見出し画像

時間リソースの分配としてのオリエンテーリング

この記事はオリエンティア裏アドベントカレンダー9日目の記事です。書く予定だった方が多忙だったのか、枠が空いていたので入れさせていただきました。長いので、忙しい方は3章だけでも読んでくれると嬉しいです。


0. はじめに - だれ?これなに?

千葉大学3年の山田です。今年からオリエンを始めたので21歳の新人です。経歴については省略しますが、運動経験は浅くランニングが嫌いです。具体的には5kmを走り切る精神力がないです。3km程度のロードでもキロ5が限界です。走力は部内の(アクティブな)新人の中でもトップレベルに低いと思います。

オリエン自体にはドハマりしており、関東近郊のフォレスト大会には大抵出ています。スプリントは競技時間が短すぎてあまり出ていません(金が無限にあったら全部出ると思う)。オリエンのアドベントカレンダーを読むのが趣味で技術論が大好きです。11月頭くらいまで、部内では「新人の中では速いけど、現役の中では最下位」くらいの位置にいました。

今回のあらすじとしては、「ミドルのAクラスに出てみたけど1:20:00でほぼ最下位」から「ミセレ50:00で完走」までの一か月半を追う感じで書いていこうと思います。ちなみにミセレは通っていません。新人の範囲内での成長だと思って読んでください。
対象読者は

  • 最近ミドルに挑戦し始めた新人

  • ミドルのタイムを縮めたいが地図読みとランニングしかやることが浮かばない人

です。駄文ですが、タイムを縮める一助になればと思います。
補足として、この記事では自分の記録としての意味合いが多く、整理された技術論は途中で出てくる各記事をご参照ください。

注記:以下のレースはすべて4~4.5kmのミドル、優勝設定は35分のレースです。また、出ているコースは全てM21Aまたはそれ相当のコースです。

1. パッとしない11月

1.1 早慶戦リレー(10/29) - 初めてだらけの初挑戦

大学対抗戦の一つである早慶戦。その新人リレー(MF)に出る予定でしたが、現役の人数不足により僕が代打で現役リレー(MA)の三走に出ることに。
初めてのミドル、初めてのフォレストリレー、初めてのMAクラス。せめてDISQせずに帰ってきて記録が残るように、と緊張して走りました。
ミドルのMAは、それまでやってきたロングのMFよりも長いので、単純につらいレースでした。結果は

  • タイム: 1:16:52

  • 順位: 38位(39人中)

  • 巡航速度: 174

  • ミス率: 34%

と、本当にほぼビリで何とか帰還といった感じでした。道辿りと短い直進だけで突破できるMFとの違いを感じ、じわじわと無力感に苛まれるレースでした。特にポストの設置位置が難しく、適当に進んで現ロスして終わり、という場面が多かったです。このままでは翌週の全日本で恥ずかしい結果になってしまう……と思ったので、アドベントカレンダーを読んで強い人の思考回路やルートチョイスをエミュレーションしていくことにしました。特に、以下の2記事にお世話になりました。

⇧ルートチョイスとルートプランニングについて。
幅を持った線でルートを見て、自分の通りたいルートを決めてから詳細を決めていく、という流れを学びました。線状特徴物を追うのでは無く、地形まで含めた全体の流れを追う意識を付けました。

⇧オリエンのスタイルについて。
自分の適性に合ったスタイルを模索しました。早慶戦での高いミス率と、自分のフィジカル的な長所である「停止状態での体力の回復が速い」を鑑みて、ポストでしっかり止まり、プランを決めてから走り出すストップ&ゴースタイルでやっていくことにしました。

ルートチョイスも、今までの「最初に見えたルートを選ぶ」から、「いくつかのルートを提案して、その中から最適と思われる一つを選ぶ」にレベルアップさせていきました。地図読みでも、「これは微妙なルートかもしれませんが」と二択目以降を提案できるようになりました。

1.2 全日本ミドル(11/4) - 満足いくレースなのに遅い

そうして全日本大会を迎えました。スタート前は緊張していましたが、敢えて出走→スタートの誘導を歩き、逸る心を抑えながら冷静なルートチョイスとナビゲーションを心がけました。実際のところミスをしたと思える区間は1レッグだけで、ほかは非常にスムーズに行けたつもりでした。「かなりいいレースだったな」と思いながら帰還すると、結果は

  • タイム: 1:06:06

  • 順位: 82位(94人中)

