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童話の部屋 王様は一人ぽっち

割引あり

自らの差別意識に抗う事

 むかし、黒人のアメリカ兵に道を聞かれたことがあった。それまでにない緊張感と、焦燥感で、何を答えたかよく覚えていない。白人のアメリカ兵だったら、どうだったろう。
 
    むかし、重度の身体障害者の遠足に、ボランティアで参加した事が有る。それは、初めての体験だった,車いすでしか移動できない彼らと、もどかしい会話を交わし、健常者として、どの様に係るかを考えつつも、どこかしら他人事と思った気がしてた。
 
    むかし、ゲイの友人がいた、努めて理解者ぶっていた。でも何処かで、自分とは違うと思っていた。自分に愛情を持たれると困る、と、思っていた。
 
    むかし、同級生に、被差別部落の子が何人かいた、小さい頃から、あの町と、この町は、行ってはいけないと教えられていた。何故だか理由もわからないうちに、心の奥底にしみついている。あの町の子、この町の子、と。
 
    むかし、朝鮮の人たちが、日本に強制連行されて、日本が敗戦後も、住んでいた町があった。高校の友人に、在日2世の子がいた。言ってみれば私は、在日日本人であって、私の祖先は、朝鮮半島からの渡来人に違いない。
 
    むかし、お前は男だろ!と、叱咤激励され、男は泣くな!男が仕事をして一家を支える!出席番号も男から。生徒会長も男。学級委員長も男。何の違和感もなく。当たり前だった。
 
    むかし、ふざけあって「女言葉」を使ってみた。「おかまみたい」とはやされた。
「男言葉」って?「女言葉」って?
 
    むかし、ほとんどが貧しかった、中でも、10日も風呂に入れずに、継ぎはぎだらけの、おさがりのズボンをはいていた同級生を、さげすんで見ていた。
 
    黒人でもなく、在日朝鮮人でもなく、被差別部落出身でもなく、身体障害者でもなく、性的マイノリティーでもなく。そのほとんどが、差別する側に立つ自分に対して、あらゆる差別意識をなくす努力を、残り僅かな生の中の、目標として設定する事。







北(きた)の王様(おおさま)

 
 けさの気温(きおん)は七度(ど)でした。「今日(きょう)は少(すこし)あたたかい。」と王様は思(おも)いました。

    北の国(くに)は、一年のうち三分の一は雪(ゆき)にとざされています。
  その上、王様のきゅうでんには、王様一人しか住(す)んでいません。

   なぜかと言(い)うと、北の国は、南北(なんぼく)三百五十(さんびゃくごじゅう)キロメートル、東西(とうざい)百八十(ひゃくはちじゅう)キロメートル小(ちい)さな国で、住んでいるのが五人だけなのです。だから、さむくて、さみしくて仕方(しかた)がないのです。

 

   ある朝(あさ)、王様は「そうだ、友達(ともだち)をさがしに行(い)こう」と思(おも)いました。

   少(すこ)しのパンと水(みず)、そしてフカフカのねぶくろを持(も)って北に向(む)かって出発(しゅっぱつ)しました。

 王様は三日間(みっかかん)歩(ある)き続(つづ)けましたが、誰(だれ)にも会(あ)えません。ところが、一度(いちど)もお城(しろ)を出たことがない無(な)い王様は、足(あし)がパンパンにはれた上(うえ)に、クタクタになって、ふかい森(もり)の中(なか)でウトウトと眠(ねむ)ってしまいました。

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