見出し画像

獣医師に必要なもの ②コミュニケーション能力

こんにちは、町の獣医さんです。
前回のお話の続きになりますが、
動物病院の臨床獣医師をする上で必要なことについて書いていきます。

前回述べた獣医師免許の次に私が臨床獣医師に必要と思うものは、
表題にあるように「コミュニケーション能力」です。
これは動物とのコミュニケーションという意味ではなく、
人とのコミュニケーション能力のことです。
臨床獣医師として勤務する上で、
私が最も苦労したことは知識や技術についてではなく、
このコミュニケーション能力についてでした。
臨床獣医師のスキルは治す技術だと思ってこの仕事を始めましたが、
人との会話が最も重要であると働き始めてから気づきました。
獣医療の本質はただ動物を治療することではなく、
飼い主様の望む医療を提供することであり、
望む医療の形は様々であり、それを飼い主様と話し合い決めることが何より重要です。
そのためにはコミュニケーションが必要不可欠なのです。

犬や猫などの伴侶動物も牛や馬などの産業動物も、
診療するにあたり動物に触れることが必須です。
これも一種のコミュニケーションではありますが、
動物とのコンタクトには言葉を使った対話ではなくストレスのない接し方が重要であり、
その動物の知識やその動物に触れることで自然と慣れて習得する部分が多く思えます。
ただ、当然彼ら動物から体の状態を聞くことはできず、
また診療した内容から必要な検査や治療の話をしても通じることはなく、
その飼い主様と意思疎通をすることが重要でありここでコミュニケーション能力が必要になるわけです。
このコミュニケーション能力はある程度の向き不向きをあるように感じます。
「コミュ障」なんて言葉もありますしね。
同期の友人は特に苦労なく飼い主様と話している様子でした。
私は「コミュ障」というほどではありませんが、
元々人と話すことが苦手なタイプの人間だったので、
新人時代はかなり苦戦しました。

動物病院でのコミュニーションは、
飼い主様から動物の状態や思いを「聴く」ことと、
診察を通して集めた情報をもとにこれから必要な医療について、
できるだけわかりやすい言葉や表現を用い飼い主様に「伝える」ことです。
私は特に伝え方について苦労しました。
当然教科書通りの文面をそのまま話すだけではいけません。
特に重症であったり命に関わる状況では、
飼い主様の心情を汲んで配慮した言葉を選び伝えることで、
できるだけ飼い主様に心理的に負担をかけず、
理解していただけるようにすることが大切なこととなります。
また、時には治療についていくつかの選択肢が発生することがあり、
飼い主様も迷う、決めかねるシチュエーションも出てきます。
当然獣医師だけで決めることはないとしても、
飼い主様にただ「どうしたいですか?」と聞くこともよくありません。
EBM(データなど根拠に基づく医療)を重視し、
治療それぞれのメリット・リスクを説明しつつ、
飼い主様のお気持ちや希望を汲み最適な選択肢を一緒に考えることが重要です。

私はこれらの技術の習得のため、
先輩獣医師に指導を受け、会話の啓発本も結構読みました。
しかし、まともに診察ができるようになるのに丸2年くらいはかかったと思います。
飼い主様も老若男女・性格も十人十色ではありますし、
一辺倒の話し方で行けることはありません。
また説明するときはただ難しい言葉を使わず分かりやすい言葉に直すだけでなく、
丁寧語を使うこともありますし口語的に、
時に地元の方言を使ってくだけた口調をあえて使うこともあります。
私は元々口下手でありましたが、
おかげさまで今では他人と話すことにほぼ抵抗を感じることはなくなりました。

以上、人付き合いが苦手&動物が好きで獣医を目指した結果、
むしろ人とのコミュニケーションが重要な仕事で苦労した話でした。
ほとんどのサービス業に当てはまることだと思いますので、
なんらかの参考になれば幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?