  • 巡航速度: 161

  • ミス率: 19%

なんと順位は94人中の82位。いい感じだったんだが……?といった感じですね。ただミス率も巡行も改善はしています。実感とも一致していました。
さて、順位は芳しくないですがいいニュースもありました。この時出ていた最高順位の現役部員と比べて8分差だったのです。しかもその8分の範囲に僕を含めて4人いました。1時間付近で全員固まっていたわけですね。
他の3人は「本当にやらかした」といった感じだったので、ここらへんで自分の立ち位置を把握しました。
「自分の上振れタイム」=「現役上位の極下振れタイム」
です。実力の差は大いにありますが、実力のレンジでは被っている、ということに気づきました。ここらへんで、現役に追いつきたいという欲が沸いてきました。ちなみに他の新人はみんなM20Aに出ていたので上を見るしかなかったという側面もあります。(横がいないんだから仕方ない)
やるぞ!現役を抜かすぞ!お~~~!!!

1.3 ここから怒涛の練習が!!!

始まりませんでした。お金が無くなったのです。千葉大学では11月末が1週間ほど休みになるのですが、その1週間で遊ぶ金と、12月にたくさんある大会の参加費と交通費を稼ぐために、そしてOMMに刺激されて購入した寝袋・テント・バーナー(各1.5万円)の費用を賄うため、無限にバイトをしていました。ライブの設営や撤去などのバイトを入れ、11月中はまともにオリエンをしていませんでした。これに加えてテストやレポートもあったため、月末の練習会までにやったオリエンは大阪旅行のついでにでた大阪大学スプリントだけでした。

1.4 ミセレ対策練習会(11/25) - なぜか足が速くなっている。が……

前述した休みの期間に千葉大の内部練習会がありました。さすがに久しぶりの運動すぎてまずいかと思って、学校近くの林でインターバル走(400×8くらい)をしておきました。不整地でのペース把握のためにやってみたのですが、大体キロ5:30が最高速度、安定して走り続けることができるのはキロ7:30くらいかな~といった感じでした。

さて、昨年のミセレテレインである毘沙門山での対策練習会が始まりました。ゴツいな~と思いながらやっていると、ポストごとに同じような面々と会います。結構いいペースだな、今回は現役に勝てるかも?と思いながらやっているうちに、あることに気づきます。
脳内の予想より速く特徴物とかポストが出てくる。
「まっすぐな道の中盤くらいまで来たかな?」と思って走っていると、目的のポストが見えている。あわや通り過ぎてしまうほどの違和感。
そう、なんかすごく足が速くなっていたのです。これはワンチャン現役に勝てるか~!?と思いながらやっているうちに、道で爆走しすぎて迷子になりました。そのレッグはなんと驚異の14分ミス。絶望しながら帰りました。結果は

  • タイム: 1:18:43

  • 順位: 17位(22人中)

  • 巡航速度: 143

  • ミス率: 35.4%

まさかの、「思ってるより足が速くて現ロス」とかいうミスでした。無意識のうちに「時間を基準にした距離の把握」みたいなことをやっていたんでしょうね。線状特徴物での速度を上げるために自然に発生したスキルだと思いますが、走力アップで破綻してしまいました。新人内でも4位と、悔しい結果でした。帰りの電車ではずっとGPSログと地図を見比べながらアナリシスを書いていました。
それにしても、この練習会までにやったトレーニングは前述の林のインターバルだけなので、かなり高い効果があることがわかりました。ここから、ミセレに向けて高負荷短時間のトレーニングを行っていくようになります。


さて、初のミドル挑戦から1か月。フィジカルも技術も質は上がったはずですが、タイムは相変わらず一時間を切れません。年内に残る大会は

  • 12/3 早大OC大会(ミドル)

  • 12/10 関東ミドルセレ(ミドル)

  • 12/17 伊豆大島大会(ロング)

の3つのみ。伊豆大島はロングなので、フォーカスを合わせるのは12/10のミドルセレと定めました。周りも当然ミセレに合わせて本気で合わせてきています。ここでいい結果を残すために最大効率でタイムを縮める努力をしていきました。


2. 激動の12月

ここから大忙しでした。

2.1 サマチャレ(12/2) - 君の名は直進。

皆さんおなじみの富士にあるサマチャレですが、名前に反して年間を通して開催されています。早大OC大会の会場が御殿場ということもあり、僕の所属する一門では早大OC大会の前日にサマチャレに行き、そのまま一泊して大会に出るというプチ合宿を行うことになりました。サマチャレは公開されている地図の中から希望するものを選んで事前購入する形式なのですが、サイトを眺めているうちにすごいコースを見つけてしまいました。

正気か?

