神戸市立博物館『よみがえる川崎美術館ー川崎正蔵が守り伝えた美への招待ー』

こんにちは、最近散在しすぎで懐と銀行の残高が寒くなってきていますが、神戸市立博物館で開催されている『よみがえる川崎美術館ー川崎正蔵が守り伝えた美への招待ー』(12月4日まで)を観に行ってきました。
一言で言うなら…楽しかったです。もともと故川崎正蔵氏は、日本にある古美術品などが廃仏毀釈などを理由に海外へ流出することは美術界、ひいては国の損失に繋がると考え、事業で儲けたお金を美術作品収集に充てたのが全てのはじまりだったそうです。また彼は、それを仕舞っておくだけではなく、公開することで価値を持つ、と考えていたようですね。
残念ながら当時の外観風景や庭園らしき場所を写した写真は残されていますが、当時の展覧会の写真はほとんど現存しておらず、美術館も戦災などで壊滅的な被害を受けたため現在は跡形も残っていないようです。
コレクション自体も、購入数は最終的に2000点を超えていたようですが、現存するのは200点余り、それも一部所在が分からなくなっているようです。まあ当然と言えば当然かもしれませんが。
川崎正蔵が興した会社もその後、金融恐慌のあおりを受けて彼が収集した美術品を手放すことになっています。売却会のようなものが全3回ほど行われ、値段が高い順に掲載された目録のようなものも残されていました。上位で売れた作品を見るとやはり有名どころばかりでしたね。2位が確か寒山拾得図(おそらく現東京国立博物館所蔵のモノ)だったと思います、私は見れませんでした悔しい。
ですがこの売却会が結果的に海外へ一部の作品が流出したことで守られた、と言うのは何とも不思議めいていると言うか皮肉のようなものを感じずにはいられないですね。
彼が創設した美術館は、現在のような誰でも見れるような場所ではなく、限られた一部の人のみが、束の間の美に思いを馳せることができる施設の場所だったようです。また展覧会と言っても実質は虫干しのような状態であったことが、資料からうかがえるそうです。

今回の展示ですが、実は数少ない資料を基に当時の美術館の再現展示が行われていました。襖絵の配置や、入り口には墨で書かれた館術美崎川(当時は右→左読みなのでそれをリスペクトしています)が掲示されているなど、数少ない資料から学芸員の方が必死の思いで再現されたことが分かりました、随分と上から目線な物言いだこと。
襖絵自体は展示のスペースもあるためある程度ばらしたような状態で展示されていますが当時はおそらく横一列に並んでいたのだろうなと。それらを観覧することができた招待客(おそらくほぼ100%亡くなってる)が少し羨ましいなと思った瞬間でもありました。
というか彼らは現存していない作品も見ていた可能性があるんですよね、嫉妬心がわいてきます(笑)。

私が行った時は丁度神戸市の学生でしょうか、団体客とかち合ってしまい混雑しているのか…と内心少し不安だったのですが、どうやらその団体は常設展かコレクション展を見に行っていたようです。そりゃそうか、(おそらく)中学生の団体が特別展は見ないですよね。
ただそれを抜きにしてもかなり混んでいました。終了3日前最後の平日なので当然と言えば当然なのでしょうが。でも作品自体はすべてゆっくり時間をかけて観ることができたのでそこはとても良かったですね。なぜか軽くもたれてきた婆さんがいたのは少しイラっとしましたが。疲れるのは分かるけど人をそんな風に使うんじゃないよ。

もう一つ驚いたのは「個人蔵」の作品の割合が多かったことでしょうか。素人的な発言で申し訳ないですが(一応学芸員課程を履修して資格も持ってるのに)「なんでこれを個人(企業)が持ってるんだ…」と言う感想を抱いていました。
まあ彼は川崎重工業株式会社創設者ですので何となく所蔵先はお察しできるかもしれませんが、恐らくそういうことなんでしょうね(笑)
三重県立美術館公式サイトにある学芸員だよりでは、学芸員の方が個人蔵の作品を探し出し展覧会で用いることの難しさを書いておられたりしていました。そう考えると、今回の展覧会がどのような難しさを秘めていたのかについても別の視点から見ることができるかもしれません。
学芸員資格を勉強していく中で当然他館や個人などから資料を借りる場合についても軽く習いはしたのですが、実際はそれの数千倍、数万倍大変なのだろうと思うと本当に頭が上がりません。
知らない方のために簡単に説明すると資料を借りる際は借用書を作成し所蔵者や他館の担当者と借りる作品について、傷の箇所など絵に関する情報を隅から隅まで記録していきます。なぜそんな面倒なことをするかと言うとトラブル回避のためですね。元からついていた傷を貸したことで傷ついたとなれば嘘であれ真であれ二度と貸していただけない可能性が高いからです。また自分の館だけで貸してくれないのは最悪良いですが、他の館や未来の作品を受け継ぐ人にも迷惑をかけるためですね。なので、いつからいつまで借りて展覧会終了後いつまでに返却をする。傷など損傷個所の確認を隅から隅まで行う…等の行為は面倒であり一番大切なものだと学んでいて感じたことでもあります。
そう考えると一部テレビ局の対応は最低ですね、視聴者から借りたものを失くすわ壊すわ…学芸員からしたら論外です。

次に行くとしたらどこでしょうかね…確実に年明けにはなりますが。
主の現住所的には大阪と兵庫、遠出できて京都と鳥取くらいですかねえ…。金も時間も無いのが恨めしい所ではありますが(笑)
一応神戸市立博物館における次の特別展はインド独立70周年日印国交樹立70周年『インド近代絵画の精華ーナンダラル・ボースとウペンドラ・マハラティ』だそうです。
これも東京などで開催されそうですね。

あと兵庫県立美術館では2023年3月4日~5月14日まで特別展『恐竜展ー失われた世界の想像/創造』が開催されるのと、大阪中之島美術館では開館1周年記念特別展『大阪の日本画』が開催されるようです。
今のところ興味があるのはこれくらいですね。本当は関東在住であれば東京都美術館の『コレクション展 源氏物語と江戸文化』(1月6日まで)や静嘉堂文庫美術館の『静嘉堂創設130周年展・新美術館開館記念展Ⅰ 響き合う名宝ー曜変・琳派のかがやき』(12月18日まで)、東京国立博物館の『創立150年記念 国宝 東京国立博物館のすべて』(12月11日まで)とか…もうアホほど行きたい…オカネナイカラクダサイ。

今回も長々と読んでいただきありがとうございました。

リンク先です
三重県立美術館学芸員だより

神戸市立博物館展覧会公式サイト


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