佐野壮子さん(仮名)の相談

こんにちは。ちょっと相談に乗っていただけるとお聞きしたものですから。私みたいなんでもいいんですか❓もっと若い子が来はるとこなんかなあ思ったんで。

ほんまですね。今日はいいお天気ですね。こんな晴れた日は最近じゃ珍しいですね。ほんまにね。気持ちええですね。
先生、珍しい喋り方しはるね。最近そういうなんが流行ってるの❓
ええ、そうです。京都です。はあ、先生、最近京都水族館行かはったんですか。京都駅から近くの、はあ、オオサンショウウオ❓はあ、そうですか。うちはしばらく京都帰ってないさかい、あんじょうようわからんのですけど、色々新しいのが出来はったんですねえ。実家ですか❓いえ、うちはそっちの方とはちゃいます、左京区の方です。あんまりそっちの方は行かへんからね。先生のご出身はどちらですか。はあ、埼玉ですか。最近では住みやすい土地で人気て聞きますよ。

ははは、そうですね、普段はちゃあんと東京の言葉使うんですけど、おたくみたいな心休まる方とお話しするとね、ふっと戻ってしまうみたいです。やっぱり子供の頃育った環境の言葉はね、しっかり丈夫な箱みたいのんにぎゅっと入っているみたいで、そのまま取り出したように戻りますね。不思議なもんです。

うちはね、先生。もう今年で53になるんです。23で結婚して、遅くに子どもができたんですけどね、その子どもももうすぐ成人です。長男は今年から九州の方の医学部に通ってます。へえ、まあよくやってると思いますけど。長女はそんなに出来がいいわけじゃないから、まあ短大とか行っていい人見つけてくれたらね。いいんやけどね。次女はうちが言うのも何やけど別嬪てよく言われてね、こないだの期末テストでもクラスで2番でね。頭も良くて。母親やけど、娘の人生を羨ましくなってしまう時もあるんです。

うちはね、先生。たとえばね、ご近所さんが毎年ハワイ行くとかね、隣の奥さんが毎日素敵なお召し物着てるとかね、娘の同級生のお友達が高校ええとこ行ったとか聞くとね、心の中でね、うちの長男は医学部やとかね、うちの育ったんは京都の名家やとかね、心の中でね、呟くんです。自分でもほんまアホらしいなあとね、どこかで思っているんやけどね、もう癖みたいになってしもててね。もうこんな歳やし、そうなんやねえ、すごいねえってもっと大らかに聞けたらいいのにて思うんやけどね。ダメです。うちは旦那は銀行員でね。そやけどお隣さんは大手の商社に勤めてはるしね、うちは行員て言っても地方やしね。そんな大したことないんです。それにね、センセ。長男の医学部もね、私の生家もね、よくよく考えたら私の力やないんです。私が成し得たことは一つもないんです。長男の医学部も当たり前やけど長男の力でしょ。京都の家も父の代まで築き上げてきたものやし、、、そやけど私の一番上の兄がお金のことときたらさっぱりでね、もう財布に大きい大きい穴が空いてるんです。株に手出してね。バブルの時代に派手にやってね。そんでね、家も売らなあかんようにまでなってしもてね。もう大分前のことやけどもね。そやし、もうそこに生家もないんです。寂しいですけどしゃあないですね。

もう53やのに、私はほんまは空っぽなんやなあ思うとね、何してきたんやろって気持ちにもならんこともなくてね。そやけどこの先もう人生も下り坂でしょう❓認知症も怖いし。今更なんか新しいこと始めるのもねえ。先生どう思います❓

喋りすぎやね、最近話する人もあんまりいないからついつい、、、話す時の間を忘れてしまってますね、お恥ずかしい。


認知症ね。僕も怖いのね。最近物忘れ激しいのね。佐野さん、たくさんお話ししてくださってありがとねなのね。
僕もね、今から何か始めるのとっても怖いのね、だから佐田さんの気持ちもちょっとわかる気がするのね。テレビ見るとね、オリンピックの選手が活躍してて、いいなあって思うのね。だけど、今から僕がトランポリンを始めても、きっとオリンピックには出られないのね。キラキラできないのね。
でもね、キラキラって思っている、その見ている目はね、実は自分の外側に付いている方の目なのね。客観とも違う目なのね。だから本当はそんなに当てにもならないと思うのね。
多分、佐野さんのもう遅いって思う目もね、外側の目なのね。だからそんなにそのことに耳を傾けなくていいんじゃないかって思うのね。
佐野さんは自身失っているように見えるけれど、何かを始めるとね、きっとそうじゃないことが見えてくるのね。だからなんでもいいから心に少しでも引っかかったことを始めてみたらいいのね。
人生は本当は簡単なのね。難しく考えなければ。


※これはフィクションです。



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