引用:http://www.orienteering.com/~shizuoka/summerchallange2023.html

正気か?

最初見たときは意味不明すぎてフリーズしていました。どう使うねんと思っていました。どうやらアルファベットのポストの起点に、各数字のポストを往復するという使い道のようです。F→25番→F→22番→F→…といった感じですね。最初は面白いな~くらいに見ていましたが、自分のスキルセットを考えると一番必要な練習な気がしてきました。この時点での僕のオリエンスタイルは

  • 出来るだけ線状特徴物を通る

  • 現在地を確定できる点状特徴物を辿る

という安全重視のスタイルでした。直進の精度を上げることで、どんなエリアでも「方角」という線状特徴物を使うことができるようになります。これは素晴らしいことです。スタイルを変えないまま、どんなエリアでもどんなレッグでも、自由にバリエーションルートを派生させることができるようになります。テレインに適応して自在にルートを選ぶオリエンテーリングはかっこいいので(重要)、直進の練習をすることにしました。
結局この日は練習時間のほとんどをこのStraightに使いました。サルオリでも出てきた以下の図のように、直進で切った際のアップダウンをイメージしながらコンパスを見て進みました。ヤブはCまでは突っ切ってDはよけました。よける時は、コンパスを見ながらどれだけの角度ズレているかを意識しながら補正する練習をしました。移動はベクトルなので、足して直進になるように補正をかければ良いです。左に45°で10秒移動したら、右に45°で10秒移動して、最初の角度を向けば良いだけです。これをやるには、きちんと直進の際にコンパスのリングを回して差分を管理する意識が必要です。僕はリングが角度表記ではなく色分けされているプレートコンパスを愛用しています。

サルオリより引用

引用:http://www.orienteering.com/~route6/manage/files/saruori.pdf

結果的に、300mくらいまでならほぼ正確に直進できるようになりました。これによって、ある点状特徴物にいる時、300m圏内の特徴物に直進で到達できるようになりました。
ズレたらどうするんだと思うかもしれませんが、直進の練習をするということは直進が失敗したときのリカバリーの練習をするということでもあります。広範にいうと、規定されたルート(この場合はレッグ線)におけるアップダウンやCPの事前把握能力、そしてその上で現ロスした際のリロケ能力の向上にもつながりました。この直進能力の代償として、岩の多いエリアで3回転くらいして全身を破壊されました。特に、左股関節の痛みはミセレ前日まで続いたので気が気ではありませんでした。

結局この日はたくさん練習した後に一門で宿に泊まり、ハンバーグ→鍋→誕生日会をしました。超楽しかった!うちの一門は4年生が多いこともあり、みんな最後のインカレに向けて全力で取り組んでいるのでモチベーションもフィードバックも充実しており、最高でした。

2.2 早大OC大会(12/3) - 直進できない、が……?

待ちに待った早大OC大会当日です。この日は大会の規模が非常に大きい(参加者600人超え!)ということもあり、朝から宿の周りをランニングしていました。
宿がオートロックなのを忘れていて、締め出されてしまいました。やれやれ。大声を出しても届かず、インターホンは動かず、スマホも置いてきてしまったので、30分くらい外でヨガをしていました。正直めちゃくちゃ不安でした。

閑話休題。

無事に宿を出発して、会場で部員と合流。ミセレ前最後の大会ということもあり、みんな気合が入っています。出走が近い人がいなかったので一人でスタート地区まで。誘導長かったですね。スタートが寒かったので、道路で日向ぼっこをして時間をつぶしていました。前日はソファで寝落ちしてしまったので、左股関節の痛みは治りませんでした。
そうこうしているうちに始まりました。僕は基本的に大会前に旧図などを読まないので二子も当然初見だったのですが、いざ始まってみるとエリアは急峻で崖ばかり。高強度のコンタリングと道走りを使うレッグばかり。ある程度なだらかな地点では藪が濃く、練習した直進を生かせる機会もなし。仕方がないので道走りメインで現在地を見失わないオリエンテーリングをやっていきます。難易度が高い上に隣ポが多く、レース中は「これは完走できない人も結構多そうだな」と考えていました。あと道はヌルヌルすぎます。途中でドジョウ掬いくらい転びました。序盤スタートだったので部内で2番目くらいにフィニッシュして、会場でみんなを待っていました。
案の定、他大学を含めてみんな沈んだ表情で帰って来たので、たまにある全員が上手くいかなかったレースだなぁと思いながらライブ速報を待っていました。出た。結果は

