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世界中のDJを敵にまわした、あのNYタイムズ記事の全貌

2017年1月1日。元旦。

私は、ある記事がアップされるのを期待していた。

ただ、そのワクワク感とは真逆の「奈落の外に突き落とされた」というか「甘いと思ってはじめて食べた黒色のJelly Beansがクソまずかった」ぐらいの衝撃的な内容で、そこから大炎上が始まった...

その発端となった記事がこれだ。

紙面とウェブ共に、トップ記事だった。

私の名前が世界トップクラスのマスメディアに載ったことはすごく名誉なことが...世界中のDJを敵に回してしまうという超絶不名誉な代償を払う形となった。

でも、これだけは最初に言いたい。

取材は確かに実施した。

ただ、記事にある私のQuote "DJ is problematic"は、言葉の切り貼りをされ、文脈関係なく書かれた悪意満載の歪められたモノだ。(やっと言えた...)

あれから2年たったし、名誉挽回もしておきたいと思い、取材背景の裏側や記者やメディアの恐ろしさをここに綴っておく。ぜひ反面教師として、皆さんのために少しでもなればと...

インタビューまでの経緯と記事化

2016年冬。

本社広報部門から連絡があった。


「2014年に復活したTechnicsブランドのマーケティングについて興味があり詳しく聞きたい、記事化も検討したいと打診がありましたが、ブランドやマーケティングを統括しているLiveonさんにお願いできますか?」

「問題ないですけど、どこのメディアですか?」

「NYタイムズです。厳密にいうと東京支局の特派員からの要望です」

「まじですか!!ブランド貢献にもなるので基本的に受けます」

ということで、断る理由もなく取材が敢行された。

汐留の取材場所にいくと、そこにNYタイムズ 東京支局の特派員がいた。そのジャーナリストの名前はあえて伏せておく(調べたらすぐ出てくるけど)。取材は日本語と英語混ぜながら、終始和やかだった。インタビュー内容は、主になぜ復活しようと思ったのか、どのようなリバイバルプランを持っていたのか、ターゲットユーザは誰か、目指したい姿はなにか、というごく普通な内容だった。

ただ、今思えば一番のキラークエスションがあって、インタビュー途中に"なぜDJ ターンテーブルを出さないのか?"という質問があった。その回答した内容が、記事中の"DJ is problematic"になってしまうのだが、インタビューでは↓のように答えた。

"もちろん、1972年に初めてリリースした初代SL-1200以降からDJの絶大な支持があるのは理解しています。ただ、もう1つのユーザ層もいました。HiFiオーディオのファンです。2008年にTechnicsを一度ブランドを畳んでしまった背景に、HiFiオーディオショップの方達を見捨ててしまった過去があります。今回は、順番として、まずは使命として裏切ってしまったHiFiオーディオのパートナーの信頼を回復。その後に新しいことをしようと。その形となる昨年2016年に発表したSL-1200GAEは、高額だからHiFi用で全くDJ用ではないという批判は来てますのも知ってます。ただブランド側とすると、DJ用と使うか、使わないかはユーザ側の判断であって、Technics側が決めるものではないし、決めてはいけないと思っています。DJでもHiFiっぽくレコードを聴きますし、価格が安ければDJ用なのか、何を持ってDJ用というかも、音楽に対して真剣に向き合い考えるほど、安易に言えないのがわかってきます。例えると、ギターやバイオリンといった楽器と同じ。そのブランド自身が「これはロック用とかクラシック用!」と安易に定義できないのと同じです。なので、我々はSL-1200は音を追求したターンテーブルとしか訴求していません。SL-1200はSL-1200そのままなのです。確かにSL-1200GAEは高額ですが、それをDJユースに使おうとユーザの判断でご購入されたDJも多くいます。"

と想いを赤裸々に語った。

しかし、記事では英訳され「TechnicsはDJ文化に背を向けた」という記事タイトルになり、そして私の回答はかなりねじ曲げられ、

”DJ is problematic” by Creative Director Hiro Morishita

のひとことになってしまった...。
マジかよ...と。

これがインタビューと記事の顛末。

記者の魂胆。得た教訓。

この記事はHiFi Audiophileからしたら嬉しい記事なんだが、なんでNYタイムズの記事はこんなにDJサイドに偏ってて、悪意が溢れているのか?と思い、今一度取材をしたジャーナリストを調べた。そこで普通にかなりのDJ好きということがわかった。(そんなのすぐわかるやんけと...)

