サイバーパンク エッジランナーズ感想(ネタバレあり)

 Netflix限定のアニメ『サイバーパンク エッジランナーズ』を視聴した。

 一言で言うと近未来の荒廃した世界で、機械と融合した体を持つギャングたちの壮絶な死に様を描いたアニメだ。

 グロテスクで過激な戦闘描写が特徴的なアニメであるが、注目したいのはそこではない。
私が注目したのは人間ドラマだ。特に主人公のデイビッドとヒロインのルーシーは言ってることとやってることに非常に違和感があり、それがラストで解消される流れになっている。

 まずは、デイビッドだ。彼の戦う動機はシンプルに仲間を守るというものだ。これは、最後の方でさらっと語られている動機であるが、母親を守ることができなかったことをきっかけに、メインやルーシーを最後まで助けようとしていたことからもうかがえる。
 しかし、守ることが目的ならば、なぜあの街から逃げ出すことを考えなかったのかが、私は疑問だった。物語では終始、危険な依頼を受けて金を稼ぎ、体を強化している。街を逃げ出さないまでも、金は稼いでいるため、それなりに目立たずに暮らしていくことも可能だったはずである。ある程度強くなっているため、襲われても返り討ちにすることもできる。危険な依頼を受ける必要はもはやないのだ。なのに続けている。それがデイビッドに対する違和感である。

 一方で、ルーシーにも違和感がある。彼女は、月に行くことが夢である。そして、今生きている世界は地獄だと語っている。だとしたら、さっさと月に行けば良いのに、なぜか行こうとしない。作中では案外簡単に月に行けるにもかかわらず。ここがルーシーに対しての違和感である。もちろん、彼女の目的はデイビッドを死なせたくないということは私も知っている。しかし、そうであるなら、デイビッドと共に月に逃げれば良いわけであるから、やはり違和感が残る。

 この2人に対しての違和感はラストで解消される。デイビッドはルーシーに
『俺は母親もメインも守れなかった。だけど君だけはせめて守りたい。君が夢を叶えることが俺の夢だ。』
と語り、自分が犠牲となってルーシーを逃す。そして、最後は満足げに死ぬわけであるが、ここでようやく私の違和感が解消された。デイビッドは誰かを助けるという行為をしたかったのだ。そう考えると、危険な依頼を受け続ける理由が理解できる。依頼を受けなくなると、当然仲間や恋人もある程度強いわけであるから、守る必要はなくなる。武士が戦に生き、戦で死ぬことを喜びとするように、デイビッドは危険な状況下で仲間を守ることを生きがいにしていたのだ。そう考えてみると、最後のデイビッドの死に方はベストだったといえる。最愛の女を守って死ねたのだから、デイビッドにとってこれ以上のハッピーエンドはないだろう。

 一方でルーシーはというと、デイビッドの意を汲んで、逃げることに成功し、そしてラストでは、夢であった月へと辿り着く。しかし、かつてデイビッドと体験したバーチャル世界の月面での思い出を思い出し、悲しげな表情を浮かべる。ここで、違和感が解消された。
 ルーシーは月に行くことが夢だと語っていたが、実際はそうではなくなっていた。彼女の夢は『デイビッドと一緒にいること』に変わっていたのだ。だから、全く月に行こうとする意欲が見えなかったのだ。ルーシーにとって、生きている世界は地獄から夢の世界へと無意識のうちに変わっていたのだ。それに彼女が気づいたのがおそらく実際に月に行き、デイビッドとの体験を思い出して、悲しげな顔をする時である。彼女にとってもはや夢の世界は思い出の中にしかなく、一生叶わない夢となった。そして、かつての夢の世界であった実際の月面はデイビッドがいない地獄でしかない。
 ルーシーは結局デイビッドの夢を叶えるために月に行ったことになる。つまり、他人の夢を叶えるために生き残ってしまったのだ。かつて、ルーシーはデイビッドに、『他人の夢を叶えて、何が嬉しいの?』と語っていたが、それが皮肉にも回収される形になっている。さらには、どう生きるかではなく、どう死ぬかが重要であるこの世界で、ルーシーは死ぬタイミングを逃している。彼女にとって、デイビッドと共に死ぬ瞬間こそが最高のタイミングだったはずである。それを逃した彼女には、もはや生きる意味もなく、死ぬ理由もない。彼女は主人公の最後とは対照的に最悪のバッドエンドを迎えた。

ということで、長くなりましたが、こう考えると非常に面白い作品だと思います。皆さんのなんらかの参考になれば幸いです。

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