  • タイム: 1:19:27

  • 順位: 72位(80人中)

  • 巡航速度: 169.6

  • ミス率: 16.8%

「1か月前と対して変わってないやん」と思いましたが、よく見るとタイムオーバーとDISQが30人くらいいたので実際は100人中の72位でした。また、この大会は優勝設定35分に対して実際の優勝タイムが42分と、難易度が非常に高いコースであったことが伺い知れます。その点を考慮すると、かなりマシな成績といえるでしょう。少なくとも、学生だけにも関わらず下から2番目だった早慶戦リレーとは比ぶべくもありません。

また、この大会ではささやかながら大きな進歩がありました。
ついに数人の現役部員に勝てたのです🎉
基本的に違うコースを走ってきたとは言え、ここまでの大会で二年生以上の部員に勝ったことはありませんでした。みんなが下振れていたといえ、こちらも得意でないテレインでのレースでした。これは1週間後のミセレに向けてやる気を出すに十分な材料でした。部内で一番速い選手のタイムが大体一時間であることを見て、自分はミセレでは一時間切りを目標に、フィジカルと技術の両面から追い込んでいくことを決意しました。

2.3 四面体との出会い

とはいえ、ただ距離を走ったりしても仕方ありません。技術やスタイルが確立されているならともかく、今の自分が走りまくってもロードの速度が多少速くなるだけです。ロードを速く走ることがオリエンテーリング(フォレスト)ではありません。今やるべきことはまず、自分のやるべきことを決めることです。再帰的に見えますが、大事な作業だと思います。
強者に学ぶべし。
そうして僕は、オリエンテーリングの集合知であるところのオリエンティアアドベントカレンダーに潜っていきました。

過去3年ほどの技術記事を軽く眺めながら、自分の思想や目的に合致した記事を探しました。そして、その時は来ます。

天才の書いた記事を見つけてしまいました。難解すぎて何回も読みました。なんかいい感じに理解できるまでかなりの時間がかかりました。
細かい内容については各自で読んでもらうとして、この記事の自分が影響を受けた一節と、一番実践的な部分について抜き出して引用します。

僕は、これらに加えて「時間」がオリエンテーリングにおける特徴的で重要な資源だと考えている。

競技者には競技時間が与えられている、その競技時間をある意味使って、地図を読んで身体を動かしている。その時間という資源の残り時間を競っているともいえる。
(中略)
そして、この「時間」という資源は扱い方が難しい。なぜなら、時間は資源であると同時に目的でもあるからだ。 時間を使うことは、時間をなるべく残すという目的と反対の行為である。

https://note.com/varje_dag/n/n1ee87ea43176

これはつまり、「普段より30秒地図を読んでも実行を31秒削れるならトータルで1秒削れている」ということです。

目標設定

入賞ライン=80分と想定。
①距離(s)かかさむようなミスはしにくいので、そちらは特に考えず、速度(v)は75分÷10.1km≒キロ7.5が、タイム80分でも要求ラインとざっと目的を落とし込んでいた。

②別の視点として、地図が読んで冷静に判断ができる速度(v)を平地で計っていており5:30程度と算出していた(地図読み走と、レースでの心拍数から算出。)。キロ5:30×10.1≒約55分は最低速度(v)の面で使っていまい、「技」の方では「時間」を25分程度しか使えないと想定。

後は、ポストで止まる時間が○○秒だから合計何分はそれで、、、など、目的をより細かい指標に落とし込んでいた。

https://note.com/varje_dag/n/n1ee87ea43176

つまり、自分の走力(最低ペース)予想される実走距離から絶対にかかってしまう時間を求め、残りの時間を地図読みやリロケ、減速区間などで自由に使ってよい、とする考え方です。これは極端にいうと、オリエンテーリング中の行動を以下の二つに分類するということ言えます。

  1. 走りながら、ペースを下げずにやれるだけのことをやる区間(この区間では速度は削ってはダメ)

  2. 自由に使ってよい時間の範囲内で地図を読んだり、リロケをする区間(この区間では、残りの自由時間をオーバーしてはダメ)

難しいですよね。イメージとしては、上で計算した残りの時間(=自由時間)をゲージとして持っておいて、

  1. 最低ペースより速く走るとゲージが増える

  2. 最低ペースより遅く走るとゲージが減る

  3. ルートチョイスやリロケをして止まっている間はゲージが減る

という三つの原則に従って動きます。このゲージが残っているうちにゴールできれば目標タイムを達成できます。ゲージを使い切ってしまうと目標タイムより遅くゴールしているはずです。日常生活の中でも「予定より速くついたから午後の予定でも確認しておこうかな」という場面がありますが、それです。