ということは、当時のTechnicsのラインアップは、DJ文化に反していると決めつけており、実際に記事化するために私の言質を取りに来たという魂胆がみえた。

このように信頼関係を結びきれていない(例え、他部門からの話であっても)このように事態になってしまう。ということで、記事はまだ半分だが、この時点での教訓は以下となる。

■ 取材やインタビューをされるときの大原則
・できるかぎり、そのメディアや記者の下調べをする(趣味なども)
・記事の言語を確認する(都合のいい翻訳をさせないように)
・取材意図を確認することを怠らない(一語でも変に失言しないために。基本疑う)

この3点を怠ると、私のような180度異なる記事になってしまうこともあるということ...

さて、この全貌としては半分なのです。
ここで離脱していただいて構いません。

後半は、この記事から始まる更なる惨劇をシェアしておく。

止まらない他メディアのNYタイムズ引用

NYタイムズの記事自身はもちろんインパクトがあったが、そこからの連鎖反応がやばかった。要は「TechnicsはDJを無視している!」という悪評の拡散大バーゲンだ。

Gizmodo、Techcrunchなどのグローバルテックメディアはもちろん、djmagとかFACTとかDJ系メディアもこぞって、NY TIMESの記事を引用し、TechnicsがDJに背を向けたという酷評の大嵐....。

もちろん、その元凶に Creative Director Hiro Morishitaの"DJ is problematic"がつきまとう。

まじ辛い。

これが炎上っていうやつか....。それもグローバル規模の...。冤罪なのに社会的制裁をうけてしまった人の気持ちがすごくわかった時期だった。Twitterのバズなんて比ではないほどの広がりよう...

個人的にはみたくないが、そんな連鎖反応した記事のごく一部をリストアップ。

DJ系メディアもガンガン引用してくる...

NY TIMES記事の数日後に、もともと発表を予定していた新しいSL-1200GRという新ターンテーブルがあっても、おかまいなし。NY TIMESの記事がつきまとう...

そして、さらに1ヶ月後。

実はこの顛末が個人的に一番心が折れた。

メディア内で勝手作られる虚偽ストーリー

英語の記事で申し訳ないが、NYタイムズ記事が出てしまった1ヶ月後の2017年2月にヨーロッパ向けSL-1210GRという黒色のターンテーブルを発表することになっていた。

その発表数週間前。

欧州の販売会社からあのNYタイムズの記事に対してクレームが入る。

「せっかく2月に発表かまえてるのに、なんて記事を出してくれるんだ!」

「そうだよね...そう思うのはその通り。でも、背景は違うんだよ...みんなに貢献しようとしたんだよ。それはわかってくれ...」

「わかったとしても、記事は出てるしどうしたらいいの?評判最悪やん」

「(ぬぐぐ...俺が撒いた種だし...)」

「わかった。せめてプレスリリースに、ディレクターである小川さんが"このSL-1200GRはプロDJ向けです"と入れさせてくれ」」

「いや、使い方を決めつけるのは逆に冷める本当のユーザもいるぞ?DJ用だから買ったみたいな思われたくないケース。考え直してくれ。」

でも、結果的に、プロDJ用です!という文面が追加されることなった。ここで、先ほどの記事を見てもらうと、心が折れるポイントがわかってくるのだが、責任者の小川さんが"我々はプロDJ用にも考えます"と言ってる。でも1カ月前のHiro MorishitaはDJは問題だと言っていた。ん?どういうことだ?という記事が出はじめてきた。

要は、メディアに出てしまった情報だけをまとめると、私の発言はブランドの方向性とは関係ない単なる個人の暴走でした!となってしまったのだ

全てはブランドのためにやったことなのに、ここまでかけ離れた事になるのか?!とまるで陰謀の脚本があるかのように...

こうなってしまったのが一番辛かったかな。


うん。

でも抵抗はしてみた。

わたしの意地とプライド。最後の教訓。

やはり俺も黙っているわけにはいかなかった。でも、大っぴらに記者と反論するのは得策ではない。表現の自由があるから。

そこで翌年のCES出展でGizomodo記者がきたので、つかまえて、私自らあの記事の背景を語った。

微量ながら、プライドというか意地だ。

デジタルタトゥーが消えないのであれば、弁解の記事もデジタルで残したかったから。

あとそもそもこの過激な記事内容でなかったらNYタイムズには載らなかっただろうし、結果、自分としては取り扱ってもらったこと自体がプラスと捉えてます。犠牲は払ったけど認知してくれたから。

だって、知られないとか、無視が一番辛かっりするもんだから。

ここで後半の教訓を。

■変な記事が出てしまったら
・記事が出てしまったら、もう消せることはできないと腹をくくる
・その後のアクションで筋書きが大きく変わることも気を付ける
・誤解は自らなるべく早く解いていこう

そう思うと、日本のメディアは友好的過ぎる。
だからこそ、それが当たり前と思わず、海外展開を考えてる方はぜひ気をつけて!

終わり。

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