焼け残り

<焼け残り>
全焼の火事跡にも郵便が届く
炭化した柱と折れ曲がった鉄骨の脇に
黄色い郵便受けが立った
焼けた家の名を小さく記し
足元を分厚い鉄板と煉瓦が支える
私は火に抗うと宣言するように

焼け跡に小さな青いテントが立った
4本の支柱と屋根だけで雨は凌げる
後片付けの時に休むのか
逃げ戻った猫たちのためか
テントを風が吹き抜ける
今日は手紙が届くだろうか

焼け跡を掘る
スコップで鶴嘴であるいは素手で
探すのは燃え残った財産ではない
ここで過ごした幾十年の歳月が
灰の間から出てはこないだろうか
家族と自分の過去を掘り出せないだろうか

焼け残った壁に表札は無事だった
その壁際を掘り進む
悲しみ、苦さ、口惜しさ、恥ずかしさ
とともに立ち上がる微かな怯え
やがて顔を出すひとつの矢印
胸を貫く光のように
おまえは誰だと声がする
ここで何をしていると声が湧く

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