細かい理解については前述の記事に任せるとして(非常に丁寧に書かれています。)、僕が今回のミセレにおいてどのように目標設定をしたのかを流れに沿って追っていきます。

[目標設定]
60分でゴール
[レース設定]
・直線距離4.5km程度→実走は長くても6km
[必要な数値]
・60分 / 6km = 10分/kmが許される平均ペース(止まっている時間まで含めてのペース)
・自分がポストで地図読み&回復に使う時間はだいたい20秒
・防風林でのインターバルの記録から、自分が不整地を400m, 20秒休憩で走れるペース(最低ペース)は7分/km→6km走ったら42分は最低でもかかる
・60分(トータルタイム) - 42分(実際に走る時間) = 18分(自由時間)
18レッグあるとして、1レッグあたり自由時間は1分
・20秒
はポストで地図を読むので、リロケやCP確認に使えるのは40秒

適当な紙で計算していました

整理すると、達成するべき数値目標は以下のようになりました。

  • レースを通しての平均ペースは10分/km以下

  • 走っている時のペースは7分/km以下

  • ポストで立ち止まっていい時間は20秒以下

リロケやCP確認についてはその都度必要な時間をかけて、自由時間をオーバーした分についてはペースを上げて回収することにしました。これらの数値について、厳密に計測しながらレースをしていたわけではなく、「1レッグあたり3.5分くらい」と思っておいて、適宜時計を見ながらなんとなくの感覚を計っていました。
そもそもレース中に走行ペースを気にするのはナンセンスであり、それらは事前の練習で意識しなくてもキロ7分/km以下を維持できるようにするべきであるとの結論に至りました。地図読みについては、一門地図読みなどを繰り返すことですっとルートが複数見えるようにしました。

また、千葉大学では決意表明と目標の明確化のために一門の長に目標を示す文化があります。僕は以下の目標を立てました。

[絶対目標]
1. ミス率15%以下
2. 1時間以内に完走

[相対目標]
1. ミセレボーダー+15分以内
2. 部内上位50%に入る
3. 部内新人内1位

2.4 ここから怒涛の練習が!!!

本当に始まりました。さて、この時点で残り1週間です。練習は最大効率でやるべきです。しかしサマチャレの負傷もまだあり、オーバーワークで破滅する可能性もありました。ミドルを見据えて、一回で走る距離は4kmくらいにして、高負荷のトレーニングを行うことにしました。以下のようなトレーニングを行いました。

  • 10kgのベストを背負って6分/kmを維持して走る(終盤の疲労対策)

  • 夜の防風林を400m, 20s×10インターバル(目ではなく足で不整地を掴む練習)

  • レース用のシューズで股関節で走る練習(登りの走り方を調べてロードで練習)

非常に大変でした。特にベストを背負った日は、雨の深夜にも関わらずすごい(身体が)熱い夜でした。普段は週に5km走らないくらいですが、この週は30kmくらい走っていました。金曜日の時点で股関節が痛くて走れなくなったので、練習を中断することにしました。
これと並行して地図読みを繰り返し、ルートチョイスの高速化を図りました。直進を手札として切れるので、安全マージンを取っても半径150mくらいは安心して直進を選ぶことができます。限られた時間の中でのルートチョイスにおいてこれは素晴らしいことです(とりあえず直進、を選べるので)。

ミセレ前日の土曜日はトレーニングに耐えられる状態ではなかったので、千葉駅に行って部内のクリスマス会のプレゼントを見ていました。いいリラックスになってよかったです。結局何を買えばいいかわからなくて何も買いませんでしたが。遠くに住んでいる部員が前泊しに来たので夜はカレーチーズハンバーグを食べました。暴力的なおいしさでした。食後は僕の組んだ予想コースを一緒に読んで入眠。結構ぐっすり寝ることができました。

2.5 ミドルセレ(12/10) - 集大成

当日がやってきました。エネルギー不足が怖いので、運動時用のゼリー飲料を3本持っていき、会場・スタート地区・レース中に一つずつ飲みました。結構効果を感じたのでお勧めです。さて、出走です。

