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自己啓発本の棚の前で

 本屋さんに行って、自己啓発本の棚の前に行くと、なんだかほっとしたような、愛おしいような気持になる。
 そこにある大量の「こうすれば人生が楽になる」とか「幸せになるための十か条」とかの本を書いた人がいるということ、そしてそれらを読む人たちがこんなにもたくさんいるということに、人間のどうしようもなさと愛おしさを感じるのだ。
 たぶん、人生はそんなに簡単なものではない。これさえ読めば絶対に幸せになる、というものがあればみんなそれを読んでみんな幸せになっているだろうし、これさえすればお金持ちになれる、という方法があればみんな今頃億万長者だろう。
 決して絶対の方法などない。それでも、もしかしてと思って本に手を伸ばす人たちが、これだけたくさんいて、もしかしてこの方法が救いになるかも、と本を書く人たちがこれだけいるのだ。
 絶対の方法はない。必ず成功するやり方なんてない。でも、一冊の本が誰かの人生を変えることはある。その一冊を探し求めてみんな手に取るのだろうし、その一冊になりたくて、みんな書いているのだろう。
 ほんとのところは、その一冊がなにかはわからない。ビジネス書の棚にあるかもしれないし、小説かもしれないし、詩集かもしれない。
 でも、「人生を変える方法が書いてありますよ」と銘打ってあるのは自己啓発本のみで、その一つのジャンルさえ、これほどの冊数を要するというのが、人間の愚かさと可愛さと必死さを表しているようで、わたしはたまらなくなる。
 辛いとき、困ったとき、なんとなく自己啓発本の棚の前に立ってしまう。本を手に取るわけではない。
 そこにある本が生まれる背景にある、人々のもがきを感じて、エネルギーをもらい、そしてわたしはそこを離れる。

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