもこれは、出た当時、かなり夢を感じたアルバムだったのですね。バンド名に唯一クレジットされてないベーシストは、トニー・レヴィンでして、これがクリス・スクワイアとはかなり違うベーシストなので、やっぱりちょっとかつてのイエスと違うといえばそうなのですが、全体的にはそれまでの90125イエスより、ずっとイエスっぽくて、名前以外は「やっぱりイエスじゃん」(笑)というものだったのです。ただ、この時期にこの内容というのも、正直あまり売れる要素があるようには思いませんでした。でも、これこそイエスファンが求めていたものではなかったのかと思います。(アルバム内の1曲が日本のテレビでニュース番組のテーマとして使われたのはちょっとオドロキでしたけどねw)

 さて、同じ6月、ピーター・ガブリエルのサントラアルバムがリリースされました。これは邦題「パッション-最後の誘惑」という映画のサントラでした。彼は以前にもサントラアルバムを1枚リリースしているのですが、そのときと全く同じで、真面目に劇伴をやりすぎて、ヒットしそうな曲が皆無だったのですね。サントラとして2枚目のこのアルバムでも、同じような調子だったのです。なので、ピーター・ガブリエルのサントラは厳しい….というイメージはますます強固になってしまったわけです。彼は後に、ディズニーのWall-Eとか、タランティーノのNatural Born Killersとかにも楽曲提供していて、そういう1曲だけのオリジナルだときちんといつもの調子で、らしい曲を作るのですが、サントラを丸ごと任せるとこうなるのですね(笑)

Passion : Music For The Last Temptation Of Christ / Peter Gabriel


 そして8月には、またジェネシス関係者のソロアルバムがリリースされます。それが、バンクステートメント です。これは、同名バンドのアルバムというスタイルだったのですが、これがジェネシスの屋台骨、トニー・バンクスの新しいプロジェクトだったのです。ここまでソロアルバムがことごとくコケてしまっていたトニー・バンクス。フィル・コリンズだけでなく、マイク・ラザフォードまで大ヒットしてしまい、このときは最後の「大物」として、かなりリキを入れてやって来た感じだったのです。

Bankstatement / Bankstatement

 トニー・バンクスはジェネシスの中心人物であり、彼がいなければジェネシスサウンドは絶対成り立たないという程のキーマンであるのは間違いないのですが、それでいてソロになると、なんかクセ強すぎて売れないというのが彼なんですよね。でも、フィル・コリンズが売れれば、自分も歌ってしまったり、マイク・ラザフォードのメカニクスが売れたら、自分もバンドスタイルでソロアルバム出してくるとか、売ろうという努力は欠かさないわけです(笑)。こういうカワイイところが、マニアに愛される所以だったりするわけなのですが、それでもやっぱりソロでは大衆受けしないのがトニー・バンクスなのです。アルバムからシングルカットした曲も例によってことごとくヒットしなかったわけですが、わたしはこのアルバムは、彼の新境地に感じられて結構好きでした。

Queen Of Darkness / Bankstatement

この曲は、以前サウンドトラックスのアルバムに収録されたインスト曲(映画 : Lorca and the Outlawsのテーマ)に歌詞を付けて再録したものです。ツインボーカルのメカニクスの向こうをはって、こちらは男女のツインボーカル(^^;) でも、この曲はけっこうイケてるし、間奏のシンセソロとか、わたしには堪らないんですけどね〜w

 そして、11月になると、今度はフィル・コリンズの4thソロアルバムがやってきました。前年の映画主演と、そのテーマソング(Two HeartsA Groovy Kind Of Love)が、2曲続けて全米No.1をとっており、勢いはずっと続いていたフィル・コリンズなのですが、個人的には、なんか映画がらみの彼にはあんまり入れ込めなかったのでした。そもそも、この2曲の全米No.1ソングも、フィル・コリンズの曲としては、ちょっとこだわったところがなさ過ぎに感じていたのです。ところが、個人のソロアルバムが出てきたら、いつものフィル・コリンズが帰ってきてくれたのでした。これだけ全米No.1ソングを連発しているフィル・コリンズは、一般的には絶頂期という認識だと思うのですが、わたし的には「帰ってきた」と言いたいくらい、この4thは印象的なアルバムだったというわけです。アルバムタイトルも、映画出演とかでちょっと横道にそれすぎたのを、「またマジになります」みたいな意味を込めたのではないかと、勝手に思ったのでした。

…But Seriously / Phil Collins

 そして、このアルバムからシングルカットされた Another Day In Paradise は、またしても全米No.1、続いてカットされた I Wish It Would Rain Down は全米3位を記録して、ヒットが続いたわけです。

Another Day In Paradise / Phil Collins

この曲がBillboardのNo.1をとったので、彼は88年から、3曲続けてNo.1を獲得したことになるわけです。相変わらず「何やっても売れる」状態が続いてますね。

 ただ、売れ方としては、ビッグヒットだった 3rd に比べれば、シングルカットした曲数も少なく、アルバムも恐らくセールス的には3rdには及ばなかったのではないかと思います。ただ、わたしは、この4thこそが、過去最高に油ののったフィル・コリンズだと感じたのでした。この印象は今でもかわりません。それまでの全ての音楽人生を総括したようなアルバムになっていると思っていまして、フィル・コリンズのソロの最高傑作はこのアルバムだと思うのです。

Find A Way To My Heart / Phil Collins

アルバム最後を飾る曲。3rdで言えば Take Me Home の位置に配された曲でして、ちょっと雰囲気似てるといえばそうなのですが、わたしはフィル・コリンズ全作品から1曲選べと言われたら、この曲を推します。それくらい好きです。とにかく、フィル・コリンズの全てがつまった曲だと言って良いように思ってます。(個人の感想ですw)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?