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1994年のプログレ的風景:エニグマやマリリオンの新たなプログレに、イエス、ピンク・フロイド、EL&Pの相次ぐ新譜、そしてついにピーター・ガブリエルの単独来日公演

 この年のトップバッターは、エニグマです。彼らは1993年にグレゴリオ聖歌をハウス風(?)アレンジで世界的ヒットした新人グループでした。以前も書きましたが、わたし的には、なんかプログレっぽく聞こえていまして、けっこう好きだったのでした。彼らのセカンドアルバム The Cross Of Changes は、本当は前年12月のリリースだったのですが、シングルカットされた Return To Innocence が大ヒットしたのがこの年になってからなんですね。

The Cross of Changes / Enigma

Return To Innocence / Enigma

この印象的なメロディとアレンジは本当に耳につきまして、この頃よくOAもされていたと思います。わたし的には、ピーター・ガブリエル的プログレの新騎手みたいなイメージで見ていました。

 実は、ちょっと年代があやふやなのですが、多分この頃、わたしは、かなり熱心にこの人のCDを聞いていたのですね。イスラエルの歌姫、オフラ・ハザです。このアルバムは本当は1992年にリリースされているのですが、このエニグマのヒットで、エスニックなサウンドに注目が集まって、そういう文脈で紹介されていたのに引っかかったのではないかと思うのです。当時、「イスラエルのマドンナ」みたいな言い方もされていましたが、でも、このエスニックな雰囲気とロックの融合は、やはりわたしにとっては当たり前にプログレ文脈でして、当時ものすごく新鮮だったのです。

Kirya / Ofra Haza 1992

 エスニックサウンドというと、70年代後半にPFMのマウロ・パガーニが地中海をテーマにしたアルバムを出していましたが、これを聞いた頃は、正直まだ全然興味が沸かなかったのですが、90年代のこのちょっとしたエスニックサウンドブームは、わたしにもだいぶ響いたのでした。まあわたしも30歳をすぎて「大人になった」ということでしょうかね(^^)

Mauro Pagani(邦題:地中海の伝説) / Mauro Pagani 1979


 さて、この年2月、マリリオンのニューアルバムもリリースされています。これまでもマリリオンについては、スポット的に紹介していましたが、本当は、わたしはこの少し前に初めてマリリオンを聴いていたんですね。そのとき聴いたのはフィッシュ時代のライブ盤だったのですが、これがけっこう気に入って、マリリオンのことを少し深掘りしようと思っていたタイミングにやって来たのが、このアルバムだったのです。

Brave / Marillion

 このとき、オリジナルメンバーのボーカリスト、フィッシュはすでに脱退しており、スティーブ・ホーガスという新ボーカリストを迎えて、3枚目となるアルバムなのですが、これがまた、ドがつくほどのプログレコンセプトアルバムだったんですね。イギリスを中心としたポンプロックムーブメントについては、以前もちょっとだけ触れましたが、初期の頃の、ジェネシスっぽさがだいぶ抜けて、こうして実力あるバンドが、こんな素晴らしいオリジナルなプログレアルバムを発表するという現実を見て、まだこれからも結構新しいプログレバンドで楽しめそうだと思ったのが、ちょうどこの頃だったわけです。(そして、それは今でも続いているということなんですね)
 ちなみに、マリリオンはこの年このニューアルバムをひっさげて来日したのです。このとき彼らはこのアルバムを全曲通しで演奏するという、まるでジェネシスのThe Lamb Lies Down On Broadway のときのようなことをやりまして、これをわたしは川崎のクラブチッタで体験したのでした。

 そして、そうこうしているうちに、今度は3月に大御所、ピンク・フロイドの新譜がリリースされるのです。前作から7年のインターバルを経て、実質的にデイブ・ギルモアバンドとなったピンク・フロイドの2枚目のアルバムですが、このアルバムも、当たり前のように全米、全英アルバムチャート1位を獲得する大ヒットとなるわけなんです。90年代になっても、さすがのピンク・フロイド。まだ、「出せば売れる」という状態をキープできるなんてのは、並のバンドの出来ることではないですね。

The Division Bell(邦題:対) / Pink Floyd

 内容的には、前作よりさらに聴きやすくなった印象はありますが、やはりピンク・フロイド(というか、デイブ・ギルモアなんだよな〜、やっぱり)の音楽は90年代半ばになっても健在で、それが依然として大ヒットするという世界は続いていたわけです。