いいレースでした。特段語ることもなく、前述のプラン通りに直進と道辿り、コンタリングをうまく使い分けながら迷うことなくゴールしました。(序盤で一回逆整地しましたがすぐにリカバリーできました。)終盤は時計を見ながら「ここで走れば一時間切り!!!」と念じながら足を前に動かし続けました。フィニッシュ。会心のレースと言える出来でした。
堪えきれず、フィニッシュ誘導も走ります。じゃあレース中にもっと走れよ。手元の時計では51分。またもや序盤スタートだったので他の部員はほとんど帰ってきていません。同じく序盤スタートの部員とそわそわしながらスタート閉鎖を待ちわびます。(注記:スタート閉鎖まではレースの話をしてはいけない。また、スタート閉鎖と同時にライブ速報が開始される。)

スタート閉鎖!「いつもより簡単だった」「セレボーダー40分くらいじゃない?」「1位31分だ」といった声が各所から聞こえてきます。僕のタイムは51:29!!!目標を8分以上更新して超いいタイムでした。レースの流れを決めて、それにうまく乗ることのできたレースでした。流れを自分で作ることができたのが大きいです。
続々と帰ってくる選手と更新されていく順位表を見ながら気づきました。
結構速いな
大先輩が呟きます。「海音、はやっ」
嬉しい限りです。ほくほくで更新される順位表を眺めていました。
最終的な結果としては、Ms2/Ms2Cを合わせて

  • タイム: 51:29

  • 順位: 51位(103人出走)

  • 巡航速度: 160

  • ミス率: 14%

とかなり上々でした。部員内での順位も7位と、インカレリレーすら射程に入ってくる結果でした。事前に立てていた目標も全て達成することができました。

全部達成出来るとは!
今はこの1週間張りつめていたこともあり、反省などもあまりできていませんが、ひとまず満足のいくレースと結果を手に入れることができました。年末まではのんびり楽しみながら、年が明けたらまた対抗戦やインカレにむけて強くなっていきたいと考えています。

3. まとめ

長すぎて意味不明だったと思うのであらすじと要点をまとめたパートを書き足します。

初めてミドルに挑戦した筆者。しかし待っていたのはMFとは段違いの難易度だった……一時間切りを狙うも全く歯が立たず、自らのオリエンテーリングスタイルを一から再構築することを決める。アドカレを読み漁り強者の思考回路をエミュレーション。ルートの選択肢を増やすためサマチャレに籠りひたすら直進を練習する日々。
ある日、オリエンテーリングの四面体と出会い、自らのレースの流れを事前に設計することに。ミドルセレはなんと1週間後。彼の運命やいかに……?

あらすじ

オリエンテーリング全体について意識したことは以下の通り

  1. レース中のオリエンスタイル(戦術論:オリエンテーリングスタイルとは?その必要性と分類)

    1. ポストで20秒止まってルートを考える。(ストップ&ゴー)

    2. 見えるはずの景色を最初に想像することで景色全体を広義でのCPとする。点状特徴物や線状特徴物もきちんと把握する。

  2. ルートチョイス(完璧なオリエンテーリングを目指して 〜地図読みの先を見越したプランニング〜)

    1. 最初に幅を持った線でいくつか案を考える。

    2. その中から最も好ましいものを選ぶ。

    3. 線で点を繋ぐ(XPの意識)。

    4. 直進をしっかり手札として切る。

  3. 時間リソースの配分(オリエンテーリングの四面体~戦略論~)

    1. 目標タイムと実走距離から必要ペースを求める。

    2. 自分の不整地での最低ペースを把握しておく。

    3. 1, 2から、止まっていい時間を求める。

3について、今回は60分(目標タイム)のうち、48分を走行に、12分を自由時間に分配した。ということです。

実際に行った練習などは以下の通り

  • 目標タイムから必要なペースを算出してそれより速いペースでのインターバル走

  • 終盤の疲労対策でウエイトベストを付けてのランニング

  • サマチャレ[Straight]での直進練習

  • 不整地の登りの練習(登りは水平走行とは体の使い方が異なる)

4. おわりに

長くなってしまいましたが、これが僕のここ1か月半の記録です。書いてみると結構濃密でしたね。

この記事でもいくつか紹介しましたが、オリエンティアの書く技術論には非常に深い洞察が含まれており、上級生も含めて読んでみることをお勧めします!トップ選手の脳内を無料で読めるなんてお得すぎますね。重ねになりますが、僕の一押しはこの記事です。

これからも楽しく、しかし本気でオリエンテーリングをやっていきたいと思っています。会場で見かけたらぜひ話しかけてください!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?