自然な出会いVS不自然な出会い
「亜美は素敵な彼氏がいていいなぁ。私も恋愛したい。でも、私は自然に出会いたいんだよね」
悪意がない佳奈恵の言葉にちょっとだけモヤる。
「自然な出会い」ってなんだ? つまり、私と彼氏の出会い方は不自然ってこと?
確かに私は彼氏と婚活パーティーで出会ったけど、今時、婚活とかマッチングアプリを不自然と考えている方が遅れてるんじゃないかな。
そもそも、自然な出会いって具体的にどんな出会いだ。口にパンを咥えて曲がり角でぶつかって「どこ見てんの! 気をつけなさいよ! 」みたいな、そんな出会い?
「出会いは人それぞれだからね。佳奈恵もいい人に出会えればいいね」
「うん。でも、私は妥協したくないんだよね」
おっと。さっきから、「でも」のあとに余計な言葉ばっかり続けすぎじゃない?
私の恋愛は妥協した恋愛ってこと? 婚活パーティーやマッチングアプリで得た出会いは、全て妥協ってこと? 私は自分の彼氏にとても満足してますけど?
「佳奈恵、 職場では出会いが無いって言ってなかった?」
「そうなんだよー。会社と家の往復ばっかりで嫌になる。彼氏欲しいな」
佳奈恵は、彼氏欲しい彼氏欲しいって連呼するのに、ちっとも行動に移さない。自分から動こうとしないのに羨んでばかりで、妥協もしない。会社と家の往復しかしていないなら、出会いが無くて当然だ。
誰もが振り返るほどの絶世の美女であれば、歩いている途中で声をかけられることもあるかもしれないが、これまで声をかけてもらえてないのなら、佳奈恵は絶世の美女じゃないってことなのに。
「職場だけじゃなくて、どこか出かけたりしないと出会いは無いよ」
「だよねー。でも、現状維持も大切だし。ありのままでいたいし」
出たよ、ありのまま。現状維持ってなに?
現状を維持し続けてありのままでいる結果、彼氏できてないし、出会いもないままじゃん。
童話のシンデレラだって自分から出会いを求めて舞踏会に向かったし、綺麗なドレスを用意したっていうのに。佳奈恵はシンデレラでもお姫様でもないのに、家と職場の往復をしてひたすら王子様を待っている。自分から婚活という名のお城には出向かない。そりゃ出会いなんて無いよ。
自然な出会いなんてこの世に存在しないってことに、気が付いてないんだよね。
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「職場だけじゃなくて、どこか出かけたりしないと出会いは無いよ」
「だよねー。でも、現状維持も大切だし。ありのままでいたいし」
亜美の忠告にやんわり反論しながら、ちょっとモヤる。
亜美が考えてることはだいたいわかってるよ。自然な出会いってなんだよ? 少しは妥協も必要だよ。ありのままってまだ言ってんの? とか思ってるんでしょ?
はいはい、ごめんね、頭固くて。私だってわかってるよ。このままの生活を続けても出会いなんか転がってない。いい男は道に落ちてない。イケメンが私を拐ってくれることもない。
「恋愛したいなら、佳奈恵も自分から積極的に動かないと! 婚活パーティーに参加してみたら? けっこう楽しいよ」
「うーん。考えとく」
動かないと出会いは無い。正論です。わかります。だけどね、この世の誰もが、亜美みたいにあっさり行動に移せるわけじゃない。一歩を踏み出せるわけじゃない。
亜美にとっては、出会いの場に向かうことなんて、気分転換にいつもとは違うコンビニに行ってみようかなーっていうのと同レベルの、軽い一歩だったのかもしれない。だけど、私にとっては、世界陸上の高跳びのバーを飛び越えるくらい大変な一歩だ。
だいたい、自分が参加して良い結果だったからって、私も良い結果になるとは限らないでしょ? 婚活パーティーの話題を共有して盛り上がりたいのかもしれないけど、押し付けないでほしい。
それに、変化を求めることも大切だけど、現状維持もそこそこ難しいじゃん?
変化を求めて行動した亜美も偉いけど、毎日コツコツ仕事してきっちり税金納めてる私も偉いと思うよ。
恋愛はしたい。確かに。でも、わざわざ大きな一歩を踏み出してまで恋愛したいと思わない。現状維持最高。
そんなありのまま生活の中で自然と理想の相手に出会えたら、そりゃもう最高の恋愛になりそうだし、別に出会えないならそれはそれで構わない。とても自然だ。
「亜美みたいに素敵な彼氏に出会えたらいいけどね。羨ましい」
「そう思うなら、ちゃんと自分から動かないと」
はい、振り出しに戻る。いつまでやるの? 飽きない?
あのね、実はそんなに羨んでないよ? そりゃ、口では羨ましいって言うけどさ。目の前で彼氏の話をされたら、「私も亜美みたいに素敵な出会いをしたいなー」ってお世辞くらい言うよ。それが惚気に対する礼儀じゃん。
私は、人生において恋愛をそこまで重要視してない。だから、自分から動いてまで出会おうとは思わないんだよ。
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――早く動きなよ。
――別に動きたくない。
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