 そして、わたしにとってこの年一番のニュースは、3月にようやく実現したピーター・ガブリエルの来日「単独」公演だったのです。これまで、チャリティとか人権とかのフェス的コンサートのメンバーとして来日して、日本ではいつも誰かの前座みたいな状況に甘んじていたピーター・ガブリエルでしたが、ついに単独公演が実現したのですね。それに、東京での会場は中野サンプラザでも渋谷公会堂wでもなく、武道館だったのも、「よかったー!」という感じだったのでした。この動画にあるように、このときはちょっと凝った仕掛けをいろいろやっていて、最後にメンバーがスーツケースに消えていく演出とか、よく覚えてます。(動画のように最後上から蓋みたいなのが降りてくるのは武道館ではやってなかったような気がしますが…)そして、このとき9月には、Secret World Live という映像作品もリリースされたのでした。

San Jacinto / Peter Gabriel (Secret World Liveより)


さて、5月にリリースされた、YESのニューアルバムです。ただ、申し訳ないのですが、このときわたしはこのアルバムはスルーしてしまい、つい最近まで聴いたことがなかったのでした。いや、もっと言うと、わたしはこれ以降のイエスのアルバムは、AppleMusicのストリーミングで全部聴けるようになったつい最近まで、1枚も手にすることがなかったのです。

Talk / Yes

というのも、これまで「8人イエス」という状態でしたが、とにかく歴代のイエスメンバーが集結してアルバムを作って(この頃はまだそう信じてました…)ツアーまでやっておきながら、その後新譜が来たら、またしてもリック・ウェイクマンとスティーブ・ハウがいない状態で、結局かつての90125イエスに戻っていることに、正直かなりがっかりしたからなんです。

「え、なんで?」ってなりますよね、普通。もともと90125イエスが気に食わなかったジョン・アンダーソンが脱退してAWBHを結成したはずじゃあないですか。それでも恩讐を超えて「奇跡」の大団結したはずだったとずっと信じていたのに、なんでまたここで90125状態に戻るのよ…という点がまるで納得がいかなかったわけなんです。そしてさまざま聞こえてくるアルバム評なども、なんか散々なものばかりだったんですよね。こうして、わたしも、この時点で、もうイエスに対して、どうでも良くなってしまったのです。Wikiとかを見ると、この後もアルバムを出し続けるのに、とにかくメンバーの出入りが激しくて、とてもじゃないがフォローできない状態で今日に至るワケなんですね。こうして、わたしにとって、イエスというバンドが終わったのは、この年のことだったのでした。

さて、この年最後のネタは、9月にリリースされたEL&Pの新譜なんです。

In the Hot Seat / Emerson, Lake & Palmer

 92年の来日公演の余韻がまだのこっていたこの時期、わずか2年のインターバルで届けられたこのアルバムも、喜んで聴いたのですね。ところがなんです。どうも、前作の勢いというか、らしさがあまり感じられずに、なんか不完全燃焼してしまったのですね。これはずっと後になって知った話だったのですが、このアルバムのレコーディング直前に、キース・エマーソンが手の手術をしたために、うまくキーボードが弾けず、本作のキーボードはほとんどが打ち込みで演奏されているのだとか。それなら、「らしくない」作品になりますよね、普通。どうしてそんな状態でレコーディングしてしまうのでしょう。前作からまだ2年しか経っていないわけだから、もうちょっとゆっくりレコーディングすればいいのにと思うわけですが、やっぱりレコード会社の意向だったのでしょうか。でも、そういう無理をした結果、こうして満足行く作品を残せず、売上も出ずに、EL&Pは、またまた解散状態にもどってしまうのです(その後何度かライブはやったみたいですが)。こうして、このアルバムは、EL&Pの事実上のラストアルバムになるわけですね。

90年代も半分過ぎたところで、当時は70年代のプログレ5大バンドの影響力はまだまだ…と感じていたんだと思うんです。でも、前年にジェネシス、フィル・コリンズがターニングポイントを迎え、この年にはEL&Pも事実上のラストアルバムがリリースされたわけです。そしてピーター・ガブリエルの次のアルバムは2002年、ピンク・フロイドの次のアルバムは2014年とアルバムサイクルはどんどん長くなるわけです。イエスはこの後もアルバムリリースは続くのですが、なんかもう誰がやってるのかよく分からない状態になっていくのですね(笑)まあ、今にして思えばではあるのですが、1994年というのは、いよいよ70年代のビッグネームが、第一線から相次いで退いた年なんだろうなあと思うのでした。



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