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インボイスは悪なのか?

2023年10月1日から施行された
インボイス制度

世の報道では中小企業・個人事業主への
負担増だなんだと批判を浴びている

ではインボイス制度とは悪なのか?

これはそもそも消費税法 本法について
理解をしなければ議論が難しい

消費税法とは1988年に公布された法律で
当時 少子高齢化の傾向から
今後増大するだろう社会保障費の担保として
世代に関わらず発生する間接税を
その財源に採用したことで成立した

法律を読むことに慣れていない人に
向けて先に注意をしておく
特に税法に関しては注釈となるカッコ書きの
部分は読み飛ばして良い
実はこのカッコ書きが法律の条文の可読性を
著しく困難にしているのだ

カッコ書きの中身は一部対象への補足説明や
他述されている条文の引用がほとんどなので
各項の内容を把握するだけであれば読む必要がない

法律の素人が何を言うかと思うかもしれないが
憲法学者の先生から聞いた話なので
恐らくは正しいと思うし
私も法律を読む時はカッコ内を読むことはほとんどない

さて
税法に限らずたいていの法律は
趣旨→用語・定義→本法という流れになる
この法律は何について書かれていて
条文の中で使われている前提条件はなんなのか
わからなくなったら1条・2条あたりへ戻ってもらうと
内容を理解しやすい

法律の読み方はそこそこにして
消費税法についてだが
本法の趣旨はこうだ

国内において事業者が行った資産の譲渡等及び
役務の提供が行われた場合 消費税を課すとなっている

つまり日本国における消費税法とは
「国内」で行われる
「事業者」が行った
「資産の譲渡」もしくは
「役務の提供」が発生すると徴収されるものなのだ

海外からの渡航客が国内で商品を消費する場合は
国内法の縛りを受けるので本法が適用されるが
国内で購入したものを海外で開封し消費する場合は
課税の対象とならない

また事業者ではない個人または法人が
資産の譲渡もしくは役務の提供を行っても
消費税は発生しない
※事業とは継続性・収益性をもった経済活動のこと

消費税法には消費税の課税対象とならない
非課税取引が列挙されており特定取引では消費税は賦課されない

ここまでは消費税法の格子という部分で
たいていの方はなんとなくでもこの程度は理解していると思う

ここからが専門的な話となる
なぜなら消費税を国に納める人しか関わらない内容だからだ

消費税法には消費税の課税事業者となるかどうか
判定するという制度がある

というのも消費税法第9条にある
小規模事業者に係る納税義務の免除について
という項目が原因である

事業者は基準期間の課税売上高が1,000千万以下である場合
納税義務が免除される

いわゆる免税事業者の判定だ
まずここで言う基準期間とは2事業年度前
つまり2年前の事業年度の課税売上高で判定を行う
※事業年度とは事業を行う上での1年間を指す
 個人であれば1月1日から12月31日
 法人であれば各企業が定める事業期間(1年)となる

新設企業のように基準期間が存在しない事業者も
免税事業者を選択出来る

免税事業者とは消費税相当額の受領を顧客(消費者)から
行っても申告及び納付を要しない事業者のことである

インボイス制度適用のはるか昔
35年前から存在していた消費税を国に納付することを免除された者

なぜそんな制度が必要だったのか?
当初の言い分はこうだ

免税事業者は「消費一般に幅広く負担を求めるという本法の趣旨
あるいは経済社会に対する中立性の確保という観点からは
免税事業者の制度を極力設けないということが望ましい」とされる一方
「小規模な事業者の事務負担や税務執行コストへの配慮から
設けられている特例措置」である

35年前に前述の理由により設けられたこの特例措置は
多くの誤解を生むことになる

免税事業者は自分が免税事業者であることを
取引先や顧客に明示する義務がない
そのため免税事業者が販売するものに消費税相当額が
含まれていると誤認が起きる
それを払っている消費者からすれば
消費税が国庫に入っていないという理不尽さを感じるだろう

実際には消費税を納付するのは事業者であり
事業者が消費者に提示しているのは消費税相当額を含んだ金額である
という方便があるわけだが実際に払う側はそんな風には捉えない

また取引先も免税事業者から商品を仕入れた場合は
消費税を国に納める際に差し引きしてよい消費税の額が
減ってしまうことになるが
免税事業者はそれを明示する必要がないのだから
インボイス制度施行前は関係なく仕入税額控除が出来てしまっていた
※事業者の消費税納付額の減少

小規模事業者の事務負担の軽減
税務執行コストへの配慮

つまりは小規模事業者が少ない消費税を
計算して申告・納税するのは大変でしょ?
税務当局もそんな小口の少額消費税を管理するのは
大変なんだよ

という言い訳なわけだ
それは35年前であれば理解は出来る

今や会計ソフトが充実しe-Taxで申告が出来る時代である
そもそも自動計算される消費税相当額の管理に
そこまで負担が係るといえるだろうか?
国税当局は事業者に対して源泉所得税の管理など
他にも多くの事務負担を強いてきた
それと比べて売り上げと連動している消費税の
取り扱いは極めてシンプルであると感じる

また税務当局の管理体制に対しても
機械化が進んでいないならまだしも
KSK(国税総合管理システム)を導入して
すでに20年以上が経過している
現在も基幹システムの見直しが叫ばれているが
それにしても機械管理がこれだけ進んでいる以上
小口納税者の管理が煩雑というのはまさに言い訳でしかない

そもそも免税事業者は約513万者超
課税事業者約310万者程度との報告もある
※2017年 税務大学 考察より

もとより免税事業者というシステム自体に問題があったわけだ
だからこそインボイス制度が必要となった
もちろん税収を増収する目的が大きいわけではあるが

インボイスとは適格請求書のことを指す
インボイスを発行する事業者を適格事業者とする
つまり消費税の仕入税額控除を受けたければ
適格事業者と取引せよと言っているも同然だ

そうなると今まで免税事業者として
消費税の申告・納付を免れていた事業者は
仕事に影響がある
インボイス登録をして適格事業者になれば
消費税相当額である売上の10%相当を
国庫に納付せねばならない

利益ベースの減収はやむを得ない
しかしこれが正常といえば正常な姿とも言えるのだ

一点だけ消費税免除制度について
触れるとすると新規事業主の消費税免税は
維持すべきと考える

新規事業のハードルは初動数年の
利益ベースの安定だ
消費税相当額の国庫納付免除は売上の1割になるわけだから
新規事業立ち上げのハードルを下げる要因であることは間違いない

新規事業主でも免税事業者を選択しないケースは多い
特に土木建築業界など納税状況が公共機関の入札条件に
関わるケースが少なくないからだ

だとしても企業は多く死んでも多く生み出されなければ
産業を維持することは難しい
出資者との兼ね合いはあるものの
起業そのものを容易にすることに悪いことはない

さてかなり長くなってしまったが
これを読んだみなさんはどのように感じるだろうか?
消費税は免税事業者の存在があったからこそ
益税と揶揄され続けてきた
それがインボイス制度で明示されたことで
本来の消費税としての姿に近づきつつある

消費税は誰もが必要な最低限の消費に
発生してしまう税金である
それだけ注目度も高い
しかし漠然と知っているのと
よく理解しているのでは
腹落ちにも違いが出るだろう

税法に関してよくわからない人も多いと思うので
思いつく限り今後も触れていきたい

※参考資料
国税庁:消費税の事業者免税点制度の在り方についての